事業の現状について説明する田中敏文・田中電気研究所代表取締役=東京都世田谷区
ダスト濃度計のトップメーカーであり、大手電機メーカーの放射線測定器の製造を請け負う田中電気研究所(東京都世田谷区)は、東京電力福島第1原発の放射能漏れ事故以来、放射線測定器の製造が急増した。
栃木県那須烏山市にある従業員数29人の自社工場をフル稼働させ、多いときは10日間で1万2000台を納入する。2010年12月に自社工場の倉庫を建て直していたため、東日本大震災の被害が最小限に抑えられ、すぐに生産を再開できた。
田中敏文社長は「この国のために今できることを精いっぱいやっている」と胸を張る。風評被害に苦しむ食品などの工場向けにベルトコンベヤー式の放射線測定器も開発する予定だが、現在の需要増に関しては「長くは続かない」と冷静だ。
田中社長の経営哲学に「狡兎三窟(こうとさんくつ)」の精神がある。いざというときのために、多くの逃げ道を用意しておくという意味を持つ中国の故事に倣い、5つは違う分野の仕事を持つことを心がけている。
同社はその多様性を自社製品の開発で実現している。厳密な品質管理が求められる電子機器モジュールの下請け製造で培った技術力を武器に進出したダスト濃度計や環境粉塵(ふんじん)モニターといった環境関連製品はその代表格だ。
ダスト濃度計は部品の調達から基板への実装まで自社で完結できることから、長い耐用年数や低コストを強みとする。
排煙中の煤塵(ばいじん)(粒子状物質)量を連続測定できる光散乱式を採用し、大気汚染防止法の順守はもちろん、電気集塵(しゅうじん)機の運転効率化にも貢献する。
主に石炭火力発電所や製鉄所などで使われているが、清掃工場向けの廉価版や海外向け製品も開発し、幅広い分野への納入を目指している。
海外向けの「DDM-fC」は、タイのマエモ発電所へ8台を納入。今後はベトナムなどにも販路を広げ、アジア進出を加速させる。
このほか、工場内などで粉塵量を連続測定できる環境粉塵モニターの製品化や、太陽光発電を用いた災害発生時の避難誘導塔「AE-TOWER(逢えたわ~)」の実用化に向けた開発も進めている。
業界で長年培ってきた人脈を駆使し、次々と新規事業を立ち上げている田中社長だが、根底には「環境分野で社会に貢献したい」というブレない思いがある。その思いが、ダスト濃度計のJIS(日本工業規格)化へ向けた取り組みへと突き動かした。「JIS化が実現すれば、ダスト濃度計の知名度が増し市場の活性化につながる。環境意識の向上にも貢献できる」と力を込める。田中社長の挑戦は、まだまだ終わらない。(末永有希)
「フジサンケイビジネスアイ」