株式会社M&Aコンサルティング 代表取締役/公認会計士   髙野健二氏

M&Aの相手先探しから買収後の統合まで誠心誠意を尽くす

M&Aを取り巻く状況はどう変化していますか?
以前は、「資金繰りが厳しく、どこかに引き受けてもらわなければ、従業員の雇用や取引先を守れない」というご相談が数多くありました。
ところが最近は若い起業家を中心に、会社がある程度成長したところで売却し、その資金をもとにして次の勝負に挑むという、アメリカのシリコンバレー的な考え方を持つ経営者が非常に増えています。
また経済産業省では、10年ほど前から円滑な事業承継の促進に取り組んできましたが、当時は経営者の年齢のピークが60歳に達した頃で、本人に「まだもう少し頑張れる」という思いもあり、M&Aに抵抗もあるため、事業承継が先延ばしになっていました。ところが、2015年には経営者の年齢のピークが66歳になり、高齢化がさらに進んでいるなかで、先延ばしにしていた事業承継を「そろそろ検討しなければいけない」と考える経営者が増え、利益も出ていてお客様も多い中小企業からM&Aのご相談が多くなっています。
御社のサービスの特徴を教えて下さい。
M&Aの相手先探しから、スキームの検討、バリュエーション(株価算定)、デュー・ディリジェンス(買収調査)、交渉、クロージング、買収後の統合(PMI)に至るまで、M&Aの頭の先からしっぽの先までのご相談をお受けしています。
M&A仲介会社は、売り手側企業と買い手側企業と契約し、双方から成功報酬を得ることが多いのですが、当社は売り手なら売り手、買い手なら買い手の企業とのみ組んでM&Aコンサルティングを行っています。
買い手側についてM&Aを仲介する場合は、買収後に社外役員や顧問として入り、経営が軌道に乗るまでのお手伝いをするケースもあります。
たとえばM&A成立後に会計を始めとする各種システムの統合を行うPMIのコンサルティングを手がける業者も数多くありますが、当社は役員会にも出席し、たとえば人事面や経営面などの深い部分について詳細な話を聞き、アドバイスを行っているのが特徴です。
M&Aの成功にとって最も大切なのは、買収後の統合。たとえば人材の統合についてのアドバイスを行う際には、まさしく「企業は人なり」で、どんな人材をどのポジションに置くかで、統合後の会社の雰囲気がガラッと変わります。やり甲斐もある反面、難しい部分もあり、非常に責任が伴う仕事です。
もう1つ、当社の大きな特徴は、固定費などをできる限り絞り込み、無理のない経営を心がけていること。自社の経営維持のために無理な取引をせず、お客様のために誠心誠意を尽くし、お客様にとって本当に良い案件だけを扱うことに徹しています。
最近、お客様からどんな要望が寄せられていますか?
当初は流通系のお客様が多かったのですが、M&Aという切り口でいろいろな方からご相談を受けるようになり、多種多様な業種を扱うようになりました。
なかでも最近多いのがIT系。あらゆる業種にITが欠かせなくなっていることから、「こんな分野で良いIT企業はないか」といったお問い合わせを数多くいただいています。
AI(人工知能)関連のニーズが多いほか、最近ではITエンジニアの採用が難しくなっているので、エンジニアを確保するためにM&Aを行いたいというご要望も増えています。現在、ITエンジニアは相当お金をかけなければ採れませんし、採用しても定着するかどうかわからないので、エンジニアが揃っている会社を買収するほうがリーズナブルだと考える経営者がかなりいるのです。
その一方で、人材採用がうまくいっているベンチャー企業などの若手経営者から、「企業規模がもう少し大きくなったところでM&Aの相手先探しをお願いしたい」というご依頼をいただいているケースもあります。
コンサルティングで気をつけていることは何ですか?
たとえば、買い手側企業のコンサルティングを行っている時、最も気をつけているのは、売り手側の企業がなぜ会社を売却するのかということです。
実際、会社を売却する本当の理由が明らかにされないこともあります。表面上は良い数字を上げていても、売り手側企業から見れば、将来的に経営が厳しくなることが目に見えているのかもしれません。企業価値を算定する際、そうした競争環境や市場の動向といった、財務数字には表れない要素をいかに読み取るかが大事です。
一方、売り手側企業と組む場合に重視しているのは、お客様にとって大切な条件をどれだけ守れるか、です。
売り手側企業にしてみれば、売却を決定する要素には、価格はもちろん、買い手側企業が従業員の雇用を守ってくれるかどうかなど、さまざまなものがあります。こうした条件をどこまで守り、買い手側企業が提示する条件をにどこまで納得していただくか。そのために可能な限り時間をかけて、売り手側企業によく考えていただく機会を作ることが私たちの仕事です。
売り手側についている場合、買い手側から仲介料はいただきませんが、買い手側ともコミュニケーションを取ってニーズを探ったうえで、売り手側企業に 「ここまでは譲ってくれるかもしれません」と、適宜アドバイスしています。
どんな思いで起業したのですか?
私はもともと独立志向が強く、将来の独立を見据えて会計士の資格を取得しました。会計士の資格を取ったからには、監査業務を通じて、企業の中身についての理解を深める経験を積みたいと思い、監査法人に就職。
その後、独立して何をやるのかを考えたとき、その頃メジャーになり始めていたM&Aに目が留まりました。M&Aの知識やノウハウを身につけるために、証券会社や投資銀行に入る人も多かったのですが、案件を右から左に流すだけでは本物のノウハウは身につかないと考え、事業会社に入って実地を学んだのです。
まずは専門商社に入り、普段は連結決算を担当するかたわら、M&Aのプロジェクトを1人で回していく経験を積みました。
買い手側の企業と緊密な関係を構築しながら、さまざまなM&A案件を持ち込む大手証券会社から中小コンサルティング会社まで、何百人もの担当者と渡り合ってきました。
ところが、「クライアントの立場に立ったコンサルティング」が当たり前のことであるはずなのに、なかなかそれができていません。顧客が満足できるコンサルティング会社がないのなら、自分で始めるしかないと考え、2006年に独立し、M&Aを専門とする髙野経営総合会計事務所を設立したのです。そして同社のコンサルティング部門を2016年6月に法人化したのが当社です。
M&Aに興味がある会計士仲間から、「いろいろな人に会って話す機会が多いのは大変ではないか」と言われることもありますが、私としては本当にやりたくてやっていることで、どこまでが仕事なのか境界線が曖昧なほど。そういう感覚があったから、「M&Aで勝負しよう」とも思えたのでしょう。M&Aコンサルティングは本当に好きでなければできない仕事です。
これからビジネスにどう取り組んでいきますか?
今後は、大手業者のような路線とは異なり、仲の良い弁護士や凄腕のIT系フリーランスの仲間などを巻き込み、事業を進めていきたいですね。
たとえば異業種の企業がIT企業をM&Aで取得したあと、内部にITに詳しい人がいないため、経営に苦労することも少なくありません。そこで、お客様がIT企業を買収したあと、PMIや経営をうまく行っていくためのサポートを提供する構想も温めています。
インタビュー:ジャーナリスト 加賀谷貢樹
BIG4メンバーファーム(現・新日本有限責任監査法人)で上場企業グループ等の会計監査、株式公開準備、買収監査(デューデリジェンス)、株価評価等のプロジェクトに参画。
その後、東証一部上場の専門商社やJASDAQ上場流通企業などのM&A担当・役員・顧問として、企業戦略立案・遂行の最前線で活躍した経験を持つ。
【主な役職】
ゲンダイエージェンシー株式会社(JASDAQ上場) 監査役(現任)、日本公認会計士協会東京会経営委員会委員長(2009年度、同委員会副委員長(2010年度)および同会M&A業務支援プロジェクトチーム構成員長、株式会社ノジマ執行役経営戦略グループ長(2007.6~2008.6)、東京都事業引継ぎ支援センター登録民間支援機関(現任)

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