PRクエスト株式会社 代表取締役 広報コンサルタント 菊池 泰功
企業の社会的価値を高める戦略的広報は「メディアリレーション」から始まる
自社の取り組みを広く知ってもらいたいが、その方法がわからない。プレスリリースを送っても、なかなかメディアに記事に取り上げられないという悩みを抱える企業も多いだろう。その課題を解決するのに鍵なるものが、記事を書けるリリースを作成するノウハウと、記事を書ける記者にそれを届けるためのリレーションの構築だ。ビジネスマンとして2社のIT企業で15年間広報実務に携わり、会社設立以来12年間、IT企業や理工系私立大学の広報サポートを手がける経験豊富な菊池泰功社長に、戦略的広報実践のためのポイントについて話を聞いた。
「書けるプレスリリース」を「書ける記者」に届けるために
- ――テクノロジー、サイエンス、ITをキーワードに、工業系大学やIT系企業の広報活動のサポートを手がけています。まず、民間企業向けにはどんな取り組みを行っていますか?
- 民間企業に関しては、これまで約20社の広報活動をサポートさせていただきました。サポートの内容は大きく分けて、半年から1年といった比較的短期間、もしくは単発の案件、それから3、4年などの長期間にわたる案件があります。両者が半々ぐらいでしょうか。
- 依頼先は、1人起業のベンチャーから、社員数約10万人の業界最大手企業までさまざまです。企業によってニーズも大きく異なりますね。上場企業になると、広報部門がきちんとあって担当者もいますが、中小・ベンチャー企業では広報担当者がいない場合も多く、担当者がいても経験があまりないことが少なくありません。
- 私は起業前に、2つのIT企業で広報を15年間担当した経験があります。その経験を活かし、社外からの立場ではありますが、「自分がお客様の会社の広報マネージャーだったらこんなことをします」というスタンスでサポートを行っています。
- ――菊池さんの長い実務経験が、サポートに活かされているのですね。
- お客様の課題に応じて、広報活動をどう強化すればいいのか、そのためにはどんな取り組みが必要かを提案しています。私の広報経験やノウハウをお客様と共有し、メディアでの記事化という成果に結びつける「共創型サポート」が当社の特徴です。
- 今、IT分野の中堅上場企業の広報活動をサポートしています。その会社の広報担当者は比較的若く、1人では手が回りきらない、記者とのリレーションも強化が難しいということで社長からサポートの依頼がありました。
- ――たとえば、企業の広報に関する課題や要望にはどんなものがありますか?
- とくに多いのは、次の3つですね。
- ・プレスリリースを発信しても記事にならない
- ・新製品の記者発表会を開催したい
- ・広報代理店を使っているが成果が出ない
- 広報活動を行ううえでプレスリリースは必須ですし、できれば取材もしていただき記事化もしたいところです。そのためにはメディアリレーションの強化が必要です。そのメディアリレーションも、どれだけの媒体を対象にするかによって、必要になる手間暇も変わってきます。
- 経験が長ければよいとは一概にはいえませんが、PRクエストとして10年以上広報サポートを手がけてきた経験値やノウハウが、お役に立てる企業さんも多いのではないかと思っています。
- ――豊富な経験をもとに、どんなサポートを行っているのですか?
- 新聞社や出版社の記者と、きちんと関係を築いてお付き合いができていない企業も多いので、まずはメディアリレーションを構築しましょう、というところから始まります。
- ただし、関係を構築するといっても、単に記者と会って仲良くなればいいということではありません。
- 上の図にあるように、メディアリレーションは、プレス対応の最も基本となるものです。ピラミッドのメディアリレーションよりも上が、プレス対応における具体的な活動で、まずプレスリリースを作ってメディアに発信しましょうということです。
- そのプレスリリースも、作ったことがない企業もあれば、作ったことがあっても自己流で、それを記者に渡しても記事を書いてもらうのは難しいということが多々あります。
- そこで、記事として取り上げてもらえるような、効果的なプレスリリースを作るためのお手伝いをしたり、場合によっては作成の代行も、発信もするわけです。
- 私はお客様に、(記者が)書けるプレスリリースを作り、書ける記者に渡すことが大事ですとよく話をしています。記事を書けないプレスリリースを、書けない記者に送っていることがよくあるからです。
- だから、まずその点を改善し、記事に取り上げてもらうという成果に結びつけるため、プレスリリースの改善を含めて広報活動のお手伝いをしています。
- ――書けるプレスリリースであるためには、「記事を書きたい」と記者に思ってもらえるポイントがなければいけないということですね
- はい。「これはニュース性がある」と感じてもらえるように紹介する必要がありますね。
記者が「記事を書きたくなる」プレスリリースとは?
- ――プレスリリースの作成について、どんなアドバイスをしていますか?
- まずは、社会性と時流を考えましょうと話しています。要は、伝えたいことが社会的にどんなメリットや意義を持っているのか、そしてそれは今の時流に合った話題であるかどうか。加えて新奇性、つまり新しい何かがあり、その企業の独自性があるかどうかがポイントです。
- この3点がすべて揃っていれば理想的ですが、そうでない場合は、どこかをとくに浮き彫りにして、そのポイントに関心を持ってもらえるような書き方をするわけです。
- ところが私の親しい記者たちは、「最近、広告宣伝やチラシのようなプレスリリースがよく送られてくる」と話しています。実際、営業的な発想で自社の製品やサービスを紹介していることが多いと思います。
- ――営業的な発想だと、どんなプレスリリースになりがちですか?
- こういう機能が優れていて、このように役立ちますというストーリーが、自社目線で展開されていて、ユーザーや買い手にとってのメリットがよくわからないのです。
記者発表会を開催することで得られるこれだけのメリット
- 自社の商品やサービスをメディアに取り上げてもらううえで非常に効果的なのが、記者発表会の開催です。その理由は大きく分けて3つあります。
- 第1に、記者にプレスリリースを送るだけでなく、記者発表会に参加してもらうことで、記事化につながる可能性が高まること。第2に、記者発表会では同時に複数のメディアの記者に対して説明ができるので、より多くの記事掲載が期待できること。そして第3が、記者発表会の模様は写真入りで大きく、インパクトのある記事で紹介されることが多いことです。
- ――記者発表会を開くことで、どんな効果が期待できますか?
- まず、記者発表会を開催できるレベルの企業として、メディアからの認知度と評価が高まります。また記者にしてみれば、単にプレスリリースを読むよりも、記者発表会に参加したほうが、商品やサービスがより強く記憶に残ります。そしてさらに、記者発表会の主催企業のトップや事業責任者が登壇することで、記者との顔の見える関係が構築できます。
- 当社では、記者発表会の企画から開催の準備、記者への案内や集客、発表会の運営まですべての業務をサポートしています。新商品や新サービスのリリースなどに合わせて、スポット的に記者発表会を開きたいという企業からの依頼にも対応しています。
メディア対応の経験値やノウハウをお客様と共有し、結果を「共創」する
- ――広報代理店とは異なる御社の特徴は何ですか?
- まず、私自身の企業広報の経験をもとに、お客様の企業の広報担当者、さらには経営トップの発想やニーズを理解したうえで、広報戦略から戦術、実施までのシナリオを描き、対応できることです。
- また、テクノロジー、サイエンス、ITという、当社が対象としている分野の事業内容を理解したうえで、業界や市場の中でより効果的な広報サポートを企画・提案することが可能です。
- もう1つは、メディアでの記事化を実現するという結果にこだわり、そのために効果的なサポートを、責任をもって実施することを心がけていることです。
- 広報関連部署の担当者はもちろん、広報担当役員、管理職(部長・課長)までさまざまなポジションの方をサポートし、土日祝日を含めて1年365日対応が可能です。
- 私自身、IT業界の広報を合計28年間手がけてきたので、関連媒体の多くの記者とリレーションがあり、とくに主要経済産業紙と強い関係を持っています。
- ――メディアリレーションを強化するために、どんなサポートを行っていますか?
- 基本的には、取材の提案からアレンジ、実行まですべてを包括してサポートしています。とくにサポート開始当初は、メディア対応のかなりの部分を代行させていただくことがよくあります。
- お客様に親しくお付き合いしているメディアや記者がいれば、そちらの対応はお任せします。でも「日刊工業新聞には記事を載せてもらったことがあるけれど、日経新聞には取り上げられたことがない」という場合、「では私のほうでは日経さんにアプローチしましょう」という形で、取材のアレンジから記者への対応まですべてをサポートしています。
- 「こうしたらいいですよ」とか「この記者さんにコンタクトしてみたらどうですか」とお客様にアドバイスするだけでは、なかなか記事掲載という成果には結びつきにくいですね。
- ――提案するだけでなく、一緒にやってみて成果が出ると、企業さんも「こうすれば成果に結びつくんだな」ということがわかりますね
- そうですね。経験の浅い担当者の方でも、一緒に2、3年仕事をしていると、メディア対応についてはほぼ一通り理解・実行ができるようになります。その中で、私が持っているメディアとのリレーションもお客様に引き継がれます。
- お客様との共創という考え方で、私の経験値やノウハウを吸収していただくことを目標にしています。
- 企業内でいえばOJTのような形で、若い社員がベテランや先輩社員について学ぶやり方です。私はもちろん上司ではありませんが、OJTのような形で私も入らせていただきながら、一緒にやってもらうことが一番だと思っています。
メディアリレーション構築の鍵は「ファンづくり」にある
- ――メディア対応の基盤として、菊池さんはメディアリレーションの重要性を強調されています。そのポイントは「ファンづくり」にあるということですが
- 自社のファンやサポーターになってくれる記者を、いかに作るかが大事ですね。いきなり10人や20人は無理ですが、1人でも2人でも、お客様の会社のファンになってくれる記者をしっかり創っていくことに、今最も注力しています。
- 私自身が心がけているのは、まず自分がお客様の会社のファンになること。私がお客様のファンであるからこそ、広報サポートをさせていただく私の説明を通じて、メディアの記者たちに、お客様の思いが通じるのだと思います。だからまず、私がお客様の会社の良いところを発見し、しっかり理解する、ということが重要ですね。
- また、広報サポートを行う私自身が、記者の皆さんにとって役立つ存在にならなければいけません。記者の方が何を求め、期待しているのかということを理解し、きちんと対応できるかどうかが問われます。
- 記者の皆さんから見れば、それはたとえば、お客様の会社の社長や、その分野に強い専門家との間をつないでほしいということかもしれません。そういう対応ができていたから、これまで長く活動を続けることができたのではないかと思います。
- ――企業がメディアにファンを作るための秘訣は何でしょうか?
- 何が記者の関心を引くのかということは、人それぞれで、どちらかというと記者本人の嗜好や経験に左右されます。もともと興味のない人に、いくら説明しても興味を持ってもらえません。関心を持っている人に説明すれば、理解も早く、興味がいっそう高まります。だから、自社がPRしたいテーマに合った記者を見つけられるかどうかが大きいですね。
- ――「こういう話題はこの記者に情報を提供しよう」という、リレーションの「引き出し」をたくさん持っていることが大事になりますね
- そうですね。たとえば私は一度会ったことのある記者なら、「この人は何が好きで得意なのか」、「過去にどんな分野を手がけていたのか」ということをできる限り理解したうえで、何を切り口にすればその記者の興味が高まるかを考えます。
「ヒト・モノ・カネ・情報・広報」を制する企業は市場を制す
- ――経営者の方に広報について理解してもらいたいのはどんなことですか?
- 結局のところ、企業の広報活動がうまくいくかどうかは、社長の方針次第だと思います。社長が広報に力を入れようと思わない限り、現場はなかなか積極的には動けないのです。
- 広報は営業と違い、短期間で目に見える成果は出しづらいかもしれません。でも広報は、企業の社会的価値を高めるために必要不可欠な機能であり、役割です。だから長い目で見て広報活動を理解し、社長自らが広報活動を支援し、協力することが大事だと思いますね。
- 昔から「ヒト・モノ・カネ」が経営の三大資源だといわれ、今では情報がもう1つの重要な経営資源だと認識されるようになりました。そしてさらに、私はこれから広報が、企業の新たな経営資源として、価値を増してくると考えています。
- つまり、経営において、ヒト・モノ・カネ・情報に加え、広報が重要な経営資源になるということです。
- 実際、広報は企業経営でも重要な役割を担っています。その最たるものが、社長の思いを社外に伝えるということです。
- 仮に、大勢のマスコミの方が取材に来てくれたとしても、全員が毎回社長に会えるわけではありません。だから広報担当者が代理役を務め、社長の考え方や思いをしっかり掴み、それをメディアにわかりやすく伝えるのです。そして、数多くの記者の中から、社長の思いをまず伝えるべき相手と良好な関係を構築したうえで、取材をセッティングし、実際に会ってもらうのです。
- ――広報活動が、経営面に貢献するのはどんなことですか?
- そうですね。たとえば自社の取り組みがメジャーなメディアで取り上げられたことで、銀行の融資枠が増えたという話をよく聞きます。今まで1億円だったものが急に2億円になったというぐらい、メディアに対する銀行の評価は高いのです。これも、会社がメディアに取り上げられることで社会的な評価が高まることの一例ですね。
- それから、新製品や新サービスがメディアで記事化されたことで、売上がすぐに伸びなかったとしても、販売チャンネルが広がったとか、パートナーが見つかったという話がよくあります。
- ベンチャー企業や中小企業の場合でも、たとえば大手企業とパートナーシップを組むときに、「このメディアでこう記事に取り上げられています」という実績があると、相手方の評価が高まり、契約がスムースにいくことがかなりありますね。
目に見える大学の「カンバン」を作り、「選ばれる大学」になるための広報活動をサポート
- ――その一方で、大学に向けても広報サポートを行っています。
- これまで、3つの私立大学、1つの国立大学の広報アドバイザーを務めました。2016年からは、埼玉工業大学(埼玉県深谷市)さんに対して継続的に広報活動をサポートしています。
- たとえば今年3月には、同大学が開発した水陸両用バス「八ッ場にゃがてん号」の世界初となる無人運航の公開実証試験の模様を、自動車関連の専門媒体や複数の新聞に記事として取り上げていただきました。
- この実証試験は、日本財団が手がける無人運航船プロジェクト「MEGURI2040」の一環として、ITbook ホールディングス(東京都中央区)を代表とする「水陸両用無人運転技術の開発 ~八ッ場スマートモビリティ~」のコンソーシアムが、群馬県長野原街の八ッ場あがつま湖で実施したものです。埼玉工業大学さんが、大学としては唯一のコンソーシアムメンバ―として参加しています。
- 同社が広報サポートを行っている埼玉工業大学の自動運転関連特設サイト
- https://saikocar.sit.ac.jp/
- 埼玉工業大学さんのこうした取り組みは、大学の「カンバン」づくりの一環です。通常の研究室とは別に、特別に学長直轄組織を設けて自動運転技術の開発を行っているのです。
- 同大学はまた、NHK大河ドラマ『青天を衝け』の放映に合わせて、自動運転バス『渋沢栄一 論語の里 循環バス』を地元の深谷観光バスさんと共同で運行しました。運行期間内(昨年2月16日~今年1月10日)に同バスは、合計約1万キロの自動運転走行を達成しています。
- ――最近、大学が目玉になるようなプロジェクトを立ち上げて研究に取り組んでいる例をよく見かけます
- 埼玉工業大学さんの自動運転技術研究開発プロジェクトも、そういうカンバンづくりの取り組みです。かつて受験者数が減少した同大学では、今から6年前に定員割れが起きました。これからどう体勢を立て直すかについて検討がなされる中で、私はたまたま紹介を受けて、同大学の広報サポートをさせていただくことになったのです。
- これまで私が広報サポートを担当させていただいた大学では、受験者数が減少する中でどう学生を集めるか、また大学の認知度をどう向上させるかという大きな課題を抱える大学もありました。
- もちろん大学側でも、さまざまな努力をしていました。ですが結局、次年度の受験生をどう集めるかという、目の前の問題に一生懸命になってしまう傾向が強いのです。
広告宣伝活動と広報活動は異なる
- ――ということは、高校生に向けて一生懸命に情報発信をしていたということですね
- はい。いかに多くの高校生に受験してもらうかという課題に注力して、一生懸命にアプローチしていたわけです。でも、そこにばかり目を向けて経営資源を投入すると、大学の価値を伝え、広く理解を得るという、本来なすべき広報活動がおろそかになってしまうのです。
- 学生を集めるための広報のことを、入試広報といいます。この入試広報に比重がかかりすぎると、大学のブランド力を高めるための広報活動が後回しになり、ますます受験生が減るという悪循環に陥ります。
- そこで私は、外部からの立場から客観的に状況を捉え、「選ばれる大学」になるための1つの手段として、広報活動を強化するためのお手伝いをしているわけです。
- そこで提案させていただいたのが、まず大学のカンバンや顔になるものを作りましょうということでした。これは、少なくとも1年やそこらでできる話ではありません。
- 3年や5年という期間を要するので、それをやり始めたからといって、次年度の志願者が増えるかどうかはわかりません。でも長い目で見て「急がば回れ」で、3年や5年後の目標達成に向けて、地道に取り組んでいけば着実に成果は出るのです。
- カンバンを作ることのほかに、私が提案したのは、広報活動の手法です。大学広報は多くの場合、広告宣伝と混同されています。
- ――広告宣伝と広報の違いですね
- ほとんどの大学の広報部門で行われているのは、広告宣伝活動なのです。それは、大学案内や受験情報関連のサイトなどに、料金を支払って大学の情報を掲載してもらうということです。
- それとは異なり、民間企業のようにプレスリリースを出し、メディアリレーションを構築して記者に記事を書いてもらう。そのために取材を受けたり、記者発表会を行うのです。
- そこで、プレスリリースの作成、取材、記者発表開催という三点セットのプレス対応を、一般企業と同じようにやりましょうと提案させていただきました。
- いわゆる「朝毎読」の一般全国紙に記事を書いてもらえると、家で親が記事を読み、その内容を子どもに紹介するという効果も期待できますが、そう簡単には実現しません。そこで提案したのは、企業の方がよく読む日本経済新聞を始めとする経済産業紙での記事掲載です。
- つまり、「入口」と「出口」を意識して認知度を高めるということです。大学にとって入口は受験生を抱える高校であり、出口は学生の就職先となる企業。だから入口だけに目を向けるのではなく、出口にも目を向け、企業側から見た大学の価値、評価を向上させることが重要です。
- そこで、その出口側に影響力を持つメディアに記事を取り上げてもらうために、広報活動を強化することを、大学側に勧めました。
- ――ニュース価値のある話題の掘り起こしは、どう提案されたのですか? 取材先ではあまり価値がないと思っていることでも、記者から見て、非常に面白いと感じることがあります
- ありますね。大学で行われている個々の活動を見ても、先進的だったりユニークな取り組みがたくさんあります。ところが、外から見て非常に面白いと思うことが、内部ではなかなかわからないことが多いのです。
大学のブランド価値が向上し、志願者・学生数が増加
- ――埼玉工業大学さんの場合、自動運転をカンバンにして広報活動をしていますね
- そうですね。先ほど紹介した水陸両用の無人運航バスの写真は、埼玉工業大学さんの自動運転特設サイトに掲載されているものですが、このサイトの制作も私が提案しました。
- 大学を挙げての自動運転技術研究開発プロジェクトが始まり、ようやく実績が出始め、メディアでも断片的に紹介され始めた頃ですが、それをもっと目立たせ、広く知られるようにしたいと考えたのです。
- ――こうした取り組みによって、どんな成果が得られたのですか
- まず受験者数が着実に増加し、定員割れはすぐに解消しました。とくに目玉の研究プロジェクトの自動運転を手がけている先生の所属する情報システム学科定員は150名でしたが、入学者がそれを大幅に上回り、全学の入学者の約半数が同学科を希望するようになるほど人気が高まりました。
- 最近のAIブームやDX人材ニーズの高まりという社会的背景も大きいですね。埼玉工業大学さんでは、国内でデータサイエンスを専門的に学べる学科がまだ少なかった3年前、情報システム学科にいちはやくAI専攻を設けました。それをきっかけにして学生がより多く集まるようになり、そこに自動運転という研究がうまく結びつき、志願者がさらに増加したのです。
思いを共有できる広報サポートのパートナーを求める
- ――今後、目標にしていることや、手がけていきたいことは何ですか?
- これまで12年間、基本的に1人で広報サポートを行ってきました。自分で企画して取材し原稿も作ることの良さもありますが、1人での活動には限界があるのも事実です。業務体制を改善すれば、より多くの企業や大学に対して、これまでの経験を活かしたサポートができると思います。そこでパートナーと共に連携し、チームで動けるような方向を模索しています。
- 当社はテクノロジー、サイエンス、IT分野に焦点を絞っていますが、ひとくちにサイエンスといっても、化学と物理では世界が大きく違います。医学や薬学といった生化学分野もあれば、宇宙関連分野もあります。こうした広いジャンルをマルチにこなせる人は非常に少ないので、専門分野に強く経験豊富な複数のライターさんや広報関係者と連携できればと思います。
- ほかにも、広報サポートの経験があり、私と同じような思いを抱いている方と一緒に連携していきたいですね。広報活動には「こうすれば必ずうまくいく」という正解はなく、担当者個人のセンスや経験値に左右される部分が大きいので、考え方やセンスがうまく合う人とパートナーシップを組むことができれば幸いです。
- 「取材・構成 ジャーナリスト 加賀谷貢樹」
代表取締役 広報コンサルタント
1958年生まれ。東京都出身。
1982年 国際電気㈱入社
1985年 日本データゼネラル㈱入社
1990年 日本タンデムコンピューターズ入社
1994年 同社 広報担当になり、96年広報マネージャー
1998年 日本SGI㈱入社。以降11年間広報部門長として広報活動を統括
2009年 広報コンサルティングのPRクエスト㈱を設立
主な経験
IT業界に27年間勤務し、後半の15年間は広報部門にて報道対応広報の担当と部門統括報道対応を中心に、多数の記事やパブリシティの掲載実績を持つ。 スーパーコン、CG、放送、サイエンス、ロボットなど技術分野の広報で豊富な経験。