WIPジャパン株式会社 代表取締役社長 上田 輝彦
海外営業人材を養成し日本語以外のビジネス展開を支援
日本企業のグローバル化、多言語化を支援するWIPジャパン(ウィップ・ジャパン)が従来の翻訳・通訳・海外市場リサーチに加え、英語でプレゼンテーションができる海外営業人材の養成に乗り出した。人口が減少する日本市場にこだわっているとビジネス機会が失われるからで、上田輝彦社長は「日本語以外の市場へのビジネス展開が不可欠になる。『多言語ビジネス支援NO.1』を標榜する企業として、その手伝いをする」と話す。
- ――新型コロナウイルス感染拡大で止まっていた海外との交流が復活しつつある。ビジネスの現状は
- 当社は世界414都市に広がるネットワークを生かし、累計1万2000社の顧客に高度な多言語運用力が必要とされるサービスを提供し、順調に業容を拡大してきた。しかしコロナ禍を契機に通訳業務などは需要が激減したが、2022年春ごろから需要が回復してきている印象だ。フルタイムの通訳者派遣は、20年に大きく減少し、21年にはいったん新規ゼロになった。つまり、コロナ禍で通訳者を社内に常時抱える必要はなくなり、欲しいときにスポットで通訳者を確保すればいいとなったわけだ。しかし22年はコロナ禍前の19年より件数が大きく上回った。半日や一日といったスポットの通訳案件も、20年に大きく減少、21年にはコロナ禍前の3分の1程度に落ち込んだが、22年には19年比12%超増加した。
- ――コロナ禍の経営はどうだったのか
- 大打撃を受け、売り上げは大きく減少した。減少幅を埋めるまでにはいかなかったが、広告への投資、中央省庁・自治体の海外調査受託、海外向け通販事業関連調査、人材事業強化が少しずつ実を結んでいる。またウィズコロナ、アフターコロナを踏まえ『予訳』のような通訳マッチングサービス、海外営業や越境ECに関する教育研修事業、海外向けサイト多言語化支援サービスの立ち上げに力を入れていく。
- ――世界規模で経済が動き出したということか
- 翻訳案件は、ビジネス上の契約がある程度固まり日本語原稿が確定した状態で依頼を受けることが多いので、需要は落ち込んだままだが、通訳はプロジェクトなどの実現可能性を探るミーティング段階から発生する。通訳業務は国際経済の先行指標と感じており、22年に通訳需要がコロナ禍前を上回ったことから考えると世界的に経済は動き出したといえるのではないだろうか。実際に通訳者は忙しくなっており、優秀な人はスケジュールが埋まってきた。
- ――どんな企業が通訳を求め始めたのか
- 海外資本を受け入れた精密機械メーカーはマネジメント層との英語でのコミュニケーションを取らなければならなくなり、22年春ごろ通訳人員を増やした。22年秋には、中国とタイの市場開拓のためのデスクリサーチや海外営業、貿易実務を強化したい食品メーカー、売買仲介に関する海外顧客対応が必要となった不動産会社などから需要が発生した。また外資系の輸送機メーカーや電子コンテンツ提供サービス会社は通訳者の退職による欠員を補充した。国際間の経済が動き始め、優秀な通訳者の奪い合いが始まったといえる。人材市場が活性化していると感じる。
- ――海外市場に進出する日本企業は増えている
- そこに我々のビジネスチャンスがある。日本の人口は30年後には9300万人を下回るといわれている。現在より約3200万人も減少するわけだ。それはまさに『日本語市場』の急減を意味する。『あなたの商品・サービスは日本人だけが買うものなのか』というと決してそうではない。世界中にあなたの商品・サービスを求めている人がいる。だから日本語だけにこだわらず、『日本語以外の市場』に目を向けないとじり貧になるのは間違いない。外国語・多言語市場への展開が不可欠であり、そのお手伝いを我々が行う。
- ――具体的には
- 世界で商品・サービスを売るといっても『英語ができるわけではない』という企業は少なくない。こうした英語が苦手な社会人向けに昨秋、『海外営業実践入門講座』という研修を実験的に始めた。講座が終了したとき、海外販路拡大についての基本的な実務知識を高め、海外向けセールスライティングを会得。さらに英語での自己・自社紹介、英語でのプレゼンテーション資料の作成・説明ができるようになる。最低限でも英語で自己・自社紹介を1分で話せるように暗記することを勧めている。あとは通訳に任せればいいからだ。講座は講義70%、演習30%で、配布する資料に沿って進める。英語で話せて営業できる人材を社内に揃えておけば、日本の数十倍の市場にアクセスでき、会社の業績に大きなインパクトを与えるのは間違いない。次回は4月ごろの開催を予定している。
WIPジャパン株式会社 代表取締役社長
福井出身。上智大学法学部卒。1989年住友銀行(現三井住友銀行)入行。英国ケンブリッジ大学大学院留学(歴史学部)を経て95年ワールドインテリジェンスパートナーズ(現WIPジャパン)創業。