オフィスエム 共同代表   五十嵐 正明

起業家のアイコン目指す

SBI損害保険社長を2024年6月に退任した五十嵐正明氏は、コンサルティングなどを手掛ける「Office M」を7月1日付で立ち上げた。スタートアップ企業の成長支援や起業家育成に乗り出すとともに、チャレンジャーの立場で飲食事業とアパレル事業に参入する。設立に当たり共同代表制を取り入れた。代表して五十嵐氏に起業の狙いなどを聞いた。

――ビジネスコンセプトは
ビジネスパーソンのMeet(出会う)、Make(夢を実現する)、Mind(心の充実)をサポートする。3つのMはビジネスとして成長していくには大切なこと。1人では難しいこともパートナーと出会い、つながればうまくいくし、目指すゴールに向かって正々堂々と稼げばいい。そのためには挫折しても乗り越えられる意志や心の豊かさも必要だ。
――共同代表ということだが、2人の役割分担は
SBI損保時代の秘書が共同代表を引き受けてくれた。社長と秘書の関係はなくなり、共同経営者だ。運用ルールはたった一つ。2人が納得してビジネスを進めるということだけ。どちらかが「違う」と言えばビジネスから手を引くし、案件も引き受けない。シンプルルールで2人は対等だ。
そのためにも、それぞれが強み、得意を発揮できるコンビネーションを大事にしていきたい。異なる個性がぶつかり、新たな潜在パワーを創出できるからだ。私は運営・コンサルを主に担う。経営者としての潤沢な経験に加え、これまでに培った人脈や信頼関係をベースとした事業展開を進めたい。
――彼女に求めることは
経営・マーケティングを任せるが、秘書としての経験を生かしてほしい。コミュニケーションスキルが高く、仕事をしやすい環境をつくるのに長けている。また女性ならではの優れた感性をビジネスに反映してもらいたい。私のもとで3年間秘書を務めたが、1年目は「ザ・秘書」という感じで3歩下がってサポートしていたが、最近は対等に話せる関係になった。時には私の考えにダメ出しをするし、自分の意見も言う。
――事業内容は
3つのコンセプトを4つの切り口で実現する。Makeに当たるのがコンサル・アドバイザリー事業で、スタートアップを対象に事業計画の策定やビジネスモデルの検証、経営課題の分析などを支援する。2番目はサロン運営・ビジネスマッチング事業でMeetにつながる。若手起業家、事業会社、投資家、支援者をつなぐ。定期的に交流会も開催する。Mindに当たるのがセミナー開催・情報発信事業。講演会のほか、Youtubeなどでビジネスノウハウを発信する。最後はアライアンス・パートナーシップ事業で、パートナー企業や協力者とのコンサル分野での協業や相互送客を行う。これによりパートナーとのウイン・ウインの関係を構築する。4つの切り口から、スタートアップなどが考えたビジネモデルの実現を手伝う。
――挑戦する飲食事業とアパレル事業とは
保険ビジネスしか知らない我々にとって初めての世界になるが、自力でチャレンジする。自分たちも一人の起業家として、自力でビジネスモデルを構築し、資金調達も行っていくつもりだ。このうち飲食事業ではキューバサンドイッチを始める。私の発案に対し彼女が応じてくれた。東京・蔵前に(調理とデリバリーに特化した)ゴーストキッチンを設け、飲食宅配代行サービス会社にキューバサンドを運んでもらう。厨房のみで路面店は置かない。
古着を扱うアパレル事業は彼女のアイデアだ。20歳代男性のカジュアルウエア(ストリートファッション系)をEC(電子商取引)サイトで扱う。サステナブルでSDGs(持続可能な開発目標)にもつながるので、これからの時代にふさわしいビジネスと言える。両ビジネスとも経験も知見もないのでパートナー企業と組んで一緒にビジネスモデルを創っていく。単独では無理でも適切なパートナーと組めば十分戦えるということを証明したい。
――チャレンジする狙いは
起業してアイデアを形にしたいと思う若者、女性、ミドルエイジ、シニアは少なくないが、実現は難しい。我々がチャレンジすることで、これからの新しい起業スタイルを示せたらと思う。成功モデルを創出して女性やシニアの起業を後押ししたい。彼女とともにアイコン(象徴的存在)になる。
――そもそも2人で立ち上げた理由は
昨年夏に「今期(24年3月期)で社長を卒業して、来期から自分の好きなことをやる」と決めた。彼女に起業意志があると知っていたので共同経営のアイデアを投げかけてみた。その時点では具体的な事業の骨格は固まっていなかったが、それでも「一緒にやる」といってくれた。彼女の「いつか、自分の会社を起こしたい」という思いは、私自身の気持ちと同じだと感じた。チャレンジする機会が何回も来るわけでもないし、まだ若いのでチャレンジが大事だと考え、決断してくれた。
――将来構想は
私が大事にしている言葉に「ラスト・ワン・マイル」がある。「最後の1マイル」という意味だが、ビジネスの世界でも「あと一歩のところで目的地に手が届かない」ということは多い。アイデアが足りない、経験が足りない、資金が足りない、人脈が足りない、共に戦う仲間が足りない、など様々だ。こうした人たちの「最後の1マイル」をつなぐことが、我々のミッションと考えている。
――起業する環境は整ってきた
今の時代は、起業を後押しする環境やインフラ、価値観が醸成されつつある。我々も新しいビジネスの考え方(非対面、シェアリング、ソーシャルネットワーク、アジャイル、越境、サステナブル)を基本にしつつ、コンサル事業、飲食事業、アパレル事業を3本柱に育てたい。親しい友人から「小さな夢はダメ。夢は大きく持て」と激励を受けた。2人ならチャンスは2倍、リスクは半分と考えて、これからのチャレンジを楽しみたい。

五十嵐 正明(いがらし・まさあき)
オフィスエム 共同代表

東京都出身 1984年 立教大学法学部卒、生保会社、損保会社などでキャリアを積んだのち、2007年 少額短期保険会社を起業。少額短期保険協会専務理事を経て2016年 SBIグループに参画、2019年よりSBI損害保険社長として同社の業容拡大を牽引。2024年6月退任し、同7月オフィスエムを創業、共同代表に就任

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