中堅企業にも求められる移転価格税制対応

第5回

企業はどのように移転価格税制におけるリスクを回避すべきか

朝日税理士法人  山中 一郎

 

移転価格税制におけるリスクとは?

 

移転価格税制とは、企業が海外子会社等と取引をする場合に、現実の取引価格ではなく独立企業間において通常設定される価格(独立企業間価格)を用いて、これを基に課税所得を計算する制度です。近年、大企業だけでなく、中堅企業も税務当局の移転価格調査の対象となって来ていることは、すでに第1回のコラムでご説明したとおりです。

 

移転価格税制における企業の一番大きなリスクは、所在国の税務当局から移転価格調査で申告漏れを指摘されて、過去にさかのぼって所得を更正されて多額の税負担が発生し、それが企業グループ損益に影響を与えることです。また、移転価格に関する文書化作成の義務を怠ったり、同一取引について国ごとに異なる説明をしたりすることで、コンプライアンス上の問題に発展することも、企業にとってのリスクです。

 

多くの企業では、移転価格税制についての知識不足、現状の認識不足などから、そのリスクに対処できていないのが現状です。

 

移転価格税制におけるリスクを回避するために重要な事項

 

移転価格税制におけるリスクを回避するためには、以下が重要です。

 

1 日本と海外子会社所在国の移転価格税制に関する正しい理解

 

移転価格税制は日本だけでなく、世界各国で導入されている税制です。例えば、日本側に多くの利益が計上されていて、日本でのリスクが低い場合には、逆に取引相手国でのリスクが高まることに要注意です。

 

2 海外子会社との取引状況・損益状況の把握

 

企業グループが成長している局面では、海外子会社との取引内容・条件・取引量といった状況や、当該取引に係る価格・コストといった損益状況は変化するのが一般的です。移転価格税制におけるリスクに対処するためには、これらを継続的にモニタリングして、変化があった場合は、社内の移転価格税制に係る所管部署に適示に報告する体制が必要になります。

 

3 移転価格文書の必要に応じた作成

 

平成28年度の税制改正では、原則として、①国別報告事項、②マスターファイル、③ローカルファイルの3つの移転価格文書の提出、または、作成・保存が義務化されました。その義務は、連結売上高や海外子会社との取引金額が一定未満の場合には免除されます。文書の種類ごとに作成義務の有無を検討し、必要に応じてそれを作成することが必要です。

 

 

移転価格税制におけるリスク減少のために最も有効な手段は、税務当局に対して説得力のある移転価格文書を作成することにつきます。適切に移転価格税制におけるリスクを判断し、法令に準拠して、また必要に応じて移転価格文書を作成する必要があります。

 

以上

 

プロフィール

朝日税理士法人
公認会計士・税理士 山中 一郎


朝日新和会計社(現あずさ監査法人)退職後、現在は朝日税理士法人代表社員および朝日ビジネスソリューション株式会社代表取締役。


国際税務業務、海外進出支援業務の他、株式上場支援業務、組織再編、ベンチャー支援等 の税務・コンサルティングサービスを行っている。


主な著書: 「図解&ケース ASEAN諸国との国際税務」(共著/中央経済社)、「図解 移転価格税制のしくみ 日本の実務と主要9か国の概要」(共著/中央経済社)、「なるほど図解M&Aのしくみ」(共著/中央経済社)、「事業計画策定マニュアル」(共著/PHP) など多数


Webサイト:朝日税理士法人

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