中堅企業にも求められる移転価格税制対応

第4回

移転価格税制と業績管理

朝日税理士法人  山中 一郎

 

今回は、移転価格税制と業績管理の関係を見て行きます。移転価格税制では、「独立企業間価格」を使うことが求められますが、これが企業グループの業績管理上の取引価格と異なるときはどのように対処すれば良いのでしょうか?

 

業績管理の目的から決定される価格とは?

企業グループは、その利益を極大化することが至上命題です。その達成のために、グループ内のそれぞれの企業の業績管理が行われます。単体企業の業績管理の基準はグループによってそれぞれ異なりますが、例えば、売上高、利益、営業キャッシュ・フロー、戦略達成への貢献度、グループ内部への効率的な資源配分などといった基準が用いられます。

 

単体企業に海外グループ会社との損益取引が存在する場合、取引価格によって当該単体企業の業績が左右されるため、そのモチベーションの向上などを目的として、グループ内の取引価格を政策的に決定する例が多く見受けられます。

 

一方、移転価格税制では、海外取引の価格は「独立企業間価格」であることが求められます。業績管理の目的から決定される取引価格と独立企業間価格が異なる場合、その調整が問題となります。

 

価格が異なる場合の対処方法

業績管理目的から決定される価格を利用する場合、その価格が「独立企業間価格」として認められるかどうかを、まずは検討する必要があります。そして、それらが異なる場合、企業グループが業績評価の基準を変えて取引価格を「独立企業間価格」に変更するのか、もしくは独自の取引価格を用いたまま、移転価格税制は税務調整によって対応するという2つの手法が考えられます。

 

ただ「独立企業間価格」は必ずしも一つの方法により求められる単一の価格ではありません。現行の取引価格が「独立企業間価格」として認められないと判断されて価格を変更する場合でも、どこまで変更すればそれとして認められるのかは、取引の状況に照らして綿密に検討する必要があります。

 

また「独立企業間価格」とは異なる独自の取引価格を用いる場合、税金の計算上、調整を行わないと、日本と取引相手の海外グループ会社所在国との間で二重課税が発生するリスクがありますので、それについての検討も必要になります。

 

海外にグループ会社を設立してビジネスを展開していく上では、様々なリスクがつきまとい、移転価格税制に係るリスクもその一つです。当該税制を理解して、そのリスクを回避することは、グループ利益を極大化のための必要条件です。

 


 

プロフィール

朝日税理士法人
公認会計士・税理士 山中 一郎


朝日新和会計社(現あずさ監査法人)退職後、現在は朝日税理士法人代表社員および朝日ビジネスソリューション株式会社代表取締役。


国際税務業務、海外進出支援業務の他、株式上場支援業務、組織再編、ベンチャー支援等 の税務・コンサルティングサービスを行っている。


主な著書: 「図解&ケース ASEAN諸国との国際税務」(共著/中央経済社)、「図解 移転価格税制のしくみ 日本の実務と主要9か国の概要」(共著/中央経済社)、「なるほど図解M&Aのしくみ」(共著/中央経済社)、「事業計画策定マニュアル」(共著/PHP) など多数


Webサイト:朝日税理士法人

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