第3回
トップマネジメントがリードすべき移転価格税制対応
朝日税理士法人 山中 一郎
皆様は、「移転価格税制への対応」は、経理・税務部門の課題と位置づけておられるのではないでしょうか?確かに、移転価格税制に基づき課税所得を正しく計算する役割を担う当該部門は、多くの企業で移転価格税制の所轄部門となっています。しかし、海外子会社等との取引に係る取引価格(移転価格)は事業・営業部門の事業戦略に基づいて設定され、最終的にトップマネジメントが承認を下すものです。よって、移転価格税制への対応はトップマネジメントの関与が必要になってきます。
利益に直結する移転価格
日本の移転価格税制は、日本の企業が海外子会社等と取引を行う場合に、実際の取引価格が税制に基づく「独立企業間価格」と異なり、日本での所得が減少する場合に適用されます。その場合、企業は自主的に所得の減少額を計算して、税金を納める必要があります。放置しておき税務調査で指摘があった場合は、追徴税プラス加算税が課されます。
ここで注意すべきは、自主的であろうと、税務調査での指摘であろうと、移転価格税制による納税が発生した場合、グループ全体では、同じ所得に対して海外でも税金の支払い、すなわち、二重課税が発生しているということです(「相互協議」という手続きにより相手国の税務当局から税金を還付してもらい二重課税を回避する道もありますが、特に新興国では応じないケースが多いのが実情です)。
とりわけ、税務調査で移転価格税制による所得の計上漏れが指摘された場合、過去にさかのぼってそれが更正されるため、通常、追徴税額は多額となります。税金は利益に直接的に影響を与えますので、これはもはや経理・税務部門だけの問題ではなく、企画・営業・購買・知的財産・海外部門など、全社にまたがって対策を講じるべき問題と言えるでしょう。したがって、移転価格税制に係るコンプライアンスを遵守するためには、トップマネジメントのリーダーシップが必要となります。
グローバルで統一された移転価格設定ポリシーの必要性
日本企業と海外関連者との取引は国際間の取引ですので、移転価格税制の適用は2か国以上で問題となります。ここで、日本と外国の間に取引がある場合、外国の側のみで現地の税務当局に提出するための文書化を行っているのに、日本の親会社にはそれがまったく知らされていなかったという例を時々見かけます。しかし、同一の取引については、価格の決定方法および税務当局への説明は、国際間で共通した内容でなされるべきです。
この海外子会社等との取引価格決定に係るグループ全体の方針を、移転価格設定ポリシーと言い、それは移転価格決定の基礎となります。よって、その作成は、グループの中核である親会社が行う必要があります。親会社のマネジメントは移転価格設定ポリシーの重要性と内容を理解して、経理・税務などの管理部門だけでなくて、企画・営業・購買・知的財産などの部門や関連法人等まで情報共有が図られるようにしなければなりません。
繰り返しになりますが、トップマネジメントが移転価格税制の重要性を正しく認識して、社内の全部門、及び、国内外の全グループ会社をリードしていくことは、移転価格税制に対応するためには不可欠の事項です。
以上
プロフィール
朝日税理士法人
公認会計士・税理士 山中 一郎
朝日新和会計社(現あずさ監査法人)退職後、現在は朝日税理士法人代表社員および朝日ビジネスソリューション株式会社代表取締役。
国際税務業務、海外進出支援業務の他、株式上場支援業務、組織再編、ベンチャー支援等 の税務・コンサルティングサービスを行っている。
主な著書: 「図解&ケース ASEAN諸国との国際税務」(共著/中央経済社)、「図解 移転価格税制のしくみ 日本の実務と主要9か国の概要」(共著/中央経済社)、「なるほど図解M&Aのしくみ」(共著/中央経済社)、「事業計画策定マニュアル」(共著/PHP) など多数
Webサイト:朝日税理士法人
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