求めれば気がつく、動けば見えてくる

第3回

いまやブラック? 先生のお仕事

イノベーションズアイ編集局  広報アドバイザー 腰塚 弘

 

デジタル社会の伸展を背景に、教育課題も複雑化、多様化してきている。

教員の時間外勤務を巡っては、2019年に文科省が「教員の働き方改革が必要だ」として、教員給与特別措置法(給特法)を改正し、時間外勤務の上限を「月45時間」とする指針を定めたものの、2022年の文科省による教員勤務実態調査によると「上限超え」となる週50時間以上働いた教諭は中学校77・1%(同11・9ポイント減)と前回調査(2016年)よりは減ったものの依然高い水準となっている。

1日あたりの勤務時間(10~11月)は、中学教諭で平日11時間1分(同31分減)、土日2時間18分(同1時間4分減)だった。こちらも前回調査より減っているが、その分「仕事の持ち帰り」が増加している。

何が忙しいのだろうか?

ひと時代前と比べて、教員が行う業務は増えているのだろうか?

教職員支援機構は、教員の業務とそれぞれの一日の従事時間を調査している。

教師として必須なものは、まず「授業」(207分)、「授業の準備」(93分)、これらはマストであろう。

「朝の業務」なるものがあり、これはその日の打ち合わせ、朝礼、出欠確認など。

これもルーティンで必要であろう(37分)。

以上は教師として日々マスト(必須)に行う業務であろう(計337分)。時間にして5時間40分程度。

朝8時からの業務開始として、昼食時間を外すと2時40分までとなる。

一方でこの調査での多忙な教員の総合計時間は1日あたり728分となっている。

時間にして12時間10分だ。これでは就業時間が朝8時をスタートとしても終業は20時を超えている。

しかし、授業などマスト(必須)と思われるルーティン業務との差が6時間30分もある。部活動にとられる時間は51分となっている。

そのほか会議・打ち合わせが35分。これらを差し引いても5時間残る。

一日に5時間余も自分でコントロールが効かない業務に忙殺されているのだろうか? 

ちなみに調査を見ると、これらのほかには「給食、掃除、登下校等の指導」65分、「成績処理、試験作成・採点、提出物確認」「学活、連絡帳等」がそれぞれ43分、「学校行事、生徒会等」40分、「保護者や地域住民からのクレーム対応」12分などなと。

これら5時間部分については学校経営のトップである校長や教頭がマネジメントを発揮して、輪番・交代にするとか、思い切って止めるとか、アウトソースを検討するとかできないのだろうか。

教員の働き方改革の前に、自身の、経営陣の自助努力やマネジメントによるところはないのであろうか。

とはいえ、確かにひと時代前までと違い、時とともに学校を取り巻く環境が多様・複雑化しているのは事実だ。

ラグビーの指導について平尾誠二氏(故人)に聞いたことがある。

『自分が高校生の頃は、試合前に先生(山口良治氏)が「さあ、いくぞ」と言えば、すぐに全員が同じ方向へ“おーっ!”となって“わーっ!”と泣いたが、最近は、下を向いている子、上を向いている子、中にはスパイクで地面を掻いている子など様々。いまは生徒一人ひとりにカスタマイズした指導・コーチングが求められる時代となった』と話していたことが印象深い。

この話のように、時代も移り、教師の指導・コーチングも多様・複雑化しており、以前に増して手間・労力・神経をつかう時代になったことは確かだ。

親や社会との関係や、生徒自身の行動が多様・複雑化する中、今日のシステムでは無理があり負担に思うのは当然で、単純に教師、学校現場を責めることはできない。

そしてこれまでに幾度となく改革に挑んでは二の足を踏んできた理由は、学校に蔓延してきた「同僚との調和が第一」であり「独創性を活かす余地がない」などといわれる「教員文化」によるところもあるのだろう。

ではどう工夫すれば改善できるのだろうか。

例えば企業・組織と同じように考えてもよいのではないか。

例えば広報業務を例にすれば、教師は子供たちに学問や社会を“教える”専門部署。

そこに横串を刺して、内外への情報を組織として一元化し、ワンボイスで還流させる機能は広報機能であり、さらに長時間労働や学問を教えることの障害となっている外部との問題解決は、広報機能を含む「渉外」機能としてその学校の対応方針やコメントを一元化して、親組織である市区町村の教育委員会と連携・連動し、迅速・正確・適切に対応、必要に応じた発信を行うのである。

そしてその責任は、まずは組織、学校全体となる。そのうえで、当事者となった人物に過失はなかったのかの判断を行い、次の段階での責任の明確化を行わなければならないこれは危機管理のセオリーだ。

教員にとって負担となっている業務のトップは「保護者や地域住民からのクレーム対応」だという。

ならば企業がそうしているように、問題が多発している特定の学校(一定の基準が必要か)においては、渉外担当に加えて警察OBなどを配置できないだろうか。

問題が発生した場合、単独で対応しないことは危機管理上セオリーだ。最低でもペアか複数で対応することが必要である。

問題発生時には当事者の担任や当該教師は前面に出さずに、渉外、警察OB、本業サイドとして教頭(学校トップの校長は出すべきでない)の3者が対応することが望ましい。これは対外的に牽制効果となるうえ、謂れのないクレームハラスメントの排除などにも期待できる。

…これまでは、教えるプロの教師が、学校にかかわる一切を担っていたのである。

そして「人は増やせない」が不文律のように繰り返され、半ば諦めムードの中で対応し、最大の負担に感じていたことを「それはあなたの役割ではない、ただし対外的に対応するために、現場で起こっていたことは事実を渉外役に伝えてください」でよいのである。

ちなみに11月12日の新聞報道(朝日)では、『教員の時間外の定額残業代が出ない代わりに公立学校教員の給与に上乗せされている「教職調整額」の増額をめぐって、残業時間を減らしながら進めるべきだと主張する財務省と、教育の質担保には「人員増もセットで」と反論する文科省とで対立を深めている模様だ。』と報じている。

所管の文科省も教育現場の人不足を認識していることは明らかである。

ただ、今後さらに少子化が進めば、教師は余ってくるのは確実だ。

なので、人不足として括り全体のパイを単純に増やすのではなく、同時に機能を重視して再編し、必要な要員を再配置していく、という発想が必要なのではないか。

例えば、教えるプロである教師、その中から昇格したマネジメントレベル(校長、教頭など)、スクールワーカー、渉外担当(必要に応じて警察OBなど)などが生徒数に応じ適切に配置され、そして運動部活動は地域へ移行させ、地域のホルダーと連携するなど。

一日に5、6時間も費やさざるを得ない教師の他業務は物理的にも軽減され、精神的重圧からも開放されよう。

教員以外の異能の人材も活用すれば、雇用も流動化できるうえ、ひいては組織の活性化につながるとよい。

運動部活の地域移行も始まり、確実に学校文化の地殻変動は始動しつつある。

子供たちにとっても最適で、サステナブルな納め方が可能となるのではないか。

教育は極めて大事だ。教育への投資は、未来への投資である。

 

プロフィール

イノベーションズアイ編集局
広報アドバイザー
腰塚 弘

埼玉県熊谷市出身。1980年3月立教大学卒業。

共栄火災海上保険では1991年から広報。広報課長を経て2001年から2013年まで広報室長。2014年から独立行政法人日本スポーツ振興センターに転じ広報室長。2023年2月退職。

社外活動として、2008年から2012年まで日本ラグビーフットボール協会広報委員長。2009年から2017年まで仙台大学非常勤講師(スポーツ広報論)。

2024年5月よりイノベーションズアイ編集局広報アドバイザー。

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