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和歌山アイコム メード・イン・ジャパンにこだわる ロボット化と5Gで人手不足を補う

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総合無線機メーカーのアイコムが100%出資する生産拠点、和歌山アイコム(社長・田中誠一郎氏、和歌山県有田川町)はロボット化によるスマートファクトリーの実現に取り組んでいる(写真)。将来の人手不足が確実視される中、こだわってきたメード・イン・ジャパンを維持するためだ。とはいえ、徹底的にデジタル化に舵を切るわけではなく、社員が蓄積した技術と知恵といったアナログ力を生かしながら生産性向上を目指すのがアイコム流だ。

「NEXT IPSによるスマートファクトリーの実現」。アイコムが設立60周年を迎えた7月16日、1989年に操業した和歌山アイコムを訪ねると、こんなスローガンが掲げられていた。IPSとは「アイコム プロダクション システム」のことで、1万4000品種の材料を使って約120機種の無線機を月産し100カ国以上に輸出するのに欠かせない独自の生産方式だ。田中氏が社長に就任した2020年4月に制定した。

見学した有田工場には11の生産ラインがあり、このうち電子基板づくりと本体組み立ての2ラインは23年3月期までに9億円を投じて完全ロボット化した。ロボットは22時間稼働しており、8時間労働の社員より1.3倍の生産量を実現した。

有田工場は将来の人手不足を見越してロボット化を進めてきた。16年のハンドリングロボット導入を皮切りに、18年に自動はんだ付けロボット、19年には生産量の多い無線機の組み立てをロボットに任せた。

今後は据え置き型無線機製造ラインへのネジ締めロボットの導入や自動検査に4000万円を投じ、生産台数の3割増を目指す。その他のラインにもネジ締めロボット2台、はんだ付けロボット2台を導入する予定だ。

ただ、田中社長は「完全ロボット化ラインの増設は考えていない。生産効率を高めるためロボットをポイント、ポイントで導入するが、人間と協調するラインを設けていく」という。年間10万台超を出荷する無線機の生産は自動化が向いているが、それ以下のモデルは人とロボットが協働する混載ラインが最適なためだ。

有田工場には完全ロボットラインのほか、コンベアー・ストップ方式が4ライン、インライン・セル・ストップ方式が5ラインあり、少数の作業者が作業台を自由に入れ替えながら少量多品種生産に対応。ロボットに完全に頼らなくても、「アイコムならでは」の高品質な製品を生産する。

そこで効果を発揮するのがIPSだ。生産ラインにあえて負荷をかけて問題を抽出し、そこを改善することで品質と生産性向上につなげるというものだ。例えば8時間分の生産量を7.5時間で終えるスピードでコンベアーに流すと、どこかで無理が生じるので作業が追い付かなくなり、作業者はたまらず手元のボタンを押してコンベアーを止める。この場所を改善ポイントとして把握し、原因や理由を探し出し改善する。

言い換えると、ストップしないラインは作業スピードに余裕があるか、作業者が多いと判断され、予定通りの生産量をこなしても評価されない。「ストップしないラインは最悪のライン」(田中社長)というわけだ。

生産性向上に向けた新たな取り組みとして注力しているのが、携帯キャリアが提供する高速通信規格(5G)の活用だ。スマートファクトリー化の一環として取り組んでおり。有田工場はそのショーケースでもある。積極的にアピールする方針で、その一つが工場内に構築した作業分析システムだ。

作業者の仕事ぶりをカメラで撮影し、5Gを介して送られてきた映像データをAIが分析。ボトルネックになっている作業を見つけてIPSによる改善に生かす。各作業員の時間のばらつきを最適化しライン稼働率が上がり、作業移動距離の問題点を発見し作業効率の向上や作業負担の低減につなげた。

ピッキング台車のサーバー接続ネットワークもその一つだ。生産計画にあわせて倉庫から部品をピックアップして台車に載せ、各工程に搬送する。ピッキング台車のデータ通信方式をWi―Fiから5Gに置き換えることで。従来のアクセスポイント間の干渉問題を解消した。今では車で15~20分ほど離れた外部倉庫に置いてある部品の出庫にも活用している。

このほか、大雨センサーと5Gを連携させた監視システムも構築した。突然のゲリラ豪雨を気圧の低下などで事前察知し、出荷場所に梱包された製品が濡れる被害の軽減につなげた。

「生産効率を高めて利益率10%を目指す」というスマートファクトリー化はロボットの導入と5Gの活用で着実に進む。その一方で、操業開始時から実施する社員参加型の改善活動も忘れてはいけない。全社員が毎月、少なくとも1件の改善提案を行うもので、高品質なモノづくりを支えてきた。累計で12万件以上になるという。効率を意識させる「10メートルを7秒以内で歩かないと警告音が鳴る廊下」などユニークな提案も多いという。

このようにメード・イン・ジャパンの維持に向けデジタルとアナログの両面から生産性向上に取り組んできた。将来の人手不足に備えるためだ。工場を案内してくれた担当者は「現段階では切迫した人手不足の状況ではないが、10年もたたずに確実にやってくると見ている」と話した。近隣高校の生徒数は年々減っており、地元の労働力の担い手不足が気になるという。

こうした危機感から和歌山アイコムは10数年ぶりに地元テレビ局で採用を目的としたテレビCMを流し、ホームページの開設も計画する。地元での知名度を上げ、将来の採用につなげる狙いがある。一方で、ロボット化のように人手が足りなくても事業を続けられる手立ても打つ。同様の危機感を抱く地方の生産拠点は少なくないはずで、有田工場は国内生産の維持に欠かせない人手不足対策のモデルとして完成させたいと意気込む。

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