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妊娠前の健康管理で出産・育児リスクを減らす 産休・育休で家族の役割分担が大事

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東京女子医科大学 水主川 純(かこがわ じゅん)教授 ※写真

日本の少子化が止まらない。2023年の合計特殊出生率は過去最低の1.20に低下した。出生数も72万強と過去最少だ。少子化に歯止めをかけようと国や自治体は経済的支援制度を充実させ、企業も仕事と両立できる環境整備に注力する。東京女子医科大学の水主川純教授は「大事なのは産休・育休の取得率ではなく質」と強調。パートナーに対し家庭内の役割分担についての声掛けや意識改革が必要という。また出産後のメンタル面や経済面で不安を取り除くためにプレコンセプションケア(妊娠前の健康管理)の重要性も説く。

――最近の出産状況は

晩婚化や女性の社会進出が進み、それに伴い高齢出産が増えている。2022年の40歳以上の女性による出生数は4万7996人で、総出生数に占める割合は6,2%。02年は1.3%だったので、この期間で40歳以上の女性による出生が増えていることが分かる。出産適齢期は20代半ばから30代前半だが、この年代は働いている女性は多い。働くことを止めて妊娠・出産するとキャリアや収入に影響する場合がある。妊娠・出産・子育てにはお金がかかる。不妊治療の保険適用で経済的負担が軽減されたが、それでもお金はかかる。

――高齢出産はリスクを伴うのか

高齢出産では帝王切開分娩の可能性が高くなる。合併症も起こりやすい。流産のリスクも高まる。それだけではない。昔は20代の出産が多かった。すると妊産婦の母親の多くは50代。それが40代で生むと、その母親の多くは70代で、娘の子育てを助けたくても体力的に限界がある。妊産婦の母親が病気療養中や亡くなっている場合もある。東京女子医大に来る妊婦は40代で初めて出産する地方出身者も多い。そんな彼女たちにまず聞くのは母親の年齢と出身地。近くに実家があれば子育てのサポート機会を得やすいが、遠い地方だと「いざというとき誰が助けてくれるの」となる。

――若い女性の妊娠・出産リスクはどうか

10代の出産は減少傾向にあるが、相談しあえる仲間が周囲に少ないため孤立しやすいといえる。また中高生の場合、学業や経済面でも多くの問題を抱える。学業の中断は就労や収入だけではく、子育てにも影響する場合がある。こうした女性が将来、夢や希望をもてるよう、周囲の手厚い支援が欠かせない。またダイエットで痩せたい若者は多いが、極端な食事制限や過度なダイエットで生理が止まることもある。痩せ願望から栄養状態が悪くなると、生まれてくる子どもは低出生体重になりやすい。さらに意図しない妊娠、性暴力、性感染症などさまざまなリスクがある。児童虐待やネグレクトも考えなくてはならない。そうならないためにも教育が重要で、プレコンセプションケアが大事になる。

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――悩みを打ち明ける場所が必要になる

子育てで悩んでも、どこに助けを求めていいか分からないと聞く。「困ったら役所に連絡して」と言われても、電話してもなかなかつながらない。ようやくつながってもどの部署に助けを求めればいいか分からず、「部署が違う」と言われて、嫌になって相談をやめる。こうした事態を避けるためにも、妊娠したら早いうちに自分で相談窓口を調べておくことだ、いざというとき困らない。メンタル的にも体力的に疲れると母子共倒れになりかねない。SOSを出せるように準備しておくことが大切だ。孤立せずに社会的つながりを持つことが重要だ。

――自治体や企業の支援も重要になるということか

玩具メーカーのタカラトミーが6月28日、社員やその配偶者が出産した際に1人当たり200万円を支給する「出産育児祝い金」制度を新設すると発表した。このインパクトは大きい。多くの自治体も出産祝い金を出すが、支給金はあっという間になくなる。出生率は1.20と危機的状況だが、金銭的支援だけでは少子化対策にならない。

――企業に求めることは

安心して妊娠・出産・子育てできる環境づくりだ。つまり産休・育休を取得しやすい企業風土に変えることであり、そのためには男性の意識改革が必要だ。夫婦はまず、育休を取って家庭にいる男性の家庭内での役割について具体的に話し合うことが重要。育休を取ることで満足する男性は少なくなく、洗濯物を取り込んでやったとか、洗濯物を畳んでやったとか「やってあげた」と自慢する男性を見ていると、女性はイライラが募り、ストレスが高まる。男性の育休に対する意識改革に取り組んでほしい。

――意識改革を促すために必要なことは

産休・育休といったハード面の福利厚生制度だけでなく、育休経験者の話を聞ける機会を設けることを求めたい。例えば、男性は失敗談を、女性はうれしかったこと、イライラしたことを話すと、互いに育休で気遣いすべきことが分かる。意識改革を促した上で、制度を利用するといい。企業も制度の充実ぶりや取得率の高さを(ニュースリリースなどで発信して)自慢しても意味がない。取得率上昇という「量」が増えても、夫婦ともにイライラが増え、ストレスが高まれば意味はない。求められるのは、互いに助けあえるという「質」だ。

――産婦人科医としてハイリスク妊婦への対応はもちろん、社会貢献にも積極的に取り組んできた

産婦人科医が妊産婦に直接かかわれるのは、せいぜい産後1か月健診までだが、女性の健康を守るのが我々の仕事。妊娠や出産に影響する疾患をもっている女性が妊娠した場合、ハイリスク妊婦としての対応が必要になる場合がある。このような女性が子どもを希望する場合、例えば自分で子どもをうみたいのか、親や家族として子どもを育てたいかと聞く。自分の子どもをうみたい場合は、妊娠や出産に関するリスクを説明した上で、妊娠・出産に関する意思決定をするようにいう。親や家族として子どもを育てたい場合の選択肢の一つとして養子縁組がある。養子縁組によって、親と子どもによる家族としての生活が始まる。いずれにせよ、自らライフプランを考える世の中になってほしい。その際に重要なのはプレコンセプションケアに関する情報発信を行い、産休・育休がキャリアに影響しない体制確保の強化への取り組みも企業に求めたい。

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