「改修工事は騒がしい」を変える 丸高工業のサイレントシステム、生産性向上、働き方改革で人手不足解消を実現
泊まったホテルの隣室で工事をしていたとは気づかなかったー。「改修工事は騒がしい」という建設業界の常識を覆す工具・工法が注目を集めている。改修工事専門の丸高工業(東京都品川区)が工事現場の騒音、振動などの発生を抑える「サイレントシステム」を開発・提案。それまで騒音などのクレームを避けるため夜間・土日に制限されていた作業時間を平日昼間に移行。工期短縮・工費削減による生産性向上、働きやすい環境づくりとそれによる人手不足の解消を図るのが狙いだ。
「建設業界が抱える課題を解決できることから、改修工事の業界スタンダードにする」。今年7月24~26日に東京・有明の東京ビッグサイトで開催された「騒音・振動対策展」で、高木一昌代表取締役はこう意気込んだ(写真)。
その一環として、2019年11月に立ち上げた「リニューアルイノベーション協会」(同)を24年10月から本格始動する。
サイレントシステムの普及に向けて実績を積み上げながら、地方の中小建設業者などに訴求してきた協業ネットワーク化に手応えを得たためで、会員数を初年度に200社、5年後に1000社まで増やす考えだ。規模拡大にあわせて札幌、名古屋、大阪、福岡といった地方の中核都市に支部を開設、5年程度での全国展開を目指す。海外進出も視野に入れる。
サイレントシステムとは、従来の工具を消音工具に換えることで、「騒がしい」とクレームがつく100~70デシベルの工事音を60~40デシベルの「気にならない」レベルに低減。さらに工事音を漏らさない仮設消音壁「サイウォール」を使うことで40デシベル以下の「聞こえない」レベルを実現する。
電動ドリルなどを使う工事現場では騒音や振動、粉塵の発生は避けられない。このため工事は夜間・土日に限られ、それだけ工期は長引き、工費もかかる。労働条件も厳しく人が集まらない。
これまで「仕方がない」とあきらめていた騒音問題などに正面から取り組んだのがサイレントシステムというわけだ。08年から開発に着手、約800種類の作業を分類・分析し、131項目の騒音作業を抽出。工具の改良・開発など消音化について試行錯誤しながらたどり着いた解決策が、発生音を下げる消音工具と、工事音を漏らさないサイウォールの組み合わせだ。
この間に従来工具の消音化に取り組み、ドリル、ドライバー、台車など品ぞろえの拡充に注力。現状では標準的な改修工事の70~80%の作業を消音化できるという。業界が抱える課題を解決できると判断、改修工事の顧客となる商業施設やホテル、病院などにサイレントシステムの有効性をアピール、これまでに約250件の改修工事を手掛けた。
東京都港区の複合施設ビルのテナント入居対応工事(内装仕上げ工事)では工期を180日から100日に短縮した。上階がホテル運営中のため作業は土日限定という条件だったが、サイレントシステムの導入で平日昼間に移行できたためだ。騒音・振動によるクレームはゼロだった。工事期間中もホテルは稼働できるため改修工事に伴う営業損失を回避、それだけ顧客満足も高まった。
病院も有望顧客と捉える。改修工事により騒音・振動が発生すると診療を止めなければならない。このため休診日に作業を行うしかない。サイレントシステムを導入すると、例えば手術室の増設工事で発生する騒音、振動を気にすることなく隣室で手術を行える。医療行為を止めずに済むので患者にも喜ばれる。
サイレントシステムが普及すれば、夜間・土日作業を嫌って離職する人材をつなぎとめられるだけでなく、若者が大切にするワーク・ライフ・バランスをもたらす。残業規制の「2024年問題」にも対応できる。人手不足で断らざるを得なかった改修工事も受注できるようになるため収益機会が増え、業績向上とそれによる給与アップも可能になる。
建設業界の課題解決だけでなく、顧客も工期短縮による営業機会の損失を最小限に抑えられるというメリットをもたらす。つまり建設会社、顧客、施設利用者の「三方良し」の工法といえる。
リピーターも増えているが、それでも順風満帆だったわけではない。「静かな工事はありえない」というのが業界の常識なので、「100%成功するのか」「他社も採用しているのか」と聞いてくる。髙木氏は「今のやり方で問題ないので、リスクを伴う新たな工法を採用しようとはならない」と業界体質を嘆く。
それでも業界標準化をあきらめていない。作業時間が制限されることによる工事の長期化、夜間・土日作業による人手不足、営業できないことで生じる損失といった改修工事が抱える問題を解決できるのがサイレントシステムとアピールする。理解者を増やすため、同社ではサイレントシステムセンター(同豊島区)で体験ツアーを随時開催しているほか、展示会にも参加して認知度向上に努める。リニューアルイノベーション協会もその一翼を担う。
「工事はうるさい」という業界の常識を覆すため開発・提案してきたサイレントシステムが「工事は静かがアタリマエ」の世界を創る。丸高工業による静かな革命が満を持していよいよ本格的に動き出す。