第23回
4月からの法改正によって募集・採用はどう変わる?
一般社団法人パーソナル雇用普及協会 萩原 京二
2024年4月1日より労働基準法が改正となり、労働契約の締結時・更新時の労働条件明示事項に新しい項目が追加されます。労働者を雇い入れる際、必ず書面で明示しなければならない事項(絶対的明示事項)がありますが、今回のルール改正はそれに追加する形になるものです。
改正により追加される明示項目は以下の4点になります。主に有期雇用労働者向けの項目ですが、正社員等の無期雇用労働者向けの追加項目もあるため、労働形態にかかわらず確認しておく必要があります。
<すべての労働者に対する明示事項>
1. 就業場所および担当業務に関する変更範囲の明示
現在、労働契約の締結時や有期雇用契約の更新のたびに、雇入れもしくは更新時点の就業場所と担当業務の内容を明示していることと思います。ルール改正後はそれに加え、将来の配置転換等で変わり得る就業場所・担当業務の範囲まで明示しなければなりません。
<有期雇用労働者>
2. 更新上限の明示
有期雇用契約の締結時もしくは契約更新時に、更新上限(通算契約期間または更新回数の上限)の有無と、その内容(具体的な期間や回数)の明示が必要となります。ただし、その雇用契約が通算何年目であり何回目の更新であるかの明示までは、求められていません。
3. 無期転換申込機会の明示
有期雇用契約には、「無期転換ルール(5年ルール)」というものがあります。これは有期雇用契約が5年を超えて締結・更新した場合、その契約期間中の有期雇用労働者からの申し出(申込み)により、契約期間終了日の翌日から期間の定めのない雇用契約(無期雇用契約)に転換されるものです。
4月のルール改正により、申込みができる権利(無期転換申込権)が生じたタイミング以降、契約更新のタイミングごとに無期転換が申し込める旨を明示する必要があります。たとえば、無期転換申込権が最初に発生したときに無期転換を希望せずに引き続き有期契約を結んでいたとしても、契約更新のたびに無期転換の申込ができる旨を明示しなければならないのです。
4. 無期転換後の労働条件の明示
無期転換申込権が生じる更新のタイミングでは、3.の「無期転換申込機会の明示」とあわせて、無期転換後の労働条件も明示する必要があります。
たとえば、無期転換申込権が発生した最初のタイミングで無期転換を希望せず、引き続き有期契約を結んだ場合でも、契約更新のたびに無期転換をした場合の労働条件を明示しなければなりません。無期転換をした場合の労働条件が変更となる場合は、別途、労働条件を記した書面の提示が必要です。しかし労働条件に変更がないようであれば、その旨を労働条件明示書に記載するだけで足ります。
今回の改正と直接の関係はありませんが、「就業規則による」と記載した場合は、就業規則を確認できる場所や方法の明記が必要となりました。就業規則等の社内規程は、本来、従業員が自由に閲覧できるようにすべきものです。しかし、実際そのように運用されていないケースも多いため、今回の明示事項の追加を機に明確化されました。
ここまでご説明したとおり、労働条件明示のルール改正により、労働条件明示書面の整備が求められるようになります。施行日までに、以下のことを行っておきましょう。
・労働条件通知書の整備
・有期契約労働者の契約更新回数、通算期間等の再確認
・無期転換ルール(5年ルール)が適用される有期契約労働者の再確認
労働条件明示書の不備は、トラブルが起きた時に会社が不利になったり労働基準監督署の調査で指導対象になったりするリスクはもちろん、労働条件が不明確なため、人事制度等の運用に支障が出ることもあります。さまざまなリスク回避のため、労働条件通知書の整備は必須です。
なお、労働基準法の改正に合わせて「職業安定法」も改正されます。求人企業・職業紹介事業者等が労働者の募集を行う場合・職業紹介を行う場合等には、募集する労働者の労働条件を明示することが必要ですが、4月1日からは、新たに以下の事項についても明示することが必要となります。
1 従事すべき業務の変更の範囲
2 就業の場所の変更の範囲
3 有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項(通算契約期間又は更新回数の上限を含む)
ハローワーク等への求人の申込みや自社ホームページでの募集、求人広告の掲載を行う場合は、求人票や募集要項において、少なくとも前述のような労働条件を明示しなければなりません。ただし求人広告のスペースが足りない等、やむを得ない場合には「詳細は面談時にお伝えします」などと付した上で、労働条件の一部を別途のタイミングで明示することも可能です。詳しい内容については、厚生労働省やハローワークのホームページなどでご確認下さい。
プロフィール
一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二
1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。
Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会
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