動画で言葉の壁克服 エヌ・エイ・アイが介護職外国人向けに制作
介護現場の人材不足が深刻化する中、頼りになるのが外国人労働者だ。学術論文などを翻訳するエヌ・エイ・アイ(横浜市神奈川区)は、外国人向けに介護の基本が分かる多言語研修ビデオを提供する。字幕が付き、漢字にはルビを振るなど「言葉の壁」を克服できると好評だ。需要に応じて提供する言語を増やすほか、利用者を増やす新たな取り組みも始めた。
団塊世代が後期高齢者に達する2025年には介護人材が約38万人不足するといわれる。給与の低さなど労働条件が良くなく、心身ともに負担が重いから採用は難しい一方で離職率は高い。
このままでは「介護難民」が出かねない状況で、介護施設運営者にとって人材確保が喫緊の課題となっており、外国人材の積極的な受け入れが欠かせない。政府も手をこまねいているわけではなく、技能実習制度に加え、19年には特定技能制度を新たに導入した。
「介護人材を増やすという国の政策を支えるサービス」。こう語るのはエヌ・エイ・アイの伊藤秀司代表取締役だ。同社は、実技も座学も習熟度に応じて学習できる多言語研修ビデオ「動画でOJT」を制作した。
同ビデオでスキルを高めたミャンマーから来た技能実習生は「日本の介護技術は(ミャンマーと)全く違う。介護動画はミャンマー語の字幕があり、不明点もすぐに母国語で確認できる」と話す。介護現場は職員や施設利用者とのコミュニケーション力が問われる上、専門用語も飛び交う。このため、日本語に不慣れなため対応に戸惑うことが少なくない外国人にとってビデオは頼りになる。
プランは2種類。アニメ座学編(全105本、計10.5時間)は21年2月に提供を開始。言葉では理解しにくい介護知識や、講義形式では飽きてしまう座学をイメージしやすいアニメで楽しく学べる。外国人でも言葉の壁を越えて直感的に理解できることにこだわって動画を制作したという。日本語や英語のほか、ベトナム語、インドネシア語に対応する。
一方、19年2月にサービスを始めた実技編(231本、計31時間)は、食事や入浴の介助など様々な場面を撮影して編集。現場のきめ細かい動作を確認でき、学ばなければいけない注意点やポイントをポップアップで表記。しかも外国語字幕付きなので母国語で理解しやすい。言語もアニメ座学編での4か国語に加え、中国語とミャンマー語を揃えた。
さらに2月からカンボジア人向けにクメール語(カンボジア語)の提供を開始。実技編に続き、アニメ座学編も制作する。またアニメ座学編では今秋をめどにミャンマー語も用意する予定だ。
両プランとも漢字にはルビを振っており外国人に優しい。また管理者画面で外国人の受講履歴・成績を閲覧・管理できるほか、理解度テスト、復習用のアンチョコテキスト、実技編の振り返りに最適なフォローアップシート、習得度が分かる介護動作達成度チェックシートを揃える。
利用者は日本人を含め600人程度。ベトナム人、インドネシア人、ミャンマー人が多く、日本の介護現場で働く外国人の技能実習生、特定技能者のほか、日本で就労を目指す候補者も使っている。
伊藤氏は動画でOJTについて「普及しつつある」と手応えを口にしつつ、現状には満足しておらず顧客開拓に向け新たなアプローチに乗り出す。「介護施設運用会社は忙しくてビデオを案内しても反応が良くない。ならば直接、日本で働きたい外国人にアプローチする」戦略を取る。合格に苦労している介護福祉士国家試験内容の基礎を完全習得できるプログラムを無料で提供するキャンペーンを展開する。
同社は1995年の設立で、日本での翻訳サービスの先駆けという。同サービスのノウハウを活用して参入したのが動画でOJTだ。当初は外国人が働くモノづくり現場の作業の流れを撮影して外国語字幕をつけて説明するサービスを提供。その後、ミャンマー人技能実習生の受け入れを決めた介護施設運営会社からの依頼を受け、介護現場を理解できる動画を制作した。