教育・書籍の著作権

出版社の権利とは?~著作物を出版する際の契約の種類等について~

弁理士の著作権情報室

出版社の権利とは?~著作物を出版する際の契約の種類等について~

出版不況と言われて久しいですが、ミシマ社などの個性的な出版社が頑張り続けていたり、店主の好みが反映された小さな本屋が全国で増えてきたりしていて、本屋巡りや読書の楽しみ方が広がっているように感じます。電子書籍も便利ですが、散歩や旅の途中に立ち寄った小さな本屋や古書店で、紙の本の匂いや感触を味わいながら、個性豊かな本を眺めていると時が経つのも忘れてしまいますね。

ところで、自分が書いた文章、描いた絵等について、出版社を通して紙の書籍や電子書籍を出版することになった場合、出版社との契約には、どのような種類があるのでしょうか。今回は、紙の書籍、電子書籍を出版する際、出版社との契約の種類とそれぞれの権利関係、内容等について解説します。

出版社の権利について


出版行為によって、出版社は、著作隣接権その他何らかの権利を得るのでしょうか。(著作隣接権については、著作権情報室の「著作隣接権ってどんな権利?」の記事をご参照ください。)を出版社には、レコード会社に認められている著作隣接権のように出版行為により自動的に発生する法的な権利はありませんが、著作権者(複製権者、公衆送信権者)との契約により、「出版権」という「排他的に著作物を出版形態で複製する権利、公衆送信する権利」(物権的権利)を発生させることができます。出版権は、紙媒体での書籍、百科事典等に見られるCD-ROMやDVDといったパッケージ型の電子書籍、ネット配信の電子書籍が対象となっており、紙の書籍を出版する出版社のみでなく、電子書籍を配信する配信業者やプラットフォーマーも「出版権者」となり得ます。

才能の発掘・育成、企画・編集、宣伝などを行い出版しても、著作権者との合意がなければ、出版社に発生する権利は特にありません。口頭での合意により法的効力を発生させることは可能ですが、認識に齟齬が生じた場合に後から見直すことができるように、出版物の内容、関わり方などに応じて、下記のとおり、適切な形態で、契約書を締結しておくことが重要となります。

契約の種類について


出版社が執筆者やイラストレーターなどの著作権者と契約を締結する際には、いくつかのパターンが考えられますが、著作権を譲り受ける場合には、下記の(1)、譲受ではなく出版権を設定する場合には、下記の(2)、著作権譲受や出版権の設定ではなく、著作権者から著作権の利用許諾を受ける場合には、下記の(3)又は(4)等の契約を結びます(著作物の利用を独占する場合には(3)、独占しない場合には(4)となります)

1) 著作権譲渡契約
著作権譲渡契約とは、著作権者がその著作物に関する著作権の全部または一部(複製権等)を譲渡する契約です。著作権者が出版社に著作権を譲渡したら、譲り受けた出版社が、著作権者を含む第三者に対し著作権を主張可能となりますので、自社以外が出版する行為について、差止請求、損害賠償請求を行うことができます。なお、著作権を譲り渡した場合も、著作者人格権は著作者に残ります。専門書などはこのような契約が締結されることが多いでしょう。

2) 出版権設定契約
出版権は、頒布のため、文書または図画を複製する権利、公衆送信する権利という著作権の一部を出版社に設定する物権的権利(独占的・排他的な権利)となりますので、誰に対しても当該権利を主張可能となり、著作権者であっても設定した範囲で上記行為を行うことはできません。このため、出版権が設定されていれば、たとえば、海賊品等が出回った際にも、上記1)の契約と同様、出版社が独自に侵害品に対し差止請求等の権利行使を行うことが可能となります。

設定行為に別段の定めがない限り、第三者が出版等できない排他的権利が設定されることから、出版権者は原稿等の引き渡しを受けた日から6ヵ月以内に出版または公衆送信を行う義務を負い、これを行わなかった場合には、著作権者は出版権を消滅させることができます。ただ、原稿受領後出版するまでの期間、存続期間などは、当事者間の合意に基づき、自由に定められますので、出版物の種類に応じて、適切な期間を設定し、契約書に記載しておくとよいでしょう。その他、出版権の存続期間は、契約書に定めがなければ、出版権設定後最初の出版があった日から3年後に消滅します。

なお、出版権の対象となる書籍について、契約書に「出版権を設定する」と記載するのみでは、著作権法80条1条の紙の書籍(1号)、ネット配信型の電子書籍(2号)のいずれも含まれるのかが不明確となるため、両者について出版権の設定を求める際はそのように規定しておく必要があります。また、紙の書籍に関しては、単行本やハードカバーなど、より細かな出版形態を特定して、出版権を設定することもあります。

3) 独占的著作物利用許諾契約
著作権者がその著作物の利用(複製・公衆送信等)について許諾する契約です。上記1)2)と異なり、利用許諾契約は、債権的権利(契約の相手方のみを縛る権利)ですが、ある出版社にのみ出版許諾するという独占的な契約を締結することも可能です。ただ、債権的権利は契約の相手方である著作権者以外に主張できないため、第三者による出版行為については、独自に権利行使できず、著作権者に差し止め等を求めることとなります。著作権者が応じないときには、民法第423条による債権者代位権として、著作権者に代わって権利行使することなども考えられます。

4) 非独占的著作物利用許諾契約
単純に自らが著作物を出版することについて許諾を得たい場合は、非独占的な利用許諾契約を締結しておくことになります。この場合、著作権者は、同様の著作物の出版について他社に許諾することも可能ですし、海賊版その他の第三者による出版物が流通していても、これに対し、自ら差止請求、損害賠償請求などを行うことはできません。なお、3)4)の利用許諾契約であれば、2)のような出版義務を負うことはありません。雑誌の場合は、利用許諾契約が適していることが多いでしょう。

まとめ


出版行為に関する契約に、上記いずれの契約形態であるか明らかにされていない場合は、著作物掲載の対価が高額であること、増刷や再販を重ねても印税の支払請求がない等の事実により著作権譲渡契約などと推測する他ないですが、認識の差異による争いが生じないように、上記契約の違いを理解し、いずれの契約形態であるか分かるように契約書に明記しておくとよいでしょう。

令和5年度 日本弁理士会著作権委員会委員

弁理士 安達 陽子

※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。

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