教育・書籍の著作権

教育機関における著作権

弁理士の著作権情報室

小学校、中学校などの学校で、書籍、写真、イラストなど様々な著作物をコピーしたり配布したりする場面があろうかと思います。もう少し具体的にいえば、たとえば以下のような場面です。
(1)学校の先生が、授業で使用する小説の一部を複写機でコピーし、配布する
(2)学校の先生が学校の事務の方にお願いし、授業で使用する小説の一部をその事務の方が複写機でコピーし、配布する
(3)学校の先生が、授業で使用する算数・数学のドリルを複写機でコピーし、配布する
(4)放課後の本の読み聞かせボランティアが、学校での読み聞かせ会のポスターに掲載するために、その絵本の表紙をスキャンし、ポスターを掲示する

教育機関における著作権

1.著作権法の基本


初めに、著作権の基本事項を簡単に述べます。
まず「著作権とは?」ですが、著作権は知的財産権のひとつであり、著作権法という法律で規定されています。著作権自体はさらに細かく分かれるのですが、ここでは説明を割愛します。
著作権の対象となるのが「著作物」です。「著作物」は「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」とされています。細かい話は割愛しますが、上記の例での「小説」「算数・数学のドリル」「絵本の表紙(の絵)」は「著作物」に該当すると考えてよいでしょう。
「小説」などの「著作物」が完成すると、原則、著作者に著作権が自動的に発生します。読者の方々は「他人の著作物を他人の許諾なくコピーしたり配布したりすると著作権侵害になるんでしょ?」となんとなく、ぼんやりと認識していらっしゃることと思います。認識としては正しいです。原則、他人の著作物を他人の許諾なく使用すると著作権侵害となります。
しかし、そうすると「(1)のように学校の先生が、授業で使用する小説の一部をコピーして配布するためには、わざわざ小説の出版社や著作者に電話して『○○小学校の担任の○○ですが、来週の算数の授業で御社の小説を一部を使いたくて…あっ、〇ページからの2ページです…』などといちいち許諾を取らないといけないの?断られたらどうするの?来週の授業に間に合わないのでは…」ということになります。毎日忙しい学校の先生が、いちいちそんな許諾を取らないといけないのでしょうか?
そんなことはありません。著作権法では「いろいろな事情を鑑みて、他人の著作物を他人の許諾なくコピーしても著作権侵害とならない例外的な場合」がいくつか規定されています。学校など「教育機関における複製など」も例外規定のひとつです。
なお、複写機でのコピーやスキャンなどをまとめて、著作権法では「複製」といいます。以降、「複製」という言葉も適宜使用します。

2.教育機関における複製など


ここでは、オンライン授業ではなく対面授業を想定して述べます。すなわち、ひとつの教室に先生と生徒がいるという授業のスタイルです。

「対面授業であれば、他人の著作物を他人の許諾なく複製して配布しても『例外』が適用され、著作権侵害とならない」というわけではありません。例外というからには、いくつか条件があります。すべての条件を満たされなければ例外が適用されず、例外の適用がなければ原則に戻ります。原則とはすなわち、「他人の著作物を他人の許諾なく複製、配布すると著作権侵害となる」ということです。
教育機関で認められる例外の条件は、以下のとおりです。
(ア)営利を目的としない教育機関であること
(イ)授業等を担当する教師等やその授業等を受ける児童生徒等が複製、公衆送信、公に伝達すること(指示に従って作業してくれる人に頼むことは可能)
(ウ)授業のためにその著作物を使用すること
(エ)必要な限度内の使用であること
(オ)すでに公表されている著作物を使用すること
(カ)著作物の種類・用途・複製の部数・複製等の態様などから判断して、著作権者の利益を不当に害しないこと
(キ)慣行があるときは「出所の明示」が必要
(参考:文化庁「著作権テキスト(令和6年度版)」)

以下、補足します。
(ア)の「教育機関」とは、幼稚園から小学校、中学校、高等学校、高等専門学校、大学、大学校などを指します。
(イ)の複製などをする主体は、先生だけではなく、授業を受ける生徒であってもよいとされます。また、先生や生徒から頼まれて複製する人も含まれます。さらに、複製のみならず、公衆送信、公に伝達することも含まれます(「公衆送信」「公に伝達」といった単語の詳細は割愛します)。なお、翻訳、編曲なども広く含まれるとされています。
(ウ)の「必要な限度内」とは、たとえば、生徒の数の分だけ複製すること、授業で必要な部分、数ページに留まるとの意味です。授業に必要のないページを含む、たとえば、著作物の全部を複製することは認められません。
(カ)についてですが、生徒等が購入することを想定して販売されているもの、たとえば、ドリルやソフトウェアなどは対象外です。

3.上記の例について


さて、色々述べたとことで1.の4つの例に当てはめてみます。
(1)の例は、(ア)の教育機関で行われるものであり、(イ)の先生が(ウ)授業のために必要な数ページ(エ)を使用するものです。本屋などで一般的に販売されていたり図書館にあるような小説の本であれば、(オ)の公表もすでに満たしているといえるでしょう。(カ)(キ)も特段問題とならないでしょう。よって、(エ)の生徒の人数分だけ複製、配布する分には「例外」が認められ、先生がわざわざ出版社に電話して許諾を取る必要はないわけです。
(2)の例では、(1)と異なり「学校の事務の方」が複製しています。この方は、(イ)の「先生から頼まれて複製する人」です。よって、(1)と同様に、(エ)の生徒の人数分だけ複製、配布する分には「例外」が認められます。
(3)の例では、「算数・数学のドリル」であるため、(カ)の条件を満たしません。やはり、ドリルなどは個々の生徒が購入すべきものです。
(4)の例は、目的が「放課後の読み聞かせボランティア」であり、(ウ)のような授業ではありません。よって、(ウ)の「授業のために」ではありません。
教育機関であればなんでも「許諾なしでコピーを取ってもいい」とはなりませんので、注意が必要です。

令和6年度 日本弁理士会著作権委員会委員

弁理士 藁科 えりか

※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。

※ 著作権に関するご相談はお近くの弁理士まで(相談費用は事前にご確認ください)。
また、日本弁理士会各地域会の無料相談窓口でも相談を受け付けます。以下のHPからお申込みください。

【教育・書籍の著作権】に関連する情報

おすすめコンテンツ

商品・サービスのビジネスデータベース

bizDB

あなたのビジネスを「円滑にする・強化する・飛躍させる」商品・サービスが見つかるコンテンツ

新聞社が教える

プレスリリースの書き方

記者はどのような視点でプレスリリースに目を通し、新聞に掲載するまでに至るのでしょうか? 新聞社の目線で、プレスリリースの書き方をお教えします。

広報機能を強化しませんか?

広報(Public Relations)とは?

広報は、企業と社会の良好な関係を築くための継続的なコミュニケーション活動です。広報の役割や位置づけ、広報部門の設置から強化まで、幅広く解説します。