手紙・メールの著作権
手紙・メールにも著作権がある
書いたのが作家であっても手紙は公表を予定された文学作品ではありません。しかし、著作権は創作性があるものについて成立しますので、1人に宛てられた手紙であっても著作権があることがあります。
子どもが描いた絵であっても創作性が認められることが多いという一般的な見解からは、時候の挨拶のような定型のものは別として、自分の言葉で書かれた手紙については著作物となる場合が多いと思われます。
夏目漱石の手紙については著作権の保護期間が満了してパブリックドメインになっていますが、著作権の保護期間が存続する人の手紙について、著作者である差出人の許諾なく出版したりインターネットに掲載したりすることはできません。
そのような手紙の公表が争われたものとして、三島由紀夫の生前の手紙の受取人がその手紙の内容を自身の伝記のなかで利用したものについて、三島由紀夫の遺族が著作権侵害等を主張して訴訟を提起した事件があります。裁判所は、手紙であっても内容によって、思想又は感情を、個性的に表現したものである場合には著作物性が認められるとしました。
この判断はメールなどについても同様に当てはまります。発信者情報開示の事件ですが、平成25年に、電子メールについて十数の文からなる文章であって誰が作成しても同様の表現になるものとはいえないとして、言語の著作物に当たるとして著作物性を認めた裁判例があります。
引用の可否
では、著作物性がある手紙やメールについて、著作権法の認める「引用」をすることはできるでしょうか。これはすることができません。著作権法の引用は「公表された著作物」について認められるものですが、手紙は公表されているとはいえないからです。
手紙ではありませんが、サッカーの中田英寿選手が中学校の卒業文集に掲載した詩を、中田選手についての書籍に利用したものについて、裁判所は卒業文集について公表があったとしました。しかし、特定の1人に宛てた手紙やメールについては通常公表されたといえることはないでしょう。他方で、一定のメンバーを有するメーリングリストに投稿されたメールやチャットツールのメッセージは公表されたということができると思われます。
ただし、引用ができない場合でも、近年話題になっている機械学習においては未公表の著作物であっても解析等のために利用することができるとされています。
著作者人格権としての「公表権」
未公表の著作物については、著作権以外に著作者人格権のひとつである「公表権」が問題になります。公表権というのは、未公表の著作物については著作者自身が公表するかしないか、公表する場合にどのように公表するかを決められるという権利です。したがって、未公表の手紙やメールを著作者である差出人の許諾なく出版する行為は、著作権の侵害に加えて、著作者人格権のなかの公表権を侵害することにもなりえます。先に述べた三島由紀夫の書簡の事件においても公表権侵害に当たるものであると認められています。
なお、著作者人格権は、著作者に一身専属する権利で、譲渡等もできないものとされていますが、著作者が死亡した後においても、著作者が生存しているとしたら著作者人格権侵害となる行為をしてはならないという規定があります。これについては、著作者は権利行使ができないため、遺族等が権利行使をするという仕組みになっています。前述の三島由紀夫の事件でも遺族が権利行使をしていました。
手紙やメールのようなものについても著作物に当たることが多く、著作権と著作者人格権の問題が生じうるため、注意が必要です。
令和6年度 日本弁理士会著作権委員会委員
弁理士・弁護士 竹内 亮
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