「シェア」と「転載」の違いとは? -SNS上の著作権侵害のリスク-
はじめに
ビジネスシーンでSNSの活用は欠かせませんよね。しかし、便利な「シェア」や「リツイート」機能も、使い方次第では著作権トラブルに発展するリスクがあります。特に、SNSでの著作権意識が問われた「リツイート事件」は、知っておくべき重要な事例です。本記事では、SNSの「シェア」と「転載」の違い、リツイート事件の概要、そしてビジネスで著作権リスクを避けるポイントについて解説します。
SNSの「シェア」とは?
SNS上の「シェア」機能を使うと、他人の投稿をコピーすることなく、そのまま自分のタイムラインに表示できます。例えば、X(旧Twitter)の「リポスト」やFacebookの「シェア」ボタンなどはこの「シェア」機能に該当します。この機能を利用することで、元の投稿へのリンクが自動的に設定されるため、通常は、著作権侵害にあたらないものと考えられます。
また、リンクを貼る行為は、ユーザーの著作権侵害(公衆送信権)にあたらないと判断した裁判例もあります【大阪地裁平成25年6月20日判決(判時2218号112頁)】。
しかし、プラットフォームが公式に提供する「シェア」機能を利用したからといって、必ずしも著作権侵害にならないとは限りません。前提として、著作権はコンテンツ制作者本人に属し、プラットフォームは著作権を管理していないものがほとんどです。不当な利用を行った場合、プラットフォームが認めても、コンテンツ制作者から訴えられる可能性があるため、元の投稿者の意図を理解することが重要です。
また、プラットフォームの規約に反していないかにも合わせて注意しましょう。たとえば、Instagramの非公開投稿や「シェア」が禁止されているコンテンツをシェアするのは要注意です。意図せずトラブルに発展するリスクを避けるためにも、事前にしっかり確認しておくと良いでしょう。
SNSでの「転載」とは?
「転載」とは、他人の投稿内容をスクリーンショットやコピーして、再投稿することを指します。この場合、元の投稿者へのリンクも設定されず、無断で著作物をコピーして独自に公開する行為とみなされます。たとえば、他人の画像を無断でスクリーンショットし、自分のビジネスアカウントで宣伝目的に投稿する場合、著作権侵害と判断されるケースが多く、損害賠償や削除要請を受けるリスクが生じます。
特にビジネス用途では、他人のコンテンツを自社SNSアカウントに転載することはリスクが高いため、著作権者の許可を得た上で転載するようにしましょう。たとえば、商品やサービスの宣伝で他人のレビューや画像を使う場合には、必ず著作権者の明示的な許可を取るべきだと考えられます。
リツイート事件とは? 判例が示したSNS利用のリスク
リツイート事件【最高裁令和2年7月21日判決(民集第74巻4号1407頁)】は、SNSの「リツイート」機能が著作者人格権(氏名表示権)を侵害する可能性があることを示した重要な判例です。ここで、著作者人格権とは、著作物に対する著作者の思いやこだわりを保護する人格的な権利で、広義の著作権に含まれる権利の一つです。
この事件では、プロカメラマンである原告がウェブサイトに掲載していた写真を、TwitterのユーザーAがTwitterに無断転載し、その投稿がユーザーBらにリツイートされるうちに、Twitterのトリミング機能によって原告の名前が表示されなくなったことについての訴えです。最高裁は、このユーザーBのリツイート行為も著作者人格権を侵害していると判断しました。
公式に提供されている「シェア」機能を利用したものであっても、トリミングや改変が行われることで、著作者人格権を侵害する可能性があると示した判例となります。リポストを行う際にも、あくまで著作権はコンテンツ制作者本人に属し、それを利用しているという原則に立ち返り、トリミングや引用の際には元の投稿者の名前が消えないよう配慮し、著作者の意図を尊重することが大切です。
リツイート事件が示す、ビジネス活用時のリスク回避法
リツイート事件を踏まえ、ビジネスでSNSを安全に活用するためには、以下の点を意識すると良いでしょう。
1.無断転載されているコンテンツをシェアしない。リツイート事件のようなトラブルを引き起こす可能性があるため、元となる投稿がオリジナルであるかを確認しましょう。
2.元の投稿者の意図を確認すること。商業的な利用が禁止されている場合など、著作者が認めていない利用方法でのシェアは避けるべきです。
3.コンテンツのトリミングや改変をしないこと。シェアをする場合なるべく、著作者の名前やクレジットが消えないよう、オリジナルの形でシェアすることを心がけましょう。
まとめ
SNSはビジネスにとって重要なマーケティングツールですが、著作権に関する理解が不十分だと、意図せず法的リスクを抱える可能性があります。シェアやリポストの正しい使い方を理解し、著作者の権利を尊重することで、安全なSNS利用を心掛けましょう。SNS上での著作権リスクに不安がある場合は、専門の弁理士に相談することをお勧めします。
令和6年度 日本弁理士会著作権委員会委員
弁理士 岡崎 真洋
※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。
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