ビジネスの著作権

企業における著作権に関する契約業務のご紹介

弁理士の著作権情報室

はじめに


企業の知財渉外部門では様々な知的財産に関する契約業務があります。例えば、自社の知財を第三者に利用許諾(ライセンスアウト)する場合や、第三者の知的財産を利用する場合(ライセンスイン)、また自社の知的財産を譲渡したり第三者の知的財産を買い取ったりする場合(譲渡契約)等があり、適切な契約処理を行う必要があります。最近は第3次AIブームによるAI開発が活発になっていることから、益々このような業務が増えていくことが予想されます。
今回はこういった企業における契約相談の一つである著作権ライセンスアウトの業務についてご紹介させていただければと思います。

企業における著作権に関する契約業務のご紹介

許諾対象の特定


著作権ライセンスアウトは第三者から自社の著作物を利用したいと申し出があった場合に行う契約業務です。申し出がなされる場合としては、第三者が自主的に申し出をしてくる場合や自社の開発部門やビジネス部門のビジネスパートナーにライセンスアウトする場合等様々なケースがありますが、いずれにしても第三者が利用許諾を受ける意思を明確してもらうため許諾対象を記載したライセンス申請書を提出していただくことが多いです。これに基づいて許諾対象を特定していきます。許諾対象の例としては、自社ブランドのキャラクターやソフトウェアなど様々なものが挙げられます。ソフトウェアのライセンスアウトでは、著作権法で保護されるプログラム自体やAIの学習用データの他、ノウハウとして扱われるその仕様書や著作権の保護対象外とされるAIの学習済みモデル、また、他法域で保護されるプログラムに関する特許権が許諾対象となっていることがあります。このような場合は第三者が今後ライセンスを受けて行いたいサービス等をよく把握し、著作物以外のものも含めた包括的な契約書作成が求められます。

著作権限成規定の適用


著作権法では個人使用等の範囲であれば著作権制限規定により無償で利用ができる場合がありますが、企業においても著作権制限規定の適用を受けられる場合があります。例えば、商用化に向けてのサービス開発段階としてアジャイル開発や概念実証(PoC:Proof of Concept)として著作権を利用許諾する場合は、著作権法の権利制限規定(第30条の4、第47条の4、第47条の5など)を適用して無償でライセンスを検討したりします。このように開発を促進して本サービスリリースを早めることにより事業貢献につながっていきます。なお、このような開発段階でのライセンスでは検証から得られた成果物の帰属を明確に契約書に規定しておくことも重要です。

対価算定


許諾対象が特定されると、次は対価算定をしていくことになります。対価算定については、様々な算出方法があると思いますが、原価法(コスト・アプローチ)、 取引事例比較法(マーケット・アプローチ)又は 収益還元法(インカム・アプローチ)等のように一般的に用いられている評価方法に基づくものであると第三者と金額の合意が取り易くなると思います。特許庁でも参考資料(知的財産の価値評価について)を提供していますので参考にしていただくと良いと思います。

対価請求


対価に加え、他の契約内容が決まると契約が締結され対価が第三者から支払われることになります。対価の支払いについては、一時金、ランニングロイヤルティ又は一時金とランニングロイヤルティを組み合わせた支払いがありますが、先方の要望や資金力等を考慮して決めていくのが一般的です。一方、社内においては一時金で一括払いの場合は収益計上の仕方など経理部門等と連携して業務を行ったりもします。また、R&D部門のように事業活動を行わない部門に帰属するソフトウェア等の著作物をライセンスアウトする場合、契約締結以降は知財部が収益計上等の処理を代行することもあります。このように企業知財部では様々な部門と連携して著作権業務を行っています。

さいごに


今回は著作権のライセンス業務の一例を紹介させていただきましたが、このような業務にご興味を持っていただけましたでしょうか。著作権法は頻繁に法改正が行われるため、実務を行っていくことが大変なときもありますが、本寄稿が著作権に関わる仕事がしたいという方が増えていく一助になれば大変嬉しく思います。

令和6年度 日本弁理士会著作権委員会委員

弁理士 野嶋 英之

※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。

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