クラブハウスにおける音楽再生 ~DJとして気をつけること~
はじめに
クラブハウスへ遊びに行くことはありますか?また、DJを経験したことはありますか?
筆者は若い頃、オールナイトのクラブイベントへ遊びに行き、色々な刺激があり楽しかったことを覚えています。このとき、DJさんが自ら曲を作って、回しやすい様にアレンジもしてなかなか大変だな…と思っていました。
しかし、色んなDJさんに聞いてみると、DJが自ら曲を作るのは寧ろ少数派と知りました。
お客さんに楽しんでもらうために、さまざまな音楽をかけることもあると思い、著作権法の観点から考えてみました。
本稿では、クラブハウスで他人の音源を使用する場合に注意すべきポイントと必要な手続きについてまとめています。若手のDJさんはもちろん、ベテランDJさんにも、ご一読いただけたらと思います。
著作権法の基本
音楽には著作権が存在し、著作権者(作詞家、作曲家、音楽出版社など)は、楽曲の使用について許可を与える権利を持っています。もし、自分で作曲した楽曲を使用せず、他人の音源をDJとしてミックスCDをクラブで使用する場合、著作権の中でも次の権利に注意する必要があります。
1) 複製権:音源をCDやデジタルファイルにコピーする場合
2) 上演権・演奏権:クラブで音源を再生し、お客さんに聞かせる場合
3) 翻訳権、翻案権等:音源をミックスする際に、編曲などする場合
各支分権について詳しくは過去記事「~著作権ってどんな権利?~」をご参照下さい。
ミックス音源を作る際の注意点
上記の支分権を踏まえて、ミックス音源を作成してクラブで使用する場合、著作権侵害とならないために、以下の手続きを行う必要があります。
1) 楽曲の複製に関する許可
先にも述べた通り、ミックス音源を作る際、他人の音源をコピーする行為は複製権の問題があります。一方、複製した音楽を個人的に楽しむ場合であれば、特に許可は必要ありません。詳しくは過去記事「著作権侵害にならない「私的使用」の限界はどこか」をご参照下さい。
クラブハウスなどで使用する目的で複製する場合には、JASRAC(日本音楽著作権協会)またはNexToneなどの管理団体から許可を取得する必要があります。
また、CD原盤をまわすのではなく、CDをパソコンにコピーしたり、ミックスCDとして収録する際に複製する場合には、レコード制作会社の権利(著作隣接権)にも注意しなければなりません。(参考「レコード製作者の権利とは? ~楽曲を使用した動画を投稿する際の留意点~」)
2) クラブでの演奏に関する許可
クラブハウスがJASRACと包括的利用許諾契約を結んでいる場合、管理楽曲をクラブで演奏することに問題はありません。このとき、J-WIDなどで使用楽曲が管理されているかどうかをチェックすると良いでしょう。
クラブハウスがJASRACの様な音楽著作権管理団体と契約がない場合、クラブハウスまたはDJが個別にJASRACへ申請を行い、演奏許可を得る必要があります。手続きについては後述致します。
3) 編曲の許可
曲と曲のつながりをスムーズにするくらいの、編曲が軽微なものであれば問題とならない可能性は高いでしょう。しかし、音源をミックスやリミックスする場合、原曲の構成や音源を大幅に改変することになると思います。このような、大幅な改変を行う場合は、同一性保持権の侵害となる可能性があり、著作権者の許可が必要となります。
同一性保持権について詳しくは過去記事「著作権使用料をJASRACに払っていればヒット曲をアレンジして使用しても大丈夫!?~同一性保持権にまつわる話」をご参照下さい。
手続きの方法
ここでは、JASRACの場合について、管理楽曲の使用許諾を行う方法を書いてみます。
また、そもそも使用許諾を得る必要があるシーンかどうかについても言及します。
0) クラブハウスやイベントについて
まず、クラブハウスが既にJASRACと包括契約を結んでいる場合、DJ個人が追加で申請する必要はありません。ただし、契約内容を事前に確認しておきましょう。
また、屋外イベントなどで、入場料無料のイベントでありDJにも報酬が無いなどの場合には、営利を目的としない上演等として問題無いでしょう。この範囲については過去記事「ストリートピアノの演奏と著作権」が参考になると思います。
1) 使用申請フォームを提出
JASRACのウェブサイトから必要な申請書をダウンロードし、楽曲リストを記載します。(セットリストは正確に!)また、使用目的(クラブでの演奏用など)も記載します。
2) 使用料の支払い
使用する楽曲の数やクラブ箱の大きさに応じて、使用料が発生します。
使用料計算のシミュレーションツールなども用意されています。
まとめ
ふとしたことから気になったDJと著作権について書いてみましたが、実際にはJASRACと契約しているクラブハウスも少なくなく、JASRACのステッカーを目にした事もあるかと思います。しかし、DJとして活動する際には、うっかり著作権侵害とならないようにクラブハウスのオーナーやイベントのオーガナイザーと話すなどをし、場合によってはJASRACやNexToneを通じて必要な許可を取得し、音楽を楽しんで欲しいと思います。
法令順守はシラけるなどと言わずに、著作権法を守って楽しいイベントにして下さいね。
☆この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。
令和6年度 日本弁理士会著作権委員会委員
弁理士 山本 雅之
※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。
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