芸術・文化の著作権

アイドルのパクリが著作権侵害になる場合って?

弁理士の著作権情報室

アイドルグループが他のアイドルグループのパクリ(模倣した)と、インターネット上のニュース等で騒がれる場合があります。どの様なパクリが問題になっているかを見ると、企画書がそっくりとのことで、コンセプトやイメージのパクリが問題になるようです。また、アイドルグループは、歌ったり、踊ったり等のパフォーマンスを行いますので、踊りの振り付け、楽曲や楽曲の歌詞のパクリが問題になることもあるかもしれません。更に、グループ名が似ていることが問題になる場合もあるかもしれません。
これらのパクリが、著作権侵害になるかを考えてみたいと思います。

アイドルのパクリが著作権侵害になる場合って?

コンセプトやイメージのパクリ


ここでのコンセプトやイメージは、そのアイドルグループが提供したい価値等を示すものだと思います。例えば、「大人っぽく、自立した女性の強さがある」等のようなものです。

著作権侵害となるには、パクった(盗用した)対象が著作物でなければなりません。
そして、著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したもの」だと著作権法で定められています。つまり、著作物は、思想又は感情そのものではなく、「表現したもの」でなければいけません。コンセプトは、思想そのものに近いものであって表現ではありませんので、著作物にはならないでしょう。従って、コンセプトやイメージをパクっても著作権侵害にはならないでしょう。

グループ名のパクリ


グループ名のパクリは著作権侵害になるのでしょうか?グループ名やタイトル等は、短い表現であることが多いと思います。上述したように、著作物は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」でなければならず、創作性つまり何等かの個性が発揮されていることが要求されます。短い表現については、著作者の個性が発揮できないとして、創作性がないと判断され易いです。従って、グループ名のパクリは、著作権侵害にならないことが多いと考えます。
しかし、グループ名のパクリは、グループ名が周知なものであれば不正競争行為として不正競争防止法上問題になるリスクがあります。また、グループ名について商標登録があると商標権侵害になるリスクがあります。

踊りの振り付け、楽曲、楽曲の歌詞のパクリ


(1)踊りの振り付け、楽曲、楽曲の歌詞が著作物であれば、そのパクリが著作権侵害になります。
著作権法では、どの様なものが著作物になるか著作物の例示を行っています。その例示に「舞踊」「音楽の著作物」「言語の著作物」が含まれております。従って、踊りの振り付け、楽曲、楽曲の歌詞は著作物にはなり得るのですが、それには創作性が必要とされます。

独自の振り付けについては、創作性がある可能性が高いですが、既存のステップや動作を組み合わせて振り付けられる場合は、創作性があり、パクると著作権侵害になるのでしょうか?

この点が判断された判例がありますが、個性が発揮されている特徴のある姿勢や短い動きと、動作の一連の流れ(組み合わせ)の両方で、創作性が基礎付けられているようです。

(2)バレエについての著作権侵害が争われた「ベジャール」事件では(平成8年(ワ)第19539号)、「動作の基本的な推移」と「特徴的な姿勢」が同じである場合に、同一性のある振り付けだと判断されています。

(3)フラダンスの著作物性が争われた「フラダンス」事件では(平成27年(ワ)第2570号)、次のように判断されています。「特定の歌詞部分の振付けの動作に作者の個性が表れているとしても、それらの歌詞部分の長さは長くても数秒間程度のものにすぎず、「特定の歌詞部分の振付けの動作に個別に舞踊の著作物性を認めることはできない。」と判断されています。この判断に基づくと、短い動作や姿勢のみをパクっただけでは、その動作に特徴があったとしても、著作権侵害にならなさそうです。

一方、「楽曲の振付けとしてのフラダンスは、そのような作者の個性が表れている部分やそうとは認められない部分が相俟った一連の流れとして成立するものであるから、そのようなひとまとまりとしての動作の流れを対象とする場合には、舞踊として成立するものであり、その中で、作者の個性が表れている部分が一定程度にわたる場合には、そのひとまとまりの流れの全体について舞踊の著作物性を認めるのが相当である。」と判断されています。従って、作者の個性が表れている一定程度にわたる部分を含む一連の流れに基づいて、類似するような形でパクれば、著作権侵害になりそうです。

(4)社交ダンスについての著作物性が争われた「Shall We ダンス?」の事件では(平成20年(ワ)第9300号)、ステップについては、「全体を構成する一部分となる短いものに過ぎない」として、著作物が否定されています。既存の基本ステップや、基本ステップを認識できる程度にアレンジを加えたステップだけでなく、新しいステップであっても、創作性がないと判断されています。

(5)上記から、ステップ等の短い動きや姿勢が特徴のあるものでも、これのみをパクるだけでは著作権侵害とならない可能性が高いと考えます。これに加えて、この動作や姿勢を含む動作の一連の流れが同じになるようにパクると、著作権侵害だと判断される可能性が高くなりそうです。

(6)楽曲については、「しまじろうのわお!」事件(平成28年(ネ)第10067号)、「記念樹」事件(東京高判平成14年9月6日)で著作権侵害かどうかが判断されています。これらの事件では、旋律(メロディ)を中心に、和声、リズム、形式といった音楽の4要素の対比によって著作権侵害となるパクリかどうかが判断されています。旋律(メロディ)が認識できる程度の長さをパクらなければ、著作権侵害にはならない可能性が高いでしょう。

歌詞についてですが、「グループ名のパクリ」の欄で上述したように、短い表現については、著作者の個性が発揮できないとして、創作性がないと判断され易いです。従って、歌詞の一部分の大変短い表現のみのパクリは、著作権侵害にはならないでしょう。どれぐらいの長さの文章をパクれば著作権侵害になるかの目安としてご紹介しますが、「ボク安心ママの膝よりチャイルドシート」が著作物だと判断された裁判例があります(平成13年(ワ)第2176号)。

まとめ


今回は、アイドルのパクリが著作権侵害になる場合について説明しました。コンセプトやイメージ等のパクリは著作権侵害にならず、踊りの振り付け、楽曲、歌詞等といった具体的な表現が類似する場合に、著作権侵害になるということです。グループ名のパクリについては、著作権侵害よりも、商標権侵害や不正競争行為にならないように注意しましょう。

令和6年度 日本弁理士会著作権委員会委員

弁理士 竹口 美穂

※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。

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