芸術・文化の著作権

コスプレが著作権侵害になる場合とは?コスプレに関する著作権ルール整備の動き

弁理士の著作権情報室

令和3年1月23日に、政府がコスプレに関する著作権ルールを整備する、との報道がありました。本記事は、令和3年1月1日時点の著作権法に照らして、コスプレがどのように取り扱われていて、どのような問題があり得るのかについて、令和3年1月24日時点の情報に基づき弁理士が解説するものです。※1月29日加筆修正を致しました。

コスプレが著作権侵害になる場合とは?コスプレに関する著作権ルール整備の動き

コスプレは著作物の複製(コピー)?


コスプレとは、デジタル大辞泉によれば、「漫画・アニメ・コンピューターゲームなどの登場人物の衣装・ヘアスタイルなどをそっくりそのまままねて、変装・変身すること」と定義されています。

ある漫画などの登場人物のコスプレをしようというときには、概ね以下のようなステップをとることが考えられます。

(1) コスプレのもととするイラストをパソコンなどに取り込む
(2) 取り込んだ画像をもとに衣装を制作する
(3) 制作した衣装を着用し、化粧・ヘアメイクをする
(4) 写真を撮影する
(5) 写真をSNSなどに公開する

ここで、漫画などの登場人物(キャラクター)のイラストは、著作物として著作権で保護されていますので、著作権者に無断でそのイラストを複製すると著作権侵害になります。また、著作権者に無断でそのイラストを立体化することも著作権侵害になります。

漫画などのキャラクターのイラストは、人形(フィギュア)として二次創作されることもあるので、あるフィギュアの衣装・ヘアスタイルなどをもとにしてコスプレをしようとする場合には、オリジナルのイラストについて発生した著作権のほか、フィギュアについて発生した権利も問題となり得ます。

コスプレをしたとしても、もとにした著作物とまるで似ていないような場合は、そもそも著作権侵害という問題は生じません。しかし、最近では非常にクオリティの高いコスプレも増えています。完成度の高いコスプレを行うと、他人が創作した著作物をそっくりそのまま複製したということになりかねません。また、コスプレをして、もととしたキャラクターの動作を演じると、他人が創作した著作物を上演したということにもなり得ます。

このように、著作権法の原則通りに考えると、上記の(1) から(5) のステップを踏もうとすると、著作権法に照らして問題になり得るものと言えます。しかし、著作権法上、著作権者の利益を害することのない範囲で、自由に著作物を使用することができる範囲が定められています。

個人的にコスプレを作るのはOKで、撮影もOK。SNSにあげるとNGになる?


著作権法上、個人的又は家庭内といった、限られた範囲内であれば、著作権者に許諾を得ることなく、著作物を「複製」することが認められています(私的使用)。また、その際に、著作物を変形したり翻案したりすることも認められています。

したがって、漫画などの登場人物のイラストについて、上記で記載した(1) コスプレのもととするイラストをパソコンなどに取り込む、(2) 取り込んだ画像をもとに衣装を制作する、(3) 制作した衣装を着用し、化粧・ヘアメイクをする、(4) 写真を撮影するという行為をすることは、著作物の「複製」、「変形」又は「翻案」の範囲内のものであり、私的使用に当たる限り、著作権侵害にはならない、ということになります(私的使用の範囲については「著作権侵害にならない「私的使用」の限界はどこか」も参照)。

ただし、著作者人格権を侵害するようなコスプレは、私的使用であっても、著作権法上問題になり得ますので注意が必要です(著作者人格権については「著作者人格権ってどんな権利?著作権とはどう違うの?」を参照)。

また、もとにしたキャラクターの動作を演ずる場合、それが非営利かつ無報酬で行われる場合には問題ありません。しかし、その上演の機会が、有料の撮影会であったり、撮影が行われるイベント自体が有料のものであったりすると、法的には問題があるということになります。

一方、上記で記載した(5) 写真をSNSなどに公開する、については、私的使用で認められている「複製」ではありませんし、「変形」でも「翻案」でもありません。インターネット上に著作物を公開する行為は、「公衆送信」という行為になり、私的使用の目的でも認められていません。

実際のコスプレイベントでは、コスプレイヤーの写真撮影会が開催され、その時の写真がインターネット上に掲載されていることは少なくありませんが、法的には目的外使用ということでNGということになります。

以上のとおり、コスプレ写真をSNSにあげると、私的使用で認められた著作物の目的外使用ということになるわけですが、目的外使用となりますと、前記の(1) コスプレのもととするイラストをパソコンなどに取り込む、(2) 取り込んだ画像をもとに衣装を制作する、(3) 制作した衣装を着用し、化粧・ヘアメイクをする、(4) 写真を撮影するという行為についても、遡って違法とみなされることになるので注意が必要です。

コスプレでお金をもらったらNG?タダでもNGな場合がある?


もともとは趣味でやっていたコスプレが、だんだんと人気になり、人気コスプレイヤーとして評判を集めることになると、コスプレイヤーとしてお仕事が生まれることになります。前述のとおり、私的使用というのは、個人的又は家庭内、あるいはこれに準ずる限られた範囲で認められるものですので、お仕事としてコスプレをするようになると、その範囲から出てしまう(私的使用でなくなってしまう)場面が出てきます。

著作権法の私的使用に関する規定では、無償ならOKとか有償ならNGといったような、対価の有無を判断基準とするような書きぶりにはなっていません。したがって、お金をもらったら即NGというものではありませんが、逆に、無償なら何をやってもいいというものでもありません。さらに、上演という観点からは、侵害にならないためには非営利かつ無報酬である必要がありますので、もととした著作物を演ずるという場合には、目的と対価の有無は侵害の成否に影響を及ぼします。

あるコスプレが最終的に著作権侵害になるかどうかというのは、そのコスプレの完成度や現実の状況にもよりますので、実際には個別の事案に照らした具体的な判断となり、竹を割ったような判断基準はありません。これからやろうとしているコスプレが、個人的又は家庭的な範囲内でなされるものであるか、演ずるときには非営利かつ無報酬であるかについて、コスプレを始める前に、一度立ち止まって考えるということが大切と言えます。

冒頭のルール整備は、こうしたあいまいな部分を少しでも明確にしようという取組であると見受けられます。コスプレ文化は、法的にはグレーな部分があったうえで発展してきた点は否定しがたいですが、それが著作権者の利益を不当に害することがあってはなりません。とはいえ、ルールをただ厳しくしただけでは、コスプレ文化が衰退しかねません。安心して楽しめるように、コスプレをしようという方は、今後の動向に注目するべきと言えるでしょう。

令和2年度 日本弁理士会著作権委員会委員

弁理士 伊藤 大地

※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。

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