時事ネタで考える著作権 -元交際相手とのツーショット写真のオークション出品-
スナップ写真は誰のもの?
まずスナップ写真については、マスク氏の大学時代の元恋人によりオークションに出品されたとのことであり、元恋人またはマスク氏のいずれが撮影したとしても、プリントされた写真は自ら撮影またはマスク氏から贈られた(贈与)と考えられますから、元恋人はその所有権を有していると考えられます。
オークションへの出品は?
所有権は、物を自由に直接かつ排他的に支配できる権利であり、所有者は、法令の範囲内で所有物を自由に使用し、収益し、又は処分することができます(民法第206条)。したがって、元恋人は、当該写真をオークションに出品して売却(処分)することも,著作権を考慮しなければ、自由にできると考えられます。
そもそもスナップ写真は著作物?
著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいい、思想又は感情を創作的に表現したものであれば、特に高度な芸術性を求められることはありません。本件スナップ写真も、被写体の構図やシャッターチャンスの捉え方において撮影者の個性が表現されていると考えられますので、著作物性は認められるでしょう。
では、著作権者は誰?
著作権は、原始的に著作物の創作者に帰属します。元恋人が撮影したものであれば、本件写真の著作権も元恋人が有しており、著作権の問題は生じません。他方、マスク氏が撮影したものであれば、本件写真の著作権はマスク氏が有していることから、著作権が問題になり得ます。
その場合、元恋人のいかなる行為が著作権侵害となるでしょうか?
著作権は、複製権や公衆送信権といった著作権法第21条から第28条に支分権として規定されていますから、それぞれ検討する必要があります。
まず、複製権は?
複製権は、著作権が英語でコピーライトといわれるように、著作権の最も基本的な権利ですが、本件写真はマスク氏がプリント(複製)して、元恋人に贈った(贈与)と考えられ、元恋人は複製行為をしていません。したがって、複製権は問題とならないでしょう。
それでは、展示権は?
著作者は、まだ発行されていない写真の著作物をこれらの原作品により公に展示する権利を専有するので(著作権法25条)、元恋人がマスク氏に無断で本件写真をオークションのために展示(その指示により展示させた)することは、展示権の侵害に該当するおそれがあります。しかし、写真の著作物の原作品の所有者又はその同意を得た者は、これらの著作物をその原作品により公に展示することができるとされていますので(同45条)、本件写真の所有者である元恋人はマスク氏の許諾なくオークション解除上において本件写真を展示できることになります。
譲渡権もある。
著作者は、その著作物をその原作品又は複製物の譲渡により公衆に提供する権利を専有することから(同26条の2)、元恋人は本件写真が落札されたとしても、これを譲渡することができないのではないかとも思われます。
しかし、譲渡権は譲渡権を有する者により特定かつ少数の者に譲渡された著作物の原作品又は複製物には及ばないので(いわゆる消尽)、譲渡権も問題になりません。
最後に、公衆送信権は?
本件オークションが、リアルの会場ではなく、オンラインにより行われた場合には、本件写真の画像をインターネット上で掲載することになると思われますから、公衆送信権(23条)が問題となります。
しかし、美術の著作物又は写真の著作物の原作品又は複製物の所有者その他のこれらの譲渡又は貸与の権原を有する者が、譲渡権を侵害することなく、その原作品又は複製物を譲渡しようとする場合には、その申出の用に供するため、これらの著作物について、政令で定める措置を講じたうえで、複製又は公衆送信を行うことができます(47条の2)。この政令で定める措置は、デジタル方式により公衆送信を行う場合にあっては、コピープロテクションがない場合は、当該公衆送信により送信される著作物に係る影像を構成する画素数が32,400以下、コピープロテクションがある場合は、90,000以下であって、著作物の複製物の大きさ又はこれらに係る取引の態様その他の事情に照らし、これらの譲渡又は貸与の申出のために必要な最小限度のものであり、かつ、公正な慣行に合致するものと規定されています(著作権法施行規則4条の2第2項及び第3項)。
したがって、写真の画像が、上記基準を満たしている場合は、ネットオークションに出品することが可能です。
としても、著作者人格権は?
著作者は、著作権(財産権)とは別に、著作者人格権として公表権、同一性保持権、氏名表示権を有しています。
本件では、プリントされた写真は加工されておらず、そのまま出品されたと考えられますから、同一性保持権は問題となりません。また、氏名表示権は、撮影者を表示すれば容易に回避可能です。
では、公表権はどうでしょうか?
著作者は、その著作物でまだ公表されていないものを公衆に提供し、又は提示する権利を有しているところ、本件写真は、オークション出品の前に、マスク氏により公表されていないと思われますので、元恋人がオークション出品により、展示又は公衆送信することは、マスク氏の公表権を侵害するかが問題となります。
この点、著作者が、その美術の著作物又は写真の著作物でまだ公表されていないものの原作品を譲渡した場合は、これらの著作物をその原作品による展示の方法で公衆に提示することに同意したものと推定されます。
本件では、マスク氏によりプリントされた写真の原作品が譲渡されていますから、展示については同意したものと推定されます。しかし、公衆送信については、同意は推定されません。とはいえ、ITが高度に発達した現代では、これまでリアルで行われたことがオンラインで行われるようになっています。展示の方法で認められることを(しかも、著作権侵害にはあたらない)、単にオンラインにより提示するにすぎない場合には、類推適用の余地があるのではないかとも思われます(なお、これが写真ではなく、手紙、例えば、ラブレターであったならば、上記の適用はなく、著作権、著作者人格権を侵害することになると考えられます)。
以上から、元恋人がマスク氏とのツーショット写真をオークションに出品することについては、著作権侵害にはあたらないものと考えられます。
令和4年度 日本弁理士会著作権委員会委員
弁理士 木村 達矢
※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。
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