レコード製作者の権利とは? ~楽曲を使用した動画を投稿する際の留意点~
今回の件では、その楽曲についての著作権者であるアーティスト本人の公式アカウントでも音声が消されている動画がある一方で、その楽曲の著作権を有していない一般の方が投稿している「歌ってみた」動画などでは、音声が消されていないものもあります。これはどういうことなのでしょうか?
日本におけるレコード製作者の権利
本記事のタイトルからバレバレではありますが、これは、レコード製作者(多くの場合はレコード会社)が保有する権利が問題となったものです。UMGは米国にオペレーション本部を置く企業ですので、今回のTikTokの件は米国の著作権法が適用されると仮定して説明しますが、本記事では、まず、日本の著作権法におけるレコード製作者の権利について触れたいと思います。
皆さんが聴く楽曲に関して、通常、作曲者はそのメロディについて著作権を有し、作詞者はその詞について著作権を有しています。そして、それだけではなく、レコード製作者も、自身が製作した「原盤」について著作隣接権という権利を有しています。
「原盤」とは、市販CDや配信用音楽データ等を作る際の元になる音源が固定されたものであり、マスターテープとも呼ばれます。「原盤」を製作するにあたって、レコード製作者は、楽曲を録音する際に生じる費用(アーティストへの報酬、スタジオ使用料など)や、ミキシングやマスタリングといった編集・調整作業の際に生じる費用等の多額の費用を負担しています。レコード製作者に認められる著作隣接権は、このような費用負担に報いるためのものであり、「原盤」についての権利であることから、慣習的に原盤権とも称されます。
日本の著作権法において、レコード製作者の権利(原盤権)は、著作権法第96条~97条の3に規定されており、例えば、「原盤」に固定された音源を複製する権利(複製権)や、「原盤」に固定された音源をサーバーにアップロードする権利(送信可能化権)などを含んでいます。
市販CDや配信用音楽データは、元々、「原盤」に固定された音源を複製したものですので、権原のない者が、市販CDや配信用音楽データを再生して流れる楽曲(市販CD等に固定された音源)をサーバーにアップロードする行為は、上記の送信可能化権を侵害することになります。また、この場合、サーバー上に音源を複製することにもなりますので、上記の複製権の侵害にも該当します。
原盤権は、その楽曲の曲や詞についての著作権とは別の権利です。その楽曲の曲と詞について著作権を有するアーティストであっても、原盤権者の許諾なしに、市販CDや配信用音楽データを再生して流れる楽曲を自身のHPやSNS上で使用することはできません。一方で、「原盤」に固定された音源を用いなければ原盤権の侵害とはなりませんので、原盤権者の許諾がなくても、その楽曲の著作権者の許諾があれば、その楽曲を自身で演奏・歌唱してHPやSNS等にアップロードすることが可能です。
米国におけるレコード製作者の権利
米国の著作権法においても、「原盤」に関する原盤権が認められています。米国における原盤権は、著作隣接権ではなく著作権として保護される点や、含まれる権利の種類の点など、日本の原盤権と異なる点もありますが、原盤権者の許諾なく、「原盤」に固定された音源を複製することや、当該音源をインターネット送信することを禁じている点は共通しています。
今回のTikTokの件で音声が消された動画は、UMGが原盤権を有する「原盤」由来の楽曲、すなわち、UMGが販売した市販CDや配信用音楽データから再生される楽曲を用いていたものと思われます。一方で、音声が消されていない「歌ってみた」動画などは、UMG以外の者(例えば、カラオケ配信会社)が原盤権を保有し、TikTokでの利用が許諾されている「原盤」由来の楽曲を用いていると推測されます。
なお、外部の音源を用いずに自分で演奏していれば、当然ながら原盤権の問題は生じませんので、楽曲の曲や詞の著作権だけクリアされていれば良いことになります。また、近年では、アーティスト本人が原盤権を保有するケースも増えています。TikTokで音声が消されていない動画は、これらのケースに当て嵌まる場合もあるかと思います。
楽曲を使用した動画を投稿する際の留意点
楽曲を使用した動画を投稿する際に、楽曲の音源として市販CDや配信用音楽データを用いる場合は、その楽曲の著作権だけではなく、レコード会社等が保有する原盤権についても留意しましょう。
楽曲の著作権は、JASRACやNexToneといった著作権管理団体が管理していることが多く、また、これらの著作権管理団体は、TikTokやYouTube等のプラットフォーマーと包括的な利用許諾契約を結んでいることが多いです。しかし、これらの著作権管理団体は、原盤権については管理していません。原盤権については、以前のTikTokとUMGのように原盤権者とプラットフォーマーの間で包括的な利用許諾契約がある場合を除いて、原則、レコード会社等の原盤権者に直接連絡をして許諾を求めることが必要です。
令和5年度 日本弁理士会著作権委員会委員
弁理士 服部 洋
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