IT関連の著作権

  • 著作権が制限されるという「電子計算機における著作物利用に付随する利用等」とは何ですか?

    著作権法では、著作物を複製する行為は、著作権法で定められた著作物の利用行為(著作権の侵害行為)として定められています。電子計算機(コンピュータ)によって、データ等を補助記憶装置(HDDやSSD等)に保存する場合には、元データの複製が作成されます。従って、元データが著作物である場合には、元データの複製は、著作権侵害となってしまう可能性があります。もっとも、著作権法で定められた利用行為をしても著作権侵害とならない場合(つまり著作権が制限される場合)についても、著作権法には定められています。 著作権が制限される場合として、「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用」があることは、「生成AIの学習は著作権侵害にならない?「著作権が制限されるという『著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用』とはどの様なものですか?」という原稿で記載しました。 上記の他に、著作物の知覚行為(見る、聞く、読む等)を伴うことから、「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用」ではないけれど、「主たる著作物の利用行為」の補助的・補完的な行為にすぎないような行為、すなわち「電子計算機における著作物利用に付随する利用」についても、著作権が制限される場合があります。「主たる著作物の利用行為」の補助的・補完的な行為にすぎないような行為とは、例えば、インターネット上のウェブページを視聴する際に、ブラウザで効率的に著作物を表示するために、利用者のコンピュータにおいてキャッシュを作成する行為等です。 この様な、「電子計算機における著作物利用に付随する利用」等について、以下に説明いたします。

  • ~AI生成物について~ 「AI生成物の著作権侵害とは?」・「AI生成物の著作物性は?」

    はじめに まず初めに平成30年の著作権法改正で規定されました著作権法30条の4第2号について簡単に触れたいと思います。詳細は、下記参考文献1及び2をご参照ください。 平成30年の著作権法改正で、『「著作物は」、「情報解析の用に供する場合」、「著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。」、「ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。」』(著作権法30条の4第2号)という新しい著作権の制限規定が設けられました。そしてこれにより、AIシステム開発のための情報解析のように、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない大量のコンテンツの機械学習については、原則著作権者の許諾なく行うことが可能となりました。この規定は、営利目的の場合にも適用される点やあらゆる著作物の利用行為にも適用される点で、諸外国と比較してもAI学習のための著作物の利用を広く認めている規定といえ、また、AIシステムの開発を活性化させるものといえます。また、AI学習のために著作物の利用を広く認めているこの日本の規定・状況に関して、「日本は機械学習パラダイス」とも言われています。 一方、日本新聞協会などからは、「学習利用の価値が著作権者に還元されないまま大量のコンテンツが生成されることで、クリエーター等の創作機会が失われ、経済的にも著作活動が困難になる」、「元の作品への依拠性・類似性が高い著作権侵害コンテンツが生成・拡散される」等といったリスクを指摘する声も出ています。また、この規定は生成AIの急速な進歩・普及を想定して規定されたものでないように思われ、規定の見直しが必要なのではという声も出ています。 AI生成物の著作権侵害について 著作権法を管轄する文化庁が、令和5年6月に、「AIと著作権」と題したセミナーを開催し、その中で、AI生成物の著作権侵害についての考え方を公表しています。 そして、AI生成物に関する著作権侵害については、「人がAIを利用せずに絵を描いた場合などの、通常の場合と同様に判断」されるとしています。また、著作権侵害の有無は、AI生成物に『既存の著作物との「類似性」及び「依拠性」が認められる場合、そのようなAI生成物を利用する行為は、①権利者から利用許諾を得ている、②許諾が不要な権利制限規定が適用される、のいずれかに該当しない限り、著作権侵害になる』ともしています。従って、AIを利用して生成した文章や画像などのAI生成物をアップロードやそのAI生成物の複製物(イラスト集など)を販売する行為などについての著作権侵害の判断は、通常の著作権侵害と同様の判断基準が適用されることになります。 ここで「依拠とは、他人の著作物に接し、それを自己の作品の中に用いることを指す」と解されています(3)。そうすると、利用したAIシステムにどんなコンテンツを学習させたかを知り得ないAIシステム利用者が生成したAI生成物に関して、既存の事例をベースに判断することは難しく、依拠性をどんな観点でどう判断すべきかは難しい問題です。文化庁のなかでもこれについては議論されています。文化庁のセミナーテキスト「AIと著作権」でも、「元の著作物がAIの学習に用いられていれば、依拠性を認めてよいのではないか」、「AI生成物が、学習に用いられた元の著作物の表現と類似していれば、依拠性ありと推定してよいのではないか(その後はAI利用者の側が、元の著作物がAI生成物の作成に寄与していないことを立証すべき)」、「「AI利用者自身の独自創作であること」に加えて、「AI自体が学習対象の著作物をそのまま出力するような状態になっていないこと(AIの独自作成であること)」の両方がいえない限りは依拠性ありと考えるべきではないか」等の意見・見解が紹介さてれています。今後この「依拠性」についての議論・動きについては要注目です。 AI生成物の著作物性について 著作物は「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」とされています(著作権法第2条第1項第1号)。そして、これを受けて、文化庁はセミナーテキスト「AIと著作権」では、コピー機を操作して著作物をコピーするように、『人が何ら指示を与えず(又は簡単な指示を与えるにとどまり) 「生成」のボタンを押すだけでAIが生成したもの』のような『AIが自律的に生成したものは、「思想又は感情を創作的に表現したもの」ではなく、著作物に該当しないと考えられます』と言っています。また、このテキストの中で、『人が思想感情を創作的に表現するための「道具」としてAIを使用したものと認められれば、著作物に該当し、AI利用者が著作者となると考えられます』とも言っています。また、『人がAIを「道具」として使用したといえるか否かは、人の「創作意図」があるか、及び、人が「創作的寄与」と認められる行為を行ったか、によって判断されます』とも言っています。また、『どのような行為が「創作的寄与」と認められるかについては、個々の事例に応じて判断することが必要ですが、生成のためにAIを使用する一連の過程を総合的に評価する必要があると考えられます』とも言っています。そして、『今後、この「創作的寄与」についても、文化庁として考え方を整理し、周知を進めていきます』とも言っています。今後のこの「創作的寄与」についての議論・動きにも要注目です。 <参考文献> 1.イノベーションズアイ「弁理士の著作権情報室」 『生成AIの学習は著作権侵害にならない?著作権が制限されるという「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用」とはどの様なものですか?』   2.文化庁:令和5年度著作権セミナー「AIと著作権」テキスト 3.中山信弘「著作権法」第3版709頁 有斐閣

  • 生成AIで出力したAIイラストが、著作権侵害になる場合は?

    2024年2月28日に掲載の記事では、「AIイラストに著作権が発生するか」について、入門的に説明しました。 今回は、別の基礎的な論点として、AIイラストが、著作権侵害になるのはどういった場合か、入門的に説明したいと思います。 ところで、再掲となりますが、文化庁は令和5年6月に「AIと著作権」と題したセミナーを開催しました。その資料は下記サイトにて見ることができます。 「AIと著作権」(PDF) また、さらに様々な論点に対する考え方について、「AIと著作権に関する考え方について(素案)」が開示されています(令和6年1月15日(月)、文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第6回))。なお、本稿執筆時点においては2月29日版が開示されました(第7回)。 「AIと著作権に関する考え方について(素案) 」(PDF) 著作権侵害になる場合とは? AIイラストの侵害判断については、基本的には、判断はこれまでの人が制作したイラストと変わらないとされています。 「AIを利用して生成した場合でも、その利用が著作権侵害となるかは、人がAIを利用せず絵を描いた等の場合と同様に判断されます。 (出典:文化庁 令和5年6月 「AIと著作権」) ということで、まず「著作権侵害が成立する場合」をわかりやすく簡単な表現でまとめると、  1.他人の著作物(著作権のあるイラスト等)に依拠して(よりどころとして)制作されたものであること  2.AIイラストがその他人の著作物と類似していること  3.私的使用など、無許諾での利用が法的に認められている利用態様でないこと が要件となります。 ここからわかることですが、著作権法は「アイデア」「作風」や「事実」自体を保護するものではないので、たとえ「依拠」していても(参照して制作したものであっても)、「表現」が「類似」していなければ、権利侵害は成立しません。しかし、「表現が類似しているか(似ているか)」の判断は、機械的に定まるものではなく、地裁・高裁・最高裁で判断が異なったケースが存在しますし、専門家でも難しい場合があります。 また、仮に「類似」していたとしても、全くその著作物を知らずまた見たこともなく、自分で独自に創作したものであれば(偶然一致であれば)、依拠がなく侵害にはならないことになります。 また、私的使用の場合などは、依拠しておりかつ類似の創作物であっても、侵害が成立しません。しかし、このような場合は限られており、ウェブやSNSへの投稿は基本的に私的使用と認められないので注意が必要です。この点は、下記の記事が参考になるでしょう。 『著作権侵害にならない「私的使用」の限界はどこか』 AIイラストに特有の留意点はある? 前項では、判断は「人が制作したイラストと変わらない」と述べましたが、実は、一点、AIイラストに特有な論点があります。 それは、 「AI利用者が既存の著作物を認識していなかったが、AI 学習用データに当該著作物が含まれる場合」(出典:文化庁「AIと著作権に関する考え方について(素案)」) です。 。。。ちょっと難しいですね。これは、先ほど述べた「依拠」に関するところです。これまでは、制作した「人」が全く知らずまた見たこともなく偶然一致であった場合は、侵害にならないとされていました。一方、生成AIは、生成者が全く想像もしなかったようなイラストを沢山出力してくれます。しかし、そのAIイラストが、そのAIが学習したことのある「イラスト」と似ているものであった時、どう考えるか?という話です。 今のところ、その著作物を「学習していた場合」には、依拠を認め侵害とするとする見解が強いようです。(ただし、司法判断はまだ出ていません。なお、日本弁理士会著作権委員会は、依拠性を認めることを排除しないが、完全に一律には認めるべきではないという報告書を作成しています。2月29日版の素案では、同趣旨の内容が素案に追加されました。詳しい紹介は、今後機会があれば記事にしたいと思います。)。 。。。見た方が早いですね。下記の写真風イラストを見て下さい。

  • 生成AIで出力したAIイラストに、著作権は発生するの?

    2023年以降、生成AIに関する話題がつきません。ChatGPT,Stable diffusion, Midjourney, Adobe Fireflyなど、多くの高度な生成AIが登場し、文章やイラストを誰でも簡単に作成することができるようになりました。特にイラストを簡単なプロンプトで制作できるようになったインパクトは非常に大きく、著作権法に絡んだ様々な議論が活発に行われています。例えば、文化庁は令和5年6月に「AIと著作権」と題したセミナーを開催しました。その資料は下記サイトにて見ることができます。 https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/pdf/93903601_01.pdf また、さらに様々な論点に対する考え方について、「AIと著作権に関する考え方について(素案)」が開示されました(令和6年1月15日(月)、文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第6回))。なお、本稿執筆時点においては素案にすぎませんが、最終版においても、要旨は大きくは変わらないと推定されます。 https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hoseido/r05_06/pdf/93988501_01.pdf しかしながら、文章で解説されても、「結局どういうこと?」ということがわかりにくいと思う方も多いと思います。そこで、今回は「生成AIで出力したAIイラストに、著作権が発生するのか(著作物性が認められるか)?ということについて、入門的に説明したいと思います。 生成AIで出力したAIイラストに、著作権が発生するのか?(著作物性が認められるか?) 文化庁の資料に基づくと、生成AIで出力したイラストについて、抜粋すると次のことが記載されています。 「AIが自律的に生成したものは、 『思想又は感情を創作的に表現したもの』ではなく、著作物に該当しないと考えられます。」 「これに対して、人が思想感情を創作的に表現するための「道具」としてAIを使用したものと認められれば、著作物に該当し、AI利用者が著作者となると考えられます。」 「人がAIを「道具」として使用したといえるか否かは、人の「創作意図」があるか、及び、人が「創作的寄与」と認められる行為を行ったか、によって判断されます。」 (出典:文化庁 令和5年6月 「AIと著作権」) 「生成 AI に対する指示が表現に至らないアイデアにとどまるような場合には、当該 AI 生成物に著作物性は認められないと考えられる。」 (出典:文化庁「AIと著作権に関する考え方について(素案)」) ううん。。。専門的な言葉が多いので、なかなか難しいですね。 では、具体的なイラストを基に考えてみましょう。次のイラストを見て下さい。

  • 生成AIの学習は著作権侵害にならない?著作権が制限されるという「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用」とはどの様なものですか?

    著作権法で定められた著作物の利用行為をした場合には、原則、著作権侵害となりますが、この様な利用行為をしても著作権侵害とならない場合についても、著作権法には定められています。この場合には、著作権が制限され、著作権侵害にはなりません。社会は変化しますが、この変化に合わせて著作権法が改正されて、著作権法で定める著作権が制限される場合も変わることがあります。 「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用」は、著作権法第30条の4に定められた著作権の制限であり、平成30年の著作権法改正で定められた比較的新しい著作権の制限です。「デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定の整備」を目的として追加されました。 近年、生成AIが急速に普及しておりますが、生成AIに関する著作権法上の問題が議論される際に、AIによる著作物の学習が著作権侵害にならない根拠として、上記「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用」があげられます。従って、この著作権の制限への注目が高まっているのではないでしょうか。以下に、「上記著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用」とはどの様なものかを説明します。

  • メタバースと著作権

    近年、メタバースという言葉を日常的に耳にするようになりました。特に2022年は新語・流行語大賞に「メタバース」がノミネートされるなど、メタバースという言葉が脚光を浴びる一年となりました。 2022年11月には、事業者向けにバーチャル空間を提供するサービスを展開する企業がグロース市場に上場することが公表されました。事業者がそのようなサービスを通じて、メタバース上で自社のPRをするようにもなりました。 今回は、今後ますます広がりを見せていくものと考えられるメタバースと著作権の問題について説明致します。

  • NFTとプラットフォームと著作権

    巷で良く聞く「NFT」。凄そうで、ビジネスチャンスもありそうだけど、中身がなんだかよくわからない。本稿では、なるべくわかりやすく解説してみようと思います。

  • NFTアートと著作権

    私も、お客様のご相談に乗っている時や経営者仲間とビジネスの話をしているときに、NFTについて質問されることが多くなってきました。 特にご質問が多いのは、NFTアートと著作権の関係についてです。 正直、このテーマに関しては、すでにインターネット上でもいくつも優れた記事が存在します。一からきっちり法律論を説明している記事もたくさんあるかと思います。 そんな中で、この記事では、一般的な法律論というよりも、もっと実際にNFTを利用してデジタルデータを販売しようと考えている方の視点に立って、ビジネスで役に立つ情報を提供できればと思って書きました。

  • 誰がプログラムの著作者になるの?

    プログラムも、著作権法により著作物として認められる場合があります。詳細については著作物と認められるプログラム認められないプログラムを参照してください。その場合、誰が著作者になるかについては、一般の著作物とは異なるプログラム特有の規定がありますので、以下説明させて頂きます。これに関連して、プログラムには著作者人格権の特例がありますので、それも説明させて頂きます。

  • 著作物と認められるプログラム認められないプログラム

    プログラムは、著作物ではないと思いがちです。 しかしそうではありません。一定の要件を満たすプログラムは著作物として保護されます。他方、どの様なプログラムでも著作物と認められるわけではありません。では、どのようなプログラムが著作物と認められるのでしょうか。

  • 「プログラム著作物登録」のメリットとは~ソフトウェアは著作権で守れる?~

    著作権は、著作物の創作と同時に自動的に発生する権利です。したがって、特許権や商標権などとは異なり、権利を発生させるために、国の審査を経て登録を受ける必要はありません。しかし、著作権が発生した後において、著作権関係の法律事実を公示したり、著作権が移転した場合の取引の安全を確保したりするため、一定の登録制度が設けられています。 システムやスマホアプリ等のプログラムは、他の種類の著作物に比べて、この著作権登録を受けるメリットが大きいと言われています。

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