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IT関連の著作権

メタバースと著作権

弁理士の著作権情報室

近年、メタバースという言葉を日常的に耳にするようになりました。特に2022年は新語・流行語大賞に「メタバース」がノミネートされるなど、メタバースという言葉が脚光を浴びる一年となりました。

2022年11月には、事業者向けにバーチャル空間を提供するサービスを展開する企業がグロース市場に上場することが公表されました。事業者がそのようなサービスを通じて、メタバース上で自社のPRをするようにもなりました。

今回は、今後ますます広がりを見せていくものと考えられるメタバースと著作権の問題について説明致します。

メタバースと著作権

メタバースとは何か?


メタバースは、「超(meta)」と「宇宙(universe)」を組み合わせた造語であり、もともとは、1992年に発表された『スノウ・クラッシュ』というアメリカの小説に登場する仮想空間のサービス名でした。メタバースは、仮想空間一般のことを示す用語として用いられていますが、経済産業省の「令和2年度コンテンツ海外展開促進事業(仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業)」という報告書上は、多人数が参加可能で、参加者がその中で自由に行動できるインターネット上に構築される仮想の三次元空間と定義されています。

メタバースとビジネス


企業がメタバース空間を用いてビジネスを行うことも多くなってきました。例えば、大手百貨店は、メタバース空間で買い物ができるサービスの提供を開始しています。また、エンタメ系企業では、バーチャル空間で様々なエンターテイメントコンテンツを配信するサービスを提供しています。バーチャル空間の開発・提供を行っている企業では、バーチャルオフィスを提供するサービスを提供しています。
このようにメタバースは、BtoCビジネスだけでなく、BtoBビジネスにおいても活用されています。

メタバースと著作権


メタバース空間においては、画像、映像、音楽、ブランドロゴ等の様々なデジタルコンテンツが利用されています。例えば、都市再現型のメタバース内においては、都市に存在するビル、看板、美術品が設置されたり、大型ビジョンからは映像や音楽が流れたりしています。そして、画像、映像、音楽、美術品等は著作物となり得るため、著作権者の許諾を得ずにメタバース空間において使用した場合には、知らないうちに他者の著作権を侵害していたということになりかねません。そのため、メタバース空間においては、他者の著作権等を侵害していないかという点に留意しながら、ビジネスを展開していく必要があります。
本記事においては、メタバース空間で主に問題となり得る建築物、アバター、オブジェクトの3つについて説明していきます。

建築物と著作権


建築物は、美術性ないし鑑賞性を有している場合には、建築の著作物として著作権法上保護されます。例えば、東京タワーなどは建築の著作物として保護され得るといわれていますが、建売住宅のような一般的な建築物は保護されないことが多いです。
建築の著作物は、建築の著作物を建築により複製して公衆に提供する場合等の一定の場合を除いて、著作権法上の権利制限規定により自由に利用することができることとされています。メタバース空間で著作権法上保護される建物を再現するような場合には、建築により著作物を複製するものではないため、著作権侵害となるケースは少ないといえるでしょう。なお、現実に存在する建物にアレンジを加えてメタバース空間で公開する場合には、著作者人格権(同一性保持権)の侵害となるという指摘がされているため、この点は注意が必要です。

アバターと著作権


アバターは、作成されたアバターの種類によって誰にどのような権利が発生するかが異なります。実際に存在する人間をリアルに再現したアバターは、思想または感情を創作的に表現したものではないため、当該アバターは著作物となりづらいといわれています。他方で、映画「アバター」に出てくるような架空のキャラクターをアバターとする場合には、当該キャラクターを制作した者(クリエイターやイラストレーター)に著作権が発生することとなります。では、プラットフォーム側がアバターやキャラクターの作成素材等を準備し、ユーザーが準備された作成素材等を組み合わせてアバターを制作するような場合はどうでしょうか。このような場合、ユーザーはプラットフォーム側で準備した作成素材を使用してアバターを作成したものに過ぎず、創作性の要件を欠くことが多く、プラットフォーム側に権利が帰属する可能性が高いといえます。

オブジェクトと著作権


メタバース空間においてオリジナルのアイテムを作成する場合には、他人の著作権侵害とはなりませんが、現実に存在するアイテムを再現するような場合には、著作権侵害のおそれがあります。
量産される物品は、原則的に著作物となりにくいと考えられていますが、当該物品に創作性が認められる場合には、著作物となる可能性があります。そのため、メタバース空間で現実に存在するアイテムを再現する場合には、当該アイテムの著作物性の有無を検討する必要があるでしょう。

また、アメリカにおいて、ラグジュアリーブランドであるHermèsのバッグ「バーキン」を模した「メタバーキン」というNFT(NFTについては、著作権情報室の「NFTアートと著作権」の記事をご参照下さい。)を販売等した者が、商標権侵害等で訴訟提起されるという事件がありました。このように、現実に存在するアイテムを再現するような場合には、著作権以外にも商標権や意匠権の問題も生じる可能性があります。

このように、メタバース空間においては著作権以外にも他の知的財産権の問題も生じ得るので、ご留意いただきたいと思います。

令和4年度 日本弁理士会著作権委員会委員

弁理士 山田 博貴

※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。

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