IT関連の著作権

生成AIで出力したAIイラストに、著作権は発生するの?

弁理士の著作権情報室

2023年以降、生成AIに関する話題がつきません。ChatGPT,Stable diffusion, Midjourney, Adobe Fireflyなど、多くの高度な生成AIが登場し、文章やイラストを誰でも簡単に作成することができるようになりました。特にイラストを簡単なプロンプトで制作できるようになったインパクトは非常に大きく、著作権法に絡んだ様々な議論が活発に行われています。例えば、文化庁は令和5年6月に「AIと著作権」と題したセミナーを開催しました。その資料は下記サイトにて見ることができます。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/pdf/93903601_01.pdf

また、さらに様々な論点に対する考え方について、「AIと著作権に関する考え方について(素案)」が開示されました(令和6年1月15日(月)、文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第6回))。なお、本稿執筆時点においては素案にすぎませんが、最終版においても、要旨は大きくは変わらないと推定されます。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hoseido/r05_06/pdf/93988501_01.pdf

しかしながら、文章で解説されても、「結局どういうこと?」ということがわかりにくいと思う方も多いと思います。そこで、今回は「生成AIで出力したAIイラストに、著作権が発生するのか(著作物性が認められるか)?ということについて、入門的に説明したいと思います。

生成AIで出力したAIイラストに、著作権が発生するのか?(著作物性が認められるか?)
文化庁の資料に基づくと、生成AIで出力したイラストについて、抜粋すると次のことが記載されています。
「AIが自律的に生成したものは、 『思想又は感情を創作的に表現したもの』ではなく、著作物に該当しないと考えられます。」
「これに対して、人が思想感情を創作的に表現するための「道具」としてAIを使用したものと認められれば、著作物に該当し、AI利用者が著作者となると考えられます。」
「人がAIを「道具」として使用したといえるか否かは、人の「創作意図」があるか、及び、人が「創作的寄与」と認められる行為を行ったか、によって判断されます。」
(出典:文化庁 令和5年6月 「AIと著作権」)
「生成 AI に対する指示が表現に至らないアイデアにとどまるような場合には、当該 AI 生成物に著作物性は認められないと考えられる。」
(出典:文化庁「AIと著作権に関する考え方について(素案)」)

ううん。。。専門的な言葉が多いので、なかなか難しいですね。
では、具体的なイラストを基に考えてみましょう。次のイラストを見て下さい。



生成AIで出力したAIイラストに、著作権は発生するの?

これ、なんだか面白いイラストですよね。果たして、このイラストに、著作権が発生するのかしないのか(著作物性が認められるのか否定されるのか)、考えてみましょう。

1.生成AIを使って出力したものか?
まず、大前提として、このイラストを私が独自に創作して自分で描画ソフトを利用して描画したものであったらどうでしょうか?
その場合には、このイラストは私の個性が発揮されたものであるとして、著作物性が認められ著作権が発生する可能性は非常に高いと思われます。

しかし、このイラストは、皆さん予想しているであろう通り、AI生成物です。そうすると、私が描画したものではなく、生成AIが描画したものなので、著作物性が認められない可能性が出てくることになります。

2.生成AIを使って出力したものには著作権は発生しないのか?
一方で、AI生成物には必ず「著作権が発生しない」というものでもありません。上述の資料等に基づけば、自分が描画したのと同じと言えるくらい具体的な指示等に基づいて出力されたものであれば、著作物性が認められる可能性がある、と考えられています。しかし、その指示は一般的なモチーフ等を沢山記載したとか、プロンプトが長いという程度では不十分で、認められるのは、独自創作のイラストを入力して明度調整した場合など、相当に限定的ではないかと推定されます(司法判断が出ていないので、法的な判断基準はまだわかっていません。)。

3.では、このイラストは、どうやって出力されたのか?
実は、今回のイラストは、ChatGPT経由でDALL-3を利用して、「空飛ぶドラえもん風の絵」と入力して出力されたものです。(なお、「空飛ぶドラえもん」という言葉の入力自体は、著作権侵害となりません。)

そうなると、非常に簡単なプロンプトで出てきたイラスト、ということになります。また、私としてもこの面白い表現を事前に想定したものでもありません。

したがって、結論としては、私の創作的寄与はなく、このイラストには著作物性が認められず、著作権は発生しないであろう、ということになります。

注意点
このように、結論としてはこのイラストには「著作権がない」と言えそうです。
ここで、皆さんお気づきかもしれませんが、いくつか注意しなければならないことがあります。
・特に重要な点として、「著作権が発生しているか発生していないのか、見ただけでは判断が困難」ということです。
このイラストは、私の独自創作で独自描画である場合や、またはAI生成物であったとしても、例外的に著作物性が認められる場合があるということですから、「イラストを見ただけ(外形上)」では判断ができないということになります。したがって、AI生成物かもしれない他人のイラストの著作権のあるなしを、安易に判断することは危険ということになります。また、自分のイラストの著作権を立証しなければならなくなった場合には、創作記録をとっておくことが不測の不利益を避けるのに有効ということになります。

・SNSなどで、AI生成物には一律著作権がない・著作権があるなど、誤解や安易な想定に基づく記載が散見されますが、生成AIと著作権法の関係は解釈が難しい部分も多いので、あまり鵜呑みにしないように注意しましょう。判断が必要になった場合には、弁理士などの専門家に聞いてみるなど、なるべく確かな情報を得るようにしましょう。

・著作権がないと思われるAI生成物であっても、商標権や意匠権で保護されている場合もありますし、不正競争に該当すると判断される可能性もありますので、利用する場合には注意しましょう。これらについても、判断が必要になった場合には、弁理士などの専門家に聞いてみるなど、なるべく確かな情報を得るようにしましょう。

令和5年度 日本弁理士会著作権委員会委員長

弁理士 高橋 雅和

※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。

※ 著作権に関するご相談はお近くの弁理士まで(相談費用は事前にご確認ください)。
また、日本弁理士会各地域会の無料相談窓口でも相談を受け付けます。以下のHPからお申込みください。

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