IT関連の著作権

著作権が制限されるという「電子計算機における著作物利用に付随する利用等」とは何ですか?

弁理士の著作権情報室

著作権法では、著作物を複製する行為は、著作権法で定められた著作物の利用行為(著作権の侵害行為)として定められています。電子計算機(コンピュータ)によって、データ等を補助記憶装置(HDDやSSD等)に保存する場合には、元データの複製が作成されます。従って、元データが著作物である場合には、元データの複製は、著作権侵害となってしまう可能性があります。もっとも、著作権法で定められた利用行為をしても著作権侵害とならない場合(つまり著作権が制限される場合)についても、著作権法には定められています。
著作権が制限される場合として、「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用」があることは、「生成AIの学習は著作権侵害にならない?「著作権が制限されるという『著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用』とはどの様なものですか?」という原稿で記載しました。

上記の他に、著作物の知覚行為(見る、聞く、読む等)を伴うことから、「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用」ではないけれど、「主たる著作物の利用行為」の補助的・補完的な行為にすぎないような行為、すなわち「電子計算機における著作物利用に付随する利用」についても、著作権が制限される場合があります。「主たる著作物の利用行為」の補助的・補完的な行為にすぎないような行為とは、例えば、インターネット上のウェブページを視聴する際に、ブラウザで効率的に著作物を表示するために、利用者のコンピュータにおいてキャッシュを作成する行為等です。
この様な、「電子計算機における著作物利用に付随する利用」等について、以下に説明いたします。

著作権が制限されるという「電子計算機における著作物利用に付随する利用等」とは何ですか?

「電子計算機における著作物利用に付随する利用」の権利制限規定の趣旨


著作権は、著作物の経済的価値に対する対価回収の機会を確保するために定められています。メインの著作物の利用行為の補助的・補完的な行為であれば、著作物の知覚行為(見る、聞く、読む等)を伴っても、著作権者の対価回収の機会が損なわれるわけではありません。著作権法が保護している著作権者の権利を通常害しないと考えられるからです。

上記観点から、電子計算機における利用(情報通信の技術を利用する方法による利用を含む)に供される著作物は、
(1)「著作物の電子計算機における利用を円滑又は効率的に行うために当該電子計算機における利用に付随する利用に供することを目的とする場合」、
(2)「著作物の電子計算機における利用を行うことができる状態を維持し、又は当該状態に回復することを目的とする場合」、
「その必要と認められる限度において」、著作権が制限されて、著作権者に無断で利用できると、規定されています。
 以下、上記(1)の場合、上記(2)の場合について説明します。

上記(1)付随的利用の場合


上記(1)に該当する場合として、以下が例示的に著作権法に記載されています。例示ですので、以下以外でも、上記(1)に該当する場合があります。

①電子計算機におけるキャッシュのための複製
例えば、インターネット上のウェブページを視聴する際に、ブラウザで効率的に著作物を表示するために、又は、情報処理を高速化するために、利用者のコンピュータでキャッシュを作成する(一度見たウェブページを一時的に保存する)行為が該当します。

②サーバ管理者による送信障害防止等のための複製
例えば、メインサーバにおいて送信可能な著作物の送信を円滑に行うために、ミラーサーバにミラーリング(著作物を複製する)行為が該当します。ミラーサーバは、メインサーバの負荷集中の回避や、メインサーバのダウン時等のアクセスの確保等のためのものです。

また、企業等の団体内部のネットワークと外部のインターネットとの境界にサーバを設置し、当該団体内部の利用者が外部のウェブページにアクセスする場合の送信を効率的に行うために当該ウェブページの情報を当該サーバにキャッシュとして一定期間蓄積するフォワードキャッシュも該当します。
グリッドコンピューティング(異なる場所に分散したコンピュータリソースを組み合わせて一つのコンピュータシステムとしてサービスを提供する仕組み)等の分散処理のために著作物を公衆送信する行為も該当します。

③ネットワークでの情報提供準備に必要な情報処理のための複製等
例えば、動画共有サイトにおける著作物の送信を効率的に行うために、ファイル形式を統一化するための複製や各種ファイルの圧縮をする行為が該当します。

上記(2)状態の維持回復を目的とする場合


上記(2)に該当する場合として、以下が例示的に著作権法に記載されています。例示ですので、以下以外でも、上記(2)に該当する場合があります。

①複製機器の保守・修理のための一時的複製
例えば、パソコンやスマートフォンを修理する際に、修理後も、パソコンやスマートフォンに記憶されている著作物を利用できる状態にするため、パソコンやスマートフォンに記憶されている著作物を一時的に他のハードディスクに複製し、修理の完了後、パソコンにデータを戻すために複製する行為が該当します。

②複製機器の交換のための一時的複製
例えば、古いスマートフォンから新しいスマートフォンに機種変更する際に、古いスマートフォンのメモリから新しいスマートフォンにデータを複製する行為も該当します。

③サーバの滅失等に備えたバックアップのための複製
サーバに記録された著作物が滅失してしまう事態に備えて、直ちに著作物を利用することができる状態に回復することを目的として、サーバのハードディスクのデータのバックアップコピーを作成する行為が該当します。

「電子計算機における著作物利用に付随する利用等」でも著作権侵害になる場合


「その必要と認められる限度において」認められると規定されておりますので、限度を超えての利用は著作権侵害となります。また、「当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合」は、認められません。この場合に該当するかどうかは、著作権者の著作物の利用市場と衝突するか、将来における著作物の潜在的市場を阻害するかという観点から判断されることになると、文化庁著作権課の「著作権デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した 柔軟な権利制限規定に関する基本的な考え方 (著作権法第30条の4,第47条の4及び第47条の5関係)」に記載されています。

こちらの資料には、動画投稿サイトで、利用者が低解像度でアップロードしていた動画ファイルをサイト側が精密な動画に変換することや、機器(スマートフォンの機種変更等)を交換する際に、新しい機器に著作物を複製しつつ、古い機器の著作物を削除せず、両方の機器において著作物を利用できるようになる場合を、上記場合に該当すると考えると記載されています。

まとめ


上記のように、著作物の知覚行為(見る、聞く、読む等)を伴うことから、「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用」ではないけれど、「電子計算機における著作物利用に付随する利用」として、著作権が制限される場合について説明しました。

<参考文献>
文化庁の「著作権法の一部を改正する法律 概要
文化庁の「著作権法の一部を改正する法律 概要説明資料
文化庁の「デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定に関する基本的な考え方(著作権法第30条の4,第47条の4及び第47条の5関係)

令和5年度 日本弁理士会著作権委員会委員

弁理士 竹口 美穂

※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。

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