注目判例・法改正・書評

見出しに注意! ネット記事見出し事件

弁理士の著作権情報室

はじめに


著作権法は、著作物を保護しつつ、一定要件の下、著作物の報道利用も認めていますが、その利用の範囲の限界事例とも思える事案についての判決がありました。
令和6年1月24日判決 東京地裁 令和4年(ワ)第70079号。

見出しに注意! ネット記事見出し事件

事件の概要


B元首相の銃撃事件を受けて、原告(社会活動家)が、ツイッター(現「X」)に「ツイート」を投稿したところ、被告(新聞社)が、「見出し」と共に、そのツイートの全文をニュースサイトに転載したため、原告が(1)名誉を毀損され、(2)著作権(公衆送信権)を侵害され、(3)名誉声望保持権を侵害されたとし、不法行為に基づき損害賠償を求めたものです。

投稿した「ツイート」及び「見出し」の内容


ア 本件ツイート(1)
「暴力を許さず抵抗する活動を私も続けているが、今回のような事件が起こりうる社会を作ってきたのはまさにB政治であって、自民党政権ではないか。敵を作り、排他主義で、都合の悪いことは隠して口封じをし、それを苦にして自死した人がいても自身の暴力性に向き合わなかったことはなくならない。」

イ 本件ツイート(2)
「弱い立場にある人を追いやり、たくさんの人を死にまで追い詰める政治を続けてきた責任は変わらない。「誰の命も等しく大切」と多くの人が言う今、人の命の重さは等しくないんだなと感じさせられてしまう。」

ウ 本件ツイート(3)
「参議院選ではそういう社会を変えるために活動する人や政党に投票したいが、どの政党も女の人権は後回し。家やお金や頼れるつながりがなく、賃金も安く社会構造の中で性売買に追いやられる女性の人権より、女の性を商品化する業者や買う側の「権利」を守ろうとする人が複数の野党から出ていて絶望する。」

エ 本件見出し
「活動家・A氏、射殺されたB氏は〝自業自得〟と主張 参院選での「女性の権利」軽視にも怒り」

本件ツイート(1)~(3)の著作物性


裁判所は「本件各ツイートは、「思想又は感情を創作的に表現」した、「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属する」言語の著作物であると認められる」と判断しました。

時事の事件の報道のための利用(該当すれば適法)


(1)「時事の事件の報道であるか否か?」
裁判所は「本件において、社会活動家である原告が、社会的に注目されたB元首相の射殺事件についてコメントをしたことは、本件記事の配信の前日の出来事であるから、「時事の事件」に該当する」と判断しました。

(2)「当該事件を構成等する著作物であるか否か?」
裁判所は「「時事の事件」を社会活動家である原告が、社会的に注目されたB元首相の射殺事件についてコメントをしたことと捉えると、原告のコメント内容すなわち本件各ツイートの内容は、事件の主題となっている著作物であるといえる」と判断しました。

(3)「報道の目的上正当な範囲内であるか否か?」
裁判所は「本件各ツイートは全体で400字前後とさほど長くないものであり、原告がコメントした事実をその表現内容とともに正確に伝えるという報道の目的に鑑みると、要約や一部の切り取りをすることなく本件各ツイートのほぼ全文を引用する必要性があったものと認められる」「本件各ツイートを全文引用すること自体が原告の利益を不当に害しているとはいい難い」と判断し、「以上によれば、被告による本件各ツイートの利用は、「報道の目的上正当な範囲内」においてされたものといえる」として、被告の利用を適法と認めました。

 以上のように、裁判所は、被告が、原告の全ツイートをニュースサイトに転載した点については、違法はないと判断しましたが、被告の「本件見出し」については以下のように判断しました。

「名誉毀損」と「名誉声望保持権侵害」


裁判所は「ダブルミニュートの使用により「自業自得」との語句が強調されていること、「自業自得」とは、一般に、「自らつくった善悪の業の報いを自分自身で受けること。一般に、悪い報いを受けることにいう。」と理解されていることに照らせば、原告が、」「人の命を奪った犯人ではなく被害者自らが行った悪行の結果であると述べたとの事実を摘示するものというべきである。」と述べています。
 そして、このことから、「本件見出しは、原告の社会的評価を低下させるものであると認められる」と判断し、「名誉毀損」が成立することと、「名誉声望保持権」の侵害が成立することを認めました。

むすび


被告(新聞社)としては、原告のツイートを転載した際に、何らかの「見出し」を付けることは通常の業務であり、特に、その内容を読者に強く訴求できる「刺激的」な見出しを付け、ツイートの内容を誇張することはあり得ることかと思います。
 しかし、本件のように、他人の著作物の利用が、「時事の事件の報道のための利用」で適法とされる範囲であっても、その他の見出し等の記載で、違法となることがある点は注意を要します。
 一方、従来、「時事の事件の報道のための利用」となるのは、絵画の盗難事件等の当該絵画等を指すとの理解もありましたが、本件のように「著作物の公表行為そのもの」である「ツイート」も適法となる点、今回の判決で明らかとなりました。

令和6年度 日本弁理士会著作権委員会委員

弁理士 新井 全

※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。

※ 著作権に関するご相談はお近くの弁理士まで(相談費用は事前にご確認ください)。
また、日本弁理士会各地域会の無料相談窓口でも相談を受け付けます。以下のHPからお申込みください。

【注目判例・法改正・書評】に関連する情報

おすすめコンテンツ

商品・サービスのビジネスデータベース

bizDB

あなたのビジネスを「円滑にする・強化する・飛躍させる」商品・サービスが見つかるコンテンツ

新聞社が教える

プレスリリースの書き方

記者はどのような視点でプレスリリースに目を通し、新聞に掲載するまでに至るのでしょうか? 新聞社の目線で、プレスリリースの書き方をお教えします。

広報機能を強化しませんか?

広報(Public Relations)とは?

広報は、企業と社会の良好な関係を築くための継続的なコミュニケーション活動です。広報の役割や位置づけ、広報部門の設置から強化まで、幅広く解説します。

当サイトでは、クッキーを使用して体験向上、利用状況の分析、広告配信を行っています。

詳細は 利用規約 と プライバシーポリシー をご覧ください。

続行することで、これらに同意したことになります。