オンラインゲームの見た目が似ている件~ゲーム画像事件~
1 はじめに
みなさん大好きなオンラインゲーム。意外と似たようなゲームが出回っていたりします。今回は、ゲーム中のキャラクター等の画像について、著作物として表現の同一性ないし類似性(似ているかどうか)が争われた事件(東京地判令和4年4月22日(平成31年(ワ)第8969号))を紹介します。
結論から申し上げますと、原告画像1と被告画像1は似ている、原告画像2と被告画像2は似ていない、原告画像8と被告画像7は似ていない、です。
【出典:東京地判令和4年4月22日(平成31年(ワ)第8969号)判決文別紙】
2 事案の概要
本件の原告は、あるオンラインゲーム(原告ゲーム)を制作、配信していました。原告は、被告が配信しているオンラインゲーム(被告ゲーム)に表れる画像について、それぞれ原告ゲーム内の画像(原告画像1~8)の複製または翻案であるとして、差止め及び損害賠償請求を行いました。
3 裁判所の判断
1)複製、翻案に関する判断枠組み
著作権侵害が成立するためには、被告の各画像が原告画像1~8の複製または翻案である必要があります。裁判所はまず、複製、翻案に関する一般的な説明の後、以下のように解釈を示しました。
・「複製又は翻案したものに当たるというためには、原告各画像と被告各画像との間で表現が共通し、その表現が創作性のある表現であること、すなわち、創作的表現が共通することが必要」
・「原告各画像と被告各画像において、アイデアなど表現それ自体ではない部分が共通するにすぎない場合には、被告各画像が原告各画像を複製又は翻案したものに当たらない」
・「共通する表現がありふれたものであるような場合も、そのような表現に独占権を認めると、後進の創作者の自由かつ多様な表現の妨げとなり、文化の発展に寄与するという著作権法の目的に反する結果となりかねないから、当該表現に創作性を肯定して保護することは許容されず、その結果、複製又は翻案したものに当たらない」
つまり、アイデアなど表現それ自体でない部分や、ありふれた表現については、たとえ似ていても、複製又は翻案ではない(著作権の侵害ではない)ということです。
2)原告画像1と被告画像1の表現の同一性ないし類似性
<共通点>
①丸い眼鏡を掛けた茶色い体のふくろうのキャラクターが、左側の羽を広げ、右足を前に出して走っているようなポーズをとっている点
②上記ふくろうのキャラクターが、右側の羽で、先端に時計が付いた杖を握っており、上記時計は小屋のようなデザインであり、屋根は青色で壁は茶色である点
③上記ふくろうのキャラクターは、黄色い花と白いボアが付いた茶色の帽子をかぶり、青色と茶色のボーダー柄のマフラーのようなものを首に巻いている点
<判断>
上記①ないし③については、いずれも表現において創作性があるから、原告画像1と被告画像1は、創作的表現が共通するものと認められる。
3)原告画像2と被告画像2の表現の同一性ないし類似性
<共通点>
・画面の中央に、猿をモチーフにした赤い顔のキャラクターを配置した点
・同キャラクターは、向かってやや右肩下がり方向に傾きつつ、画面の上下方向に延びた、キャラクターの体長よりも長い棒を右手で握り、右足を左足よりも上にして上記の長い棒に掛けるような態勢で立っている点
・上記キャラクターが、首周りに数珠を巻き、腰にベルトを巻いている点
<判断>
・猿をモチーフにしたキャラクターを描くこと自体は、アイデアにすぎない。
・猿のキャラクターとして、赤い顔、細長い棒は、ありふれた表現であって、創作性が認められない。
・描かれた数珠やベルトは、形状や色において表現に具体的な相違が見られるから、数珠やベルトを身に着けているというアイデアが共通するにとどまるものである。
4)原告画像8と被告画像7の表現の同一性ないし類似性
<共通点>
・4つの赤い円形のアイコンが並んで配置されている点
・上記アイコンの内部には、全体として赤及び黒によって模様が描かれている点
・原告画像8の一番左のアイコンと被告画像7の一番下のアイコンの中には、鎌のような刃物を前に抱え、左を向き、一方の足を伸ばし、他方の足を曲げた格好の人影の模様が黒く描かれている点
<判断>
・原告画像8では、4つの赤い円形のアイコンが横一列に並んで配置されているのに対し、被告画像7では縦一列に並んで配置されているから、具体的な表現において異なっており、アイデアが共通するにすぎない。
・アイコンの内部に全体として赤及び黒によって模様が描かれているという共通点や、鎌のような刃物を前に抱え、左を向き、一方の足を伸ばし、他方の足を曲げた格好の人影の模様が黒く描かれている共通点についても、具体的な表現に関する共通点ではないから、アイデアが共通するにすぎない。
4.著作権侵害について
複製と認められたのは、原告画像1についてのみでした。原告画像2から8については、共通する部分は、アイデアなど表現それ自体ではないか、ありふれた表現であるため、被告画像は、原告画像を複製又は翻案したものには当たらないとされました。
原告は各画像について「画面構成が類似する」という主張もしていましたが、「具体的な位置や方向等が異なるため画面表現に関するアイデアが共通するにすぎない。」と判断されています。
なお、唯一複製したものと認められた画像1についても著作権侵害は認められませんでした。画像1についての被告の行為は、被告のWebページにインラインリンク設定を行うことのみであったことから、被告自身が複製したものではない(公衆送信にも該当しない)と判断されたためです。
5.最後に
ゲーム内のキャラクターや画面構成については、アイデアにすぎない等として著作権では保護できない場合が多いと思われます。ゲームの画面構成等については、特許権や意匠権など他の知的財産権で守ることができる場合もありますので、お近くの弁理士にご相談ください。
令和4年度 日本弁理士会著作権委員会委員
弁理士 山崎 理恵
※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。
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