実務詳説 著作権訴訟〔第2版〕髙部眞規子著 (金融財政事情研究会・5300円税別)
裁判官の、明快かつ本質を掴む言葉が綴られた一冊。
本著「実務詳説 著作権訴訟」は、髙部眞規子判事による著作権訴訟についての実務解説書である。初版発行から8年を経て、新たに改正や判例を盛り込み、第2版の刊行となる。
さて、私は、グラフィックデザイナー出身の弁理士である。そのためか、著作権に関わる相談を受けることが多く、著作権関連の契約書作成依頼も多い。得意とするのは、いわゆる「キャラクター」に関するものだが、当然、契約書はひとつとして同じものはない。使用する者、創作する者の条件・意向によって千差万別である。その千差万別の事案の中で、ああでもない、こうでもないと日々模索している。
本著は、「訴訟」に関するものであるが、日頃、訴訟に関わらない自分のような者にとっても大変参考になるものである。
まずは基本書としての役割である。近年の著作権の全体像を知ることができる。重要判例を網羅し、国際的な問題に至るまで、具体的な事例とともに解説される内容は貴重である。
次に、具体的な訴訟手続の詳説である。例えば、第3章の差止請求における「II 2.差止めの内容の特定」において、その特定方法・例示は、契約書の作成に大変参考になる。差止命令の内容についての記述だが「具体的に表現する必要があり、その表現は、一義的、客観的、明確な用語でなければならない。」などのくだりは、そのまま契約書作成に当てはまる。忘れないよう常に机の前に貼っておいたほうが良い、と思ったくらいである。
一方、同章の「II 3.(4)抽象的差止めの可否」では、抽象的差止(差止めの対象を抽象的に特定するもの)を認めるとする学説、判例、問題点について述べられている。私たちは、このような問題点がある事実を、頭の隅に置きながら実務に向かうべき、と考えさせられるものであった。
最後に、最も貴重なのは、髙部判事の視点である。私は、著作者側、著作権者側、利用者側からのそれぞれから、相談を受けることがあるが、誰の立場で事象を捉えるのか、誰の行為であるのか、誰の著作物かなど、主体によって考え方・文章の書き方を変える。変えないと相談者が混乱するからである。本書では、あらゆる「対比」がなされているが、その主体が明確である。訴訟に関する著書であるという事実に加えて、判事というお立場から見た「対比」であるから、論理的で明確であるのだと思う。他の基本書、学説書にはない特徴であり、その内容を眼前にできることは貴重であると思うのである。
長々と述べてきたが、ここまではあくまで私個人の立場から捉えた一意見である。何を言いたいかというと、本書をまずはご一読あれ、きっと、それぞれに大いに役立つに違いない、ということである。実務家である弁護士や弁理士、企業の知的財産部や法務担当者、著作権ライセンスに関わる者など、全ての者が価値を見出し活用できる1冊であることに間違いはなく、著作権に関わる人々の1人1人にお勧めしたいと思うのである。
令和元年度 日本弁理士会著作権委員会委員長
弁理士 松本 直子
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