<ケース研究>著作物の類似性判断 ビジュアルアート編 著・上野達弘=前田哲弘(2021年7月・勁草書房発行)
理論と実務が調和した実務家必携のバイブル
本書は上野達弘教授(早稲田大学法学学術院)と前田哲弘弁護士による共著であり、研究者と実務家によるバランスの取れた構成となっている。
はしがきは共著者を代表して上野教授が担当されており、「著作物の類似性というのは、ずっと前から筆者(上野)お気に入りのテーマ」であり、「類似性に焦点を当てた本を作るというのは以前から温めていた構想」であるとのことであり、これはまさに筆者にとっても著作権法に携わる読者にとっても待望の1冊と言えよう。
本書の構成は「第1編 理論編」と「第2編 ケース編」の2本立てである(前者15%、後者85%の配分)。
はじめに、理論編では上野教授が「著作物の類似性」を、前田弁護士が「類似性判断の実務」を、それぞれ執筆され、類似性に関する基本的な理解を促している。書籍全体から見た配分は僅かであるが、類似性判断に関して必要な事項が無駄なく凝縮された内容である。
一方、ケース編では著作物の種類ごとに章立てした上で、上野教授による「判例の概観」、上野教授と前田弁護士による「対談的検討」というパターンにより、最新のものまで網羅した豊富な裁判例の紹介と、お2人の多角的な視点による裁判例の検討がなされている。後者は記述による検討ではなく対談による検討というスタイルを採ったことにより、各々の見解の区別と話し言葉による微妙なニュアンスの明確化が図られている。
著作物性の類似性判断は非常に難しい。原告と被告の著作物を対比したときに、デッドコピーのように同一又はほぼ同一であれば分かりやすいが、「似ている」という領域を出ない場合、どこまで似ていれば著作権法上の「類似」となるのかという判断に苦慮する。つまり、類似性判断の難しさは「似ている」か「似ていない」かではなく、「似ている」ものの中から「類似」の如何を判断しなければならないことにある。著作権法は毎年のように法改正がなされ、近年も大きな改正があったばかりであるが、著作物の類似性に関してはどのような改正によっても画一化されることはなく事案ごとの判断を要することから、実務家にとっては特に必携のバイブルと言っても過言ではない。
なお、本書は「ビジュアルアート編」という副題が付されているが、予定していた分量を超えたことにより区切りを付けたとのことであり、続編の発行にも期待したい。
令和3年度 日本弁理士会著作権委員会委員
弁理士 髙畑 聖朗
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