注目判例・法改正・書評

Tシャツに印刷されたイラストの著作物性

弁理士の著作権情報室

はじめに


『椅子などの実用品のデザインも応用美術の著作物に該当するの?』では、椅子などの量産される実用品そのもののデザインが応用美術の著作物に該当すると判断された裁判例(知財高裁平成26年(ネ)第10063号著作権侵害行為差止等請求訴訟事件(平成27年4月14日判決)(原審・東京地方裁判所平成25年(ワ)第8040号)が紹介されています。
今回、実用品そのもののデザインではなく、実用品であるTシャツに印刷されたイラストが著作物に該当するか否かが争点となった裁判例(東京地方裁判所令和3年(ワ)第10991号)を紹介します。

Tシャツに印刷されたイラストの著作物性

【出典:東京地判令和5年9月29日(令和3年(ワ)第10991号)判決文別紙】

事件の概要


本事件の概要は以下のとおりです。
原告は原告イラストが胸元に印刷されたTシャツを販売していたところ、被告が上図右端のイラスト付きTシャツの販売を開始しました。原告は原告イラストに係る原告の著作権(複製権又は翻案権及び譲渡権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害しているとして、差止請求等を行いました。今回は、Tシャツに印刷されたイラストの著作物性についてどのように判断されたかについて焦点を当てて紹介します。なお、本裁判例では、原告イラストと類似するイラストについて商標登録され、商標権侵害も争われていますが、今回は著作物性に注目するため割愛します。

Tシャツに印刷された原告イラストが著作物に該当するか


判決では、原告イラストが「著作物」として保護されるために、以下の2つの要件を充足していることが求められました。
・美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えていなければならない。
・思想又は感情を創作的に表現したものでなければならない。

原告イラストは、以下のとおり、いずれの要件も充足していることから、著作物であると認められました。

美的特性を備えているか


裁判では、実用品に付されているイラストが美的特性を備えているか否かの判断基準として、「実用性が有体物(本件ではTシャツ)の機能に由来することに鑑み、実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して、美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている部分を把握できるか否かという基準によるのが相当である。」とされました。そして、具体的に原告イラストについては、「Tシャツ等の衣類の胸元等に印刷されていたことが認められるところ、Tシャツ等が上衣として着用して使用するための構成を備えていたとしても、イラストとしての美的特性が変質するものではなく、また、当該Tシャツ等が店頭等に置かれている場合はもちろん、実際に着用されている場合であっても、その美的特性を把握するのに支障が生じるものでもないから、実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して、美術鑑賞の対象となる美的特性を把握することが可能であるといえ、上記の要件を充たすものと認められる。」として、原告イラストが美的特性を備えていると認定されました。

思想又は感情を創作的に表現したものか


裁判では、原告イラストについて、以下の①から④の特徴を列挙し、「選択の幅がある中から作成者によって敢えて選ばれた表現であるということができるから、作成者の思想又は感情が創作的に表現されていると認められる。」として、原告イラストが思想又は感情を創作的に表現したものであると認定されました。
①女性とビーチマットの輪郭を、あえて太目で丸みを帯びた黒線で描くとともに、細かい光の加減等による色味の差を捨象し、平面的で単一的な彩色を採用することにより、レトロ感とポップ感を表現し、イラストに明快な存在感を与えている点
②ビーチマットの下部に水や波を直接描かず、同ビーチマットの下部を波型に切り取ることにより、同ビーチマットが水に浮かんでいることを表現している点
③女性が足を前後させて、遠くを見ている仕草をあえて背後から描き、リゾート地で女性がリラックスしているという印象を与えている点
④女性の足元には、裸足やビーチサンダルではなく、あえてハイヒールを描き、常識に縛られないイメージを表現している点

被告製品は原告イラストを侵害したものか(類似性及び依拠性について)


今回の裁判例では、Tシャツに印刷されたイラストに対して著作物性が認められました。その上で、被告イラストが上記した①から④の原告イラストの特徴に含まれる女性の服装、姿勢、イラストの構図等の創作的表現が共通していると判断されています。また、依拠性について、原告イラストと被告イラストの共通点が全て偶然一致することは考え難いこと、被告イラストが印刷された被告製品が原告イラストよりも後に発売されたことから、依拠性が認められています。

まとめ


被服に印刷されたイラストのように、実用品を使用している状態でイラストが把握できるようなものであれば、有体物の機能と分離して美的特性を備えている部分を把握できるものとして、著作物性が認められる可能性があります。このため、通常の著作物と同様に、類似性及び依拠性が認められれば、被服等の実用品に付されたイラストについての著作権に基づいて、差止等が認められる可能性があります。

令和5年度 日本弁理士会著作権委員会委員

弁理士 永瀬 龍壮

※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。

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