他人が撮った写真の構図を真似して撮影しても良いのか?実例から見る被写体別の判断基準【写真家・カメラマン向け】
そもそも、どんな写真でも著作権で保護されているのか?
写真であればなんでも著作物として保護されるわけではありません。著作権法による保護を受けるためには、その写真が「著作物」である必要があります。「著作物」については、著作権法で要件が定められていますが、要件のうち、「創作的な表現」であることが特に重要です。
言い換えると、著作権法で保護されない写真もあるということです。たとえば、機械的に撮影される証明写真やプリクラ、ありふれた撮影方法で撮られた写真は、撮影における創作的な表現過程がないため、著作物に該当しないとされ、著作権法の保護を受けることができません。
このような著作物に当たらない写真を、どのように真似しようとも、あるいはコピーしようとも、著作権法上の問題はありません。しかし、著作物となる他人が撮影した写真の創作的な表現部分を真似すると、著作権法上、問題になる場合があります。
写真の「創作的な表現部分」とはどこなのか?
前述の通り、著作権法は「創作的な表現」を保護するものですから、「アイデア」自体を保護するものではありません。しかし、ある写真が著作権法で保護されるものであるか、また似ているとされる写真の共通点が「表現」なのか「アイデア」に過ぎないのかは、裁判ではしばしば争点になります。それでは、実際の裁判では何をもって写真の創作的な表現とされたかをみていきましょう。
被写体であるモデルのポーズを創作性の判断に加味した事例(ブロマイド写真事件)
タレントのブロマイド写真について裁判所は、「被写体のもつ資質や魅力を最大限に引き出すため、被写体にポーズをとらせ、背景、照明による光の陰影あるいはカメラアングル等に工夫をこらすなどして、単なるカメラの機械的作用に依存することなく、撮影者の個性、創造性が現れている場合には、写真著作物として、著作権法の保護の対象になると解するのが相当である」と判断しました。
撮影位置・アングル・構図・タイミングを重視して判断した事例(舞妓写真事件)
舞妓を被写体にした写真について裁判所は、「写真が著作物として認められ得るのは、被写体の選択、シャッターチャンス、シャッタースピードの設定、アングル、ライティング、構図・トリミング、レンズの選択等により、写真の中に撮影者の思想又は感情が表現されているから」と前置きしつつ、複数の写真について撮影位置、撮影アングル、構図、撮影タイミングの選択に着目し、これらが創作的な表現部分と判断しました。
被写体のレイアウト上の工夫を加味するかの判断が、裁判の結論に影響を与えた事例(スイカ写真事件)
レイアウトに工夫を凝らしたスイカを撮影した写真について、第1審(原審)の東京地裁は、被写体の独自性を写真の著作物として保護するかどうかの判断基準から除外しましたが、第2審(控訴審)の東京高裁は「写真著作物における創作性は、最終的に当該写真として示されているものが何を有するかによって判断されるべきものであり、これを決めるのは、被写体とこれを撮影するに当たっての撮影時刻、露光、陰影の付け方、レンズの選択、シャッター速度の設定、現像の手法等における工夫の双方であり、その一方ではない」として、被写体の独自性も写真の著作物として保護するかどうかの判断基準に含めて判断しました。
実在する建造物を被写体にした場合の着眼点を示した事例(八坂神社事件)
神社で催されているお祭りを被写体とした写真について裁判所は、「本件写真の表現上の創作性がある部分とは、構図、シャッターチャンス、撮影ポジション・アングルの選択、撮影時刻、露光時間、レンズ及びフィルムの選択等において工夫したことにより表現された映像をいうと解すべき」と前置きしたうえで、「お祭りの写真のように客観的に存在する建造物及び動きのある神輿、輿丁、見物人を被写体とする場合には、客観的に存在する被写体自体を著作物として特定の者に独占させる結果となることは相当ではないものの、撮影者がとらえた、お祭りのある一瞬の風景を、上記のような構図、撮影ポジション・アングルの選択、露光時間、レンズ及びフィルムの選択等を工夫したことにより効果的な映像として再現し、これにより撮影者の思想又は感情を創作的に表現したとみ得る場合は、その写真によって表現された映像における創作的表現を保護すべきである」と判断しました。
同じ建造物を撮影した場合の着眼点を示した事例(廃墟写真事件)
廃墟を被写体にした写真について裁判所は、「被写体が既存の廃墟建造物であって、撮影者が意図的に被写体を配置したり、撮影対象物を自ら付加したものでないから、撮影対象自体をもって表現上の本質的な特徴があるとすることはできず、撮影時季、撮影角度、色合い、画角などの表現手法に、表現上の本質的な特徴があると予想される」と判断しました。本件では、構図が似ていても写真表現全体としての印象が異なるとして、著作権侵害が否定されました。
異なる建造物を撮影した場合の着眼点を示した事例(グルニエダイン事件第2事件)
住宅用建物を被写体とする写真について裁判所は、「被写体の選定、撮影の構図、配置、光線の照射方法、撮影後の処理等において創作性があるものと認められ、原告の思想又は感情を創作的に表現したものとして、著作物性を有するものというべき」と判断しました。
まとめ:「構図」だけが判断基準ではない
このように、撮影した写真が著作物として保護されるかは、撮影の瞬間だけではなく、その前後にわたる様々な要素、たとえばレンズ・フィルムの選択、撮影時季・時刻、撮影ポジション、アングルの選択、構図、背景、配置、シャッターチャンス、シャッタースピードの設定(露光時間)、ライティング、陰影の付け方、撮影後の処理、現像の手法を、具体的な事案に合わせて総合的に判断しているものといえます。そして、被写体を動かしたり加工したりできる場合には、被写体の選択・配置等も創作性を基礎づける一つの要素になり得るといえます。
上記の廃墟写真事件のように、たとえ構図が似ていても全体的な印象が異なれば著作権法上は問題ないと言える場合もありますが、多くの事件で述べられているように、構図ばかりが判断基準となっているわけではありません。紛争に巻き込まれないようにするためにも、いくら他人が撮影した写真に感銘を受けたとしても、他人の写真に近づき過ぎないよう心がけ、撮影する写真にはご自身の個性が表れるように撮影することが重要と言えます。
令和2年度 日本弁理士会著作権委員会委員
弁理士 伊藤 大地
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