職務著作と職務発明の比較
職務著作
著作物の著作者は、基本的に個人(法律上は、自然人と呼ばれます)ですが、職務著作は、個人が作ったものであっても所定の条件を満たす場合には会社(法律上は、法人と呼ばれます。)が著作者となるとした制度(法人著作とも呼ばれます)です。「所定の条件」の詳細については「自分で創作した著作物が会社のモノ?-職務著作について-」、またプログラムの場合については「誰がプログラムの著作者になるの?」をご覧ください。
従業員Aが描いた絵については、著作権法上の所定の条件を満たしていれば、職務著作として会社Xが著作者となります。もう少し具体的にいいますと、会社Xが従業員Aさんに業務上、作成するように指示して、会社Aの名で絵を公表する予定があるのであれば、就業規則等に「著作者は従業員とする」といったことが書かれていなければ、従業員Aさんが描いたものであっても、この絵は会社Xの著作物となります。
そして、このとき、会社Xは、著作者となりますので、著作権だけでなく著作者人格権も有することになります。著作権と著作者人格権の違いについては、「著作者人格権ってどんな権利?著作権とはどう違うの?」をご覧ください。
他方、従業員Aさんが単に趣味で描いた絵であったり、または、従業員Aさんの名で公表する予定があった場合には職務著作といえない可能性が高いです。就業規則等に著作者は従業員とするといったことが書かれている場合も、職務著作にならないでしょう。
職務発明
似たような言葉として「職務発明」があります。冒頭の例でいいますと、従業員Aさんが作ったのが絵ではなく、独自の新製品で、特許法上の要件を満たす発明をした場合、この発明について特許を受けることができるのは会社Xと従業員Aさんのどちらになるのかというときに「職務発明」が問題となります。
職務発明は、おおまかには、従業員がその会社の業務範囲内で発明を行った場合には、就業規則等にその発明についての特許を受ける権利が会社に帰属するというようなことが書かれていれば、その特許を受ける権利は会社に帰属することとした制度です(「特許を受ける権利」とは、言葉を崩していいますと、将来特許権になり得る権利のようなものです)。なお、上記「法人著作」のように「法人発明」という呼ばれ方はしません。
具体的には、従業員Aさんが業務において上記発明を行った場合で、就業規則等に特許を受ける権利は会社Xに帰属するというようなことが書かれている場合、会社はその発明を会社のものといえることになります。
逆に就業規則等に、特許を受ける権利は会社に帰属するといったことが書かれていなければ、従業員Aさんに特許を受ける権利が帰属することとなり、その従業員が特許権を取得した場合には、会社Xは特許権でなく通常実施権を取得します。
通常実施権を有する場合、特許権にかかる発明を使うこと(実施)ができますが、他人の実施までは排除できません。
就業規則等に規定がなければ会社に帰属するとされる職務著作とは大きく異なります。
まとめ
職務著作と職務発明は用語が似ていて、著作物も発明も自然人、ヒトにその権利が原則帰属するという点で共通します。
しかし、業務中にした発明は、就業規則等で取り扱いについての記載が特になければ、職務発明とならず特許を受ける権利は従業員のものになるのに対して、業務中に作った著作物は、就業規則等で取り扱いについての記載が特になければ、職務著作となり著作物は会社のものになるという違いがあります。
しかも、職務発明では、特許権を会社に取得させた場合には、従業員は相当の金銭等(「相当の利益」)会社に求めることができますが、職務著作ではこのようなことは著作権法上担保されていません。
これらの違いは、両者の制度趣旨に違いがあることによると思われますが、ここでは割愛させていただきます。
なお、職務発明と同じように職務意匠は意匠法で規定されていますが(意匠法で特許法を準用しています)、職務商標は商標法上規定されていません。
令和5年度 日本弁理士会著作権委員会委員
弁理士 川添 昭雄
※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。
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