ビジネスの著作権

業務委託契約で著作権について何を定めればいいの?

弁理士の著作権情報室

クリエイタやプログラマなどが受託者となって作品やプログラムなどを創作し、これらの成果物を委託者に納入する業務委託では、著作権についての取り決めをしなかったために、委託者と受託者との間で後にトラブルになってしまうケースも珍しくありません。こうした事態を防止するために、業務委託契約書には著作権についてどのような取り決めを定めればよいでしょうか?

業務委託契約で著作権について何を定めればいいの?

著作権の帰属


まず、成果物についての著作権の帰属を明確に定めることが重要です。

著作権は、著作者に原始的に帰属し、クリエイタやプログラマなどが受託者となって作品やプログラムなどを創作し、これらの成果物を委託者に納入する業務委託では、受託者が著作者であって、成果物についての著作権は受託者に原始的に帰属する場合が通常と思われます(なお、著作者の意義については、『「著作者」になる人、ならない人について教えてください』もご確認ください。)。そして、成果物の納入により、成果物についての所有権が受託者から委託者に移転したとしても、成果物についての著作権は当然には受託者から委託者に移転しません。

そうすると、委託者の立場からは、委託者が成果物についての著作権を確保したい場合、業務委託契約において、成果物についての著作権が受託者から委託者に譲渡され、委託者に帰属することを明記すべきということになります(もちろん、委託者と受託者との間で譲渡の合意があることが前提です。)。この場合、業務委託契約において、①著作権の譲渡対価について明記すること(業務委託料とは別に、著作権の譲渡対価を定めてもよいですし、業務委託料の中に著作権の譲渡対価が含まれることを確認することでもよいです。)、②著作権法第27条の権利(翻訳権、翻案権等)及び同第28条の権利(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)も譲渡されることを明記すること(明記しないと、これらの権利は譲渡されないリスクがあります。)、及び、③受託者が委託者に対し、著作者人格権を行使しないことを明記することが必要になります。なお、著作者人格権の不行使については、『著作権の譲渡契約書に著作者人格権の不行使特約(不行使条項)があったときの対応』 や『【契約】著作者人格権を行使しない取り決め』 もご確認ください。

これに対し、受託者の立場からは、成果物についての著作権が受託者に原始的に帰属する場合が通常であることから、特に何も定める必要がないかというと、そういうわけではありません。契約に至る経緯、契約の目的・趣旨、業務委託料の多寡、当事者間の交渉経緯などに照らし、成果物についての著作権が受託者から委託者に譲渡されたと裁判所によって判断されてしまうリスクはゼロではありませんし、受託者が個人事業主の場合、委託者との間に雇用契約がなくても、委託者の指揮監督を受けていれば、職務著作が成立して、委託者が著作者になる、つまり、成果物についての著作権が委託者に原始的に帰属してしまうリスクもあるからです(なお、職務著作については、『自分で創作した著作物が会社のモノ?-職務著作について-』 や『職務著作と職務発明の比較』 もご確認ください。)。したがって、受託者の立場からも、成果物についての著作権を確実に確保したい場合は、成果物についての著作権が受託者に帰属することを明確に確認することが重要です。

なお、成果物についての著作権を委託者と受託者が共有する形もあり得ます。この場合、受託者が成果物についての著作権の持分の一部を委託者に譲渡する形になり、業務委託契約において、上記①~③を明記することが必要になります。

利用許諾の範囲


業務委託では、委託者が一定の業務目的のために受託者に対して成果物の創作を依頼し、受託者から成果物の納入を受ける以上、成果物の納入後に、委託者が成果物(著作物)を一定の範囲で利用することは当然想定されているものと思われます。他方、受託者は、委託者に成果物を納入した後も、自らの業務又は第三者との業務委託などにおいて、成果物(著作物)を一定の範囲で利用したい場合があります。

委託者の立場からは、成果物についての著作権が委託者に帰属する場合、委託者は成果物に係る著作物を自由に利用できますので、特に問題はありません。これに対し、成果物についての著作権が受託者に帰属する場合、業務委託契約において受託者が委託者に利用を許諾する範囲を明確に定めないと、委託者と受託者との間で利用許諾の範囲をめぐって将来紛争になるリスクがあります。すなわち、上述したとおり、業務委託では、委託者が一定の業務目的のために受託者に対して成果物の創作を依頼し、受託者から成果物の納入を受ける以上、成果物の納入後に、委託者が成果物(著作物)を一定の範囲で利用することは当然想定されているものと思われ、著作権を有しない委託者が成果物(著作物)を一切利用できないというわけではないと思われます。このような中で、業務委託契約において利用許諾の範囲を明確に定めないと、契約に至る経緯、契約の目的・趣旨、業務委託料の多寡、当事者間の交渉経緯などに照らし、利用許諾の範囲が裁判所によって最終的に判断されることになりますが、裁判所の判断の予測可能性が必ずしも高いわけではないことから、委託者と受託者との間で見解の対立が生じ得るからです。したがって、この場合、業務委託契約において利用許諾の範囲を明確に定めることが重要です。

受託者の立場からは、成果物についての著作権が受託者に帰属する場合、受託者は成果物に係る著作物を自由に利用できますので、特に問題はありません。これに対し、成果物についての著作権が委託者に帰属する場合、受託者は、成果物についての著作権を委託者に譲渡するのと同時に、少なくとも成果物納入後に利用する可能性がある範囲で、委託者から利用許諾を受けておく必要があります(このように、著作権を譲渡した上で、譲渡先から利用許諾を受けることをライセンスバックといいます。)。そうしないと、自らが創作したものだからという軽い気持ちで成果物に係る著作物を利用してしまうと、委託者から著作権侵害の警告や権利行使を受けてしまうリスクがあります。したがって、この場合、著作権の譲渡の規定と併せて、利用許諾の範囲を含め、ライセンスバックの規定を明確に定めることが重要です。

著作権の利用許諾についは、『クリエイターなら知っておきたい著作権契約のいろは』 もご確認ください。

なお、成果物についての著作権を委託者と受託者が共有する形をとる場合、著作権法のデフォルトルールは、共有者各自は原則として自由に著作物を利用することができないというものですので、契約でこれを修正する必要があります。すなわち、委託者と受託者は、それぞれ、少なくとも成果物納入後に利用が想定される範囲において、相手方の合意を得ることなく、成果物に係る著作物を自由に利用できることを業務委託契約に明記すべきことになります。

非侵害保証


受託者が委託者に納入する成果物が第三者の著作権を侵害している場合、当該成果物の納入を受けた委託者は、当該第三者との間でトラブルや紛争を抱えることにもなりかねませんので、受託者に対し、納入する成果物が第三者の著作権を侵害していないことの保証をさせることは有益です。

秘密保持


業務委託の開始前又は業務委託の期間中において、委託者と受託者との間で、成果物に関連する非公知の様々なアイデアや着想などがやりとりされることがあります。こうしたアイデアなどは、具体的な表現のレベルには達しておらず、著作権の保護対象である著作物ではないと思われます。したがって、委託者又は受託者は、業務委託の終了後に、あるいは、そもそも業務委託が流れた場合に、自らが相手方に提供したアイデアなどに基づいて、相手方又は相手方が依頼した第三者が何らかの成果物を完成させても、著作権侵害の責任を追及することはできないと思われます。こうしたアイデアなどを保護するためには、業務委託の開始前であれば秘密保持契約を締結し、業務委託の期間中であれば、業務委託契約において秘密保持条項を規定する必要があります。具体的には、相手方に提供するアイデアなどについての秘密保持義務や目的外不使用義務を規定することが重要です。目的外不使用義務については、目的を明確に定めることが重要であり、業務委託をするかしないの検討目的や業務委託を遂行する目的などを定め、相手方がこうした目的以外の目的でアイデアなどが使用しないようにすることが重要です。

まとめ


以上のとおり、クリエイタやプログラマなどが受託者となって作品やプログラムなどを創作し、これらの成果物を委託者に納入する業務委託では、委託者と受託者との間で後にトラブルになってしまう事態を防止するために、成果物についての著作権の帰属やそれに応じた利用許諾の範囲などについて委託者と受託者との間で十分な協議を行い、業務委託契約書において、これらを明記していくことが何より重要であると考えられます。

令和6年度 日本弁理士会著作権委員会委員

弁護士・弁理士 篠森 重樹

※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。

※ 著作権に関するご相談はお近くの弁理士まで(相談費用は事前にご確認ください)。
また、日本弁理士会各地域会の無料相談窓口でも相談を受け付けます。以下のHPからお申込みください。

【ビジネスの著作権】に関連する情報

おすすめコンテンツ

商品・サービスのビジネスデータベース

bizDB

あなたのビジネスを「円滑にする・強化する・飛躍させる」商品・サービスが見つかるコンテンツ

新聞社が教える

プレスリリースの書き方

記者はどのような視点でプレスリリースに目を通し、新聞に掲載するまでに至るのでしょうか? 新聞社の目線で、プレスリリースの書き方をお教えします。

広報機能を強化しませんか?

広報(Public Relations)とは?

広報は、企業と社会の良好な関係を築くための継続的なコミュニケーション活動です。広報の役割や位置づけ、広報部門の設置から強化まで、幅広く解説します。