サッカー・ラグビーなどのスポーツ中継のテレビ番組を店舗・事務所で流したい時の著作権法上の注意点
目次
スポーツ自体はほとんど著作物とはならない
スポーツ中継動画はほとんど著作物になる
非営利の上映は無許諾でも認められるが店舗等で流すことは認められない
大型ビデオプロジェクタや家庭用でないディスプレイを使ってスポーツ中継動画を流すことはできない
家庭用のテレビ機器を使って現に放送されているスポーツ中継動画を店舗等で流すことはできる
録画したスポーツ中継動画は家庭用のテレビ機器であっても店舗等で流すことはできない
まとめ
スポーツ自体はほとんど著作物とはならない
あるコンテンツが著作権で保護されるかどうかを考えるときに大切なのが、そのコンテンツが「著作物」であることが必要です。著作物でないものには著作権は発生することはなく、そうであれば、著作権法上の問題は発生しません。
まずは今回のテーマである「スポーツ」について検討をしてみたいと思います。著作権法上、著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」とされています。
つまり、著作権が発生するため、すなわち著作物となるためには、①思想又は感情を、②創作的に、③表現したものであって、④文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの、の4つの要件を満たす必要があります。④の要件は、工業製品を除外する趣旨ですので、主に①から③を満たすかを見ていきます。
これを「スポーツ」に当てはめてみると、サッカーやラグビーの試合において、選手たちは創作的なプレーをすることはあるかもしれませんが、少なくとも思想や感情を表現しようとしているものではないと言えるでしょう。このため、著作物となるための要件を満たさないことから、「スポーツ」それ自体は原則として著作物とはならず、著作権が発生することはないと考えられます(一部、フィギュアスケートなどのアーティステック・スポーツに関しては諸説あり)。
スポーツ中継動画はほとんど著作物になる
次に、プロスポーツ試合や国際試合では、テレビで中継がなされることがしばしば行われていますが、この中継動画について考えてみたいと思います。このとき、放送局はいくつものカメラを会場に配置し、動画を通じて試合におけるシーンをより魅力的・感動的に視聴者に伝えられるよう趣向を凝らして創作的な表現がなされているので、著作物となるための要件は満たしそうです。
著作権法には、例示著作物として「映画の著作物」が挙げられており、これには「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含むものとする。」という定めが用意されていることから、一般的に録画されているテレビ放送は映画の著作物となり、録画されずに生放送されるだけのテレビ放送は映画の著作物とはならない、と整理されています(「録画=記録媒体に固定」ということ)。
もっとも、現代ではプロスポーツ試合や国際試合について放送局で録画がされていないというケースは稀であると考えられますので、「スポーツ中継動画」については「映画の著作物」として著作権が発生することがほとんどだと考えて良いでしょう(録画されずに生放送されるスポーツ中継が「映画の著作物」に該当しないとしても著作権が発生するかは別途検討の余地がありますが、本記事では割愛します)。
非営利の上映は無許諾でも認められるが店舗等で流すことは認められない
「スポーツ中継動画」については、放送局等の動画の製作者に著作権が帰属することになりますので、その動画を利用しようとする場合には原則として著作権者に許諾を得る必要があります。
注意するべき権利は、著作権としては生放送については公の伝達権、及び、放送を録画したものについては上映権です。そして、著作隣接権としてはテレビジョン放送の伝達権です。
しかし著作権法では、公表された著作物については、営利を目的でなく、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、公に上映等をすることができる旨が規定されていますので、放送済みの「スポーツ中継動画」を録画したものを非営利・無対価で上映することは許諾が必要ありません。生放送は、スクリーンや超大型ディスプレイなどを用いず、営利目的でなく、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合であれば、同様に許諾なく流すことができます。
ここで注意が必要なのが、非営利・無対価であるかどうかの判断です。店舗として営業されている場合、営利目的であると判断されますし、直接に動画の視聴料金を顧客から受け取っていなくとも、飲食等の代金を受け取っている場合には、対価性があると判断されます。
よって、店舗で「スポーツ中継動画」を流すことは、原則として著作権(生放送は公の伝達権、録画物は上映権)が及ぶと理解する必要があります。スクリーンや超大型ディスプレイなどを用いて生放送を流す場合には、著作隣接権(テレビジョン放送の伝達権)が働くことも押さえておきましょう(次項参照)。
大型ビデオプロジェクタや家庭用でないディスプレイを使ってスポーツ中継動画を流すことはできない
店舗によっては、スクリーンや超大型ディスプレイなどに大きく映し出して顧客に鑑賞させたいということもあるかと思われます。
大型ビデオプロジェクタや家庭用でない超大型ディスプレイを用いて上映する場合、前述の著作権(公の伝達権又は上映権)以外に、著作隣接権(テレビジョン放送の伝達権)が及ぶことになりますので、例え放送事業者が著作権者でない場合でも、著作権者及び放送事業者の許諾を得る必要があると心得ておきましょう。
家庭用のテレビ機器を使って現に放送されているスポーツ中継動画を店舗等で流すことはできる
もっとも、家庭用のテレビ機器を用いて生放送をそのまま流す場合には、非営利・無対価という要件は課せられず、著作隣接権(テレビジョン放送の伝達権)も及ばないことから、店舗であっても顧客に鑑賞させることが可能です。ただし、現に放送されているスポーツ中継動画である必要がある点に注意しましょう。
録画したスポーツ中継動画は家庭用のテレビ機器であっても店舗等で流すことはできない
スポーツ中継動画を録画する行為は、ハードディスク等の記録媒体に映し取ることですから、複製権を侵害することにあります。
この複製権は、私的使用のための複製については及ばない旨が定められています。自宅でのテレビの録画は、複製権が制限されているから著作権侵害とはならないということです。
しかし、店舗で録画したスポーツ中継動画を上映すると、著作権(上映権・複製権)侵害となります。店舗で上映するために複製することは、私的使用のための複製ではありませんので、原則通り複製権侵害となります。また、たとえ私的使用のために複製したものであっても、店舗で上映すると目的外使用となり複製権侵害とみなされます。録画した動画を店舗で上映したい場合、著作権者・放送事業者の許諾を得る必要があります。
まとめ
以上、スポーツ中継動画を店舗等で流す場合の著作権法上の注意点をまとめました。スポーツバーなどのようにスポーツ中継動画を店舗で流すことを検討されている方はもちろん、社内の機運醸成のために事務所内で流す場合にも、著作権・著作隣接権が及ぶことがありますので、著作権法に十分留意して事業活動を進めるようにしましょう。
令和4年度 日本弁理士会著作権委員会委員
弁理士 伊藤 大地
※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。
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