日常生活の著作権

他人の著作物を利用して時事ネタを投稿すると著作権侵害?

弁理士の著作権情報室

個人が、時事ネタとともに、これに関連する、他人が著作権を有する著作物(写真など)をウェブサイトに投稿する行為、例えば、個人が、著作権侵害幇助の判決がなされたという旨のコメントとともに、同判決において著作権侵害の成否が問題とされた写真(他人が著作権を有する写真)をウェブサイトに投稿する行為は、著作権侵害になるのでしょうか?投稿者である個人は、報道機関のように事件の報道をしているだけだとして、著作権侵害にはならないと主張することは可能でしょうか?

他人の著作物を利用して時事ネタを投稿すると著作権侵害?

著作権法41条


事件の報道の際の他人の著作物の利用について、著作権法41条は、「写真、映画、放送その他の方法によって時事の事件を報道する場合には、事件を構成し、又は当該事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物は、報道の目的上正当な範囲内において、複製し、及び当該事件の報道に伴って利用することができる。」と規定しています。上記行為に著作権法41条が適用されれば、著作権侵害にはならないという結論になると考えられます。以下、著作権法41条の要件を以下のとおり5つ程度に分けて整理したいと思います。

報道の主体について


まず、報道の主体についてですが、著作権法41条は、自由な報道ひいては国民の知る権利への寄与を目的とするものであるから、報道の主体は新聞社やテレビ局などの報道機関が想定されており、個人は想定されていないという有力な考え方があります。しかしながら、著作権法41条の文言上は、このような限定はないため、個人が情報発信する場合に著作権法41条の適用が一律に否定されるわけではないと考えられます。なお、東京地裁令和5年3月20日判決・令和4年(ワ)第2237号は、冒頭の事案について、著作権法41条の適用を認めていますので、裁判例は、個人が情報発信する場合に著作権法41条の適用を一律に否定しているわけではないと考えられます。

報道の手段について


次に、報道の手段についてですが、「写真、映画、放送その他の方法によって」とありますので、インターネットでの報道等、あらゆる方法が可能であると考えられます。

時事の事件について


次に、「時事の事件」についてですが、時事の事件と称して著作物が不当に利用されるのを防止するために、事件の発生時と報道時との関係において「時事の事件」を狭く解し、その日におけるニュースとして価値を持つかどうかの問題とする有力な考え方がありますが、裁判例は、「時事の事件」をこのように狭く解しておらず、過去の事件も「時事の事件」としたと理解できる裁判例があります。

裁判例において「時事の事件」への該当性を否定しているものとしては、読者の性的好奇心を刺激して購買意欲をかきたてようとの意図で記述されているとして、記事の実質を踏まえ「時事の事件」に該当しないと判断したものや、オークション等の宣伝広告を内容とするものであるとして、パンフレットの実質を踏まえ「時事の事件」に該当しないと判断したものがあります。

時事の事件の報道のために利用できる著作物について
次に、時事の事件の報道のために利用できる著作物についてですが、条文上2類型があります。

1つ目の類型は、「事件を構成する著作物」であり、これは、その事件の主題となっている著作物をいいます。例えば、盗まれた絵画の報道において、当該絵画の写真は、「事件を構成する著作物」といえます。

いわゆるスクープ写真(報道機関が撮影したものだけではなく、個人が撮影したものも含みます。)が「事件を構成する著作物」に該当するのかという論点がありますが、スクープ写真は「事件を構成する著作物」には該当しないとされています。したがって、時事の事件の報道にあたり、他人のスクープ写真を利用すれば、著作権侵害になる可能性があります。

裁判例において「事件を構成する著作物」への該当性を否定しているものとしては、日本初の大規模な風力発電ファンドを紹介するに当たり、当該風車とは異なる風車を撮影した写真を利用する場合の当該写真や、警視庁が著名ミュージシャンに対する覚せい剤使用の疑いで逮捕状を請求する予定であることなどをテレビで放送するに当たり、当該著名ミュージシャンの楽曲を利用する場合の当該楽曲があります。

2つ目の類型は、その事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物です。例えば、甲子園の高校野球の中継をする際に入場行進曲も同時に放送されるような場合における入場行進曲の演奏音は、その事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物といえます。

報道の目的上正当な範囲内について


次に、「報道の目的上正当な範囲内」についてですが、事件を報道することが主目的でなければならず、例えば、時事の事件の報道に名を借りた観賞用の写真掲載は許されないとされています。もっとも、報道である以上、引用(著作権法32条)のような主従関係は要求されず、また放送時間・掲載量についてもかなり多く認められる場合もあると思われます。

まとめ


以上、著作権法41条の要件を整理してきましたが、個人が、時事ネタとともに、これに関連する、他人が著作権を有する写真をウェブサイトに投稿する場合、個人というだけで、著作権法41条の適用が否定されることはないと思われますが、他の要件を充足するかの検討は当然必要になると思われます。また、著作権法41条の検討に加えて、引用(著作権法32条)に該当するかの検討も必要になると思われます。

参考文献


中山信弘著 著作権法 第4版 有斐閣 459~464頁
高林龍著 標準著作権法 第5版 有斐閣 194~195頁
判例タイムズ1514号233頁
判例タイムズ1519号245頁

令和6年度 日本弁理士会著作権委員会委員

弁護士・弁理士 篠森 重樹

※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。

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