自分の写真等に他人の著作物が写り込んでしまう(いわゆる写り込み)場合、その著作物の著作権者の許可が必要?
著作権者の許可をもらうのが原則
写真撮影やビデオ収録等の際に背景に有名なキャラクター(著作物)が入り込んでしまう、いわゆる写り込みをしてしまうことがありますよね。このような場合は、写真撮影やビデオ収録等のときは勿論、その後その写真やビデオ映像をSNS等にアップして利用するようなときも、そのキャラクターの著作権者の許可をもらうのが原則です。これは「複製権」などの著作権との関係で問題になるからです。
ビデオ収録時にバックに音楽が入り込んでしまうような場合なども同じです。
従来の写り込みに係る(著作権者の)権利制限規定
でも、このような写り込みを伴う写真撮影等行っても、また、その後それを利用しても、付随して取り込まれた著作物の著作権者の利益が不当には害されないケースも多いですよね。
そこで、このようなことを考慮して、以下の6つの要件を満たす写り込みの場合には、付随して取り込まれた著作物の著作権者の権利を制限する規定(すなわち違法とならない範囲)が設けられていました。
<従来の権利制限規定の要件(写り込みが違法とならないための要件)>
(ア)写真の撮影、録音・録画(「対象行為」)のような行為によって、
(イ)写真・動画等の著作物を創作(「著作物創作要件」)するときに、
(ウ)メインの被写体等(本来の撮影等の対象)から分離困難(「分離困難性」)であるため、
(エ)付随して取り込まれてしまう(「付随性」)著作物は、
(オ)それが写真・動画等の構成部分としては軽微なもの(「軽微性」)であり、
(カ)かつ、その撮影等の行為及びその後のその写真等の利用が、付随して取り込まれた著作物の著作権者の利益を不当に害しない場合。
しかし、スマートフォンやタブレット端末等の急速な普及や動画投稿・配信プラットフォームの発達等社会実態の変化に伴い、写り込みに係るこのような権利制限規定に対しても、社会実態に合わせて改正の必要性が高くなってきました。
そこで、令和2年通常国会著作権法改正で、かかる社会実態の変化に対応すべく、写り込みに係る権利制限規定の対象範囲(すなわち違法とならない範囲)が拡大されました。
「令和2年通常国会著作権法改正」での権利制限規定の対象範囲の拡大について
今回の「令和2年通常国会 著作権法改正」で、上記(ア)の「対象行為」が拡大され、(イ)の「著作物創作要件」は削除されました。(ウ)の「分離困難性」の要件は、写り込みが「正当な範囲において」という新しい要件の一つの判断要素となり、また、この「正当な範囲において」であるか否かについては、これも含め多面的に判断されることになりました。(オ)の「軽微性」については、利用者が判断するときに役立つように考慮要素の例示を追加しました。(エ)の「付随性」と(カ)の「著作権者の利益を不当に害しない限り」の要件については従来の規定から基本変わっておりません。次に、これらについて詳しく説明します。
なお、この改正された規定については、令和2年10月1日より適用されています。
従来の対象行為(写真の撮影、録音・録画)から対象行為を拡大(上記(ア)の改正)
今まで権利制限規定の対象行為外の行為であった皆がよくするスクリーンショット等の行為は、従来の対象行為である写真の撮影等の場合と比較しても、著作権の権利者に与える不利益の程度に特段の差がないと考えられます。
そこで、対象行為の範囲を、従来の写真の撮影等以外の複製行為にも、さらにはこのような複製を伴わない行為にまでも広げました。
従って、今までは違法となりえたスクリーンショットやコピー&ペーストのような複製を伴う行為も、SNSでの動画の生配信など複製を伴わない行為も、この規定の他の要件を満たせば今後は違法とはなりません。
著作物を創作するときという限定をなくしました(上記(イ)の削除)。
固定カメラにたまたま他人の著作物が写り込んだような場合、このような行為は著作物の創作とは評価しがたいということで、今までは権利制限規定の対象外となり、違法になり得ました。
しかし、今回の改正でこの要件は削除され、固定カメラでの機械的な撮影など創作性が認められない行為での他人の著作物の写り込みも、権利制限規定の対象範囲に含まれることになりました。
従って、このような行為も、この規定の他の要件を満たせば今後は違法とはなりません。
「分離困難性」も含めた新しい「正当な範囲内において」という要件を設けました(上記(ウ)に関する改正)。
従来、この要件に関しては、「付随性」の要件との関係も含めどのように判断すべきか必ずしも明らかではありませんでした。「分離困難性」は「付随性」を満たす典型的な例だから「付随性」の要件だけで足りるのではという意見もありました。しかし、単に「分離困難性」の要件の削除のみを行った場合、ⓐテレビ番組やインターネット動画等のBGMとして他人の楽曲を意図的に利用する行為やⓑネット配信の視聴者数を増大させて利益を得る目的で、有名キャラクターのフィギュアや有名画家の絵画などを意図的に配置して写し込む行為等権利者の利益に反するような行為も違法とならなくなる可能があります。
そこで、これらのことに鑑み、付随して取り込まれた著作物の利用により利益を得る目的の有無、付随して取り込まれた著作物のメインの被写体等からの分離の困難性の程度、写り込みのある写真・動画等において付随して取り込まれた著作物が果たす役割その他の要素に照らし正当な範囲内においてという考慮要素の例示の一つに分離の困難性の程度を含めた新しい要件を設けました。これにより、上記ⓐ・ⓑのような意図的な利用・配置のような行為を除外(違法)する一方、社会通念上正当と認められる写り込みは幅広く違法とならないようにしました。
従って、日常生活でよく行われる子供にぬいぐるみを抱かせての撮影など、メインの被写体から分離可能な場合でも、その写り込みについては、今後は違法とならない場合が多いと思われます。
付随性について(上記(エ))
この要件については、従来の規定から基本変わっておりません。
なお、上記のぬいぐるみのようにメインの被写体と付随して取り込まれる著作物が別個のものである場合だけでなく、被写体が街の雑踏の光景である場合に、その光景の中にたまたまその光景の一部としてポスターなどが付随的に含まれる場合でもこの要件は満たします。
軽微性について考慮要素の例示を追加(上記(オ)の改正)
この要件は、著作権者にとって保護すべきマーケットと競合する可能性が想定しづらい写り込みの場合には違法としないようにするために設けられています。しかし、単に「構成部分としては軽微なもの」というだけでは、軽微性をどのように判断して良いのか明らかではありませんでした。そこで、写真・動画等における付随して取り込まれた著作物の占める割合、写真・動画等における付随して取り込まれた著作物の再製の精度その他の要素に照らし写真・動画等において付随して取り込まれた著作物が軽微な構成部分となる場合という考慮要素を複数例示した規定にしました。これにより、この要件に関しては総合的に考慮されるのだということを明確にするとともに、写真撮影者等によりわかりやすいようにしました。
「著作権者の利益を不当に害しない限り」について(上記(カ))
この要件も、従来の規定から基本変わっておりません。従来同様著作権者にとっての最終的な安全弁としての役割を持たせるために残されています。
従って、付随して取り込まれた著作物の種類及び用途並びに利用の態様に照らして、その付随して取り込まれた著作物の著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、他の要件を満たしていても、付随して取り込みされている著作物の利用(すなわちこのような写真・動画等の利用)は違法(複製権、公衆送信権等の侵害)になります。
民事上の責任・刑事罰について
他人の著作物が写り込んでしまうような場合で、かつそれが写り込みに係る権利制限規定の対象外となる場合には、民事上の責任として差止請求や損害賠償請求等がされる可能性があります。また、刑事罰にも問われる可能性があります。
<参考資料>令和2年通常国会 著作権法改正について(文化庁)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/r02_hokaisei/
<参考資料>著作権法及びプログラムの著作物に係る登録の特例に 関する法律の一部を
改正する法律 御説明資料(文化庁)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/r02_hokaisei/pdf/92359601
<参考資料>写り込みに係る権利制限規定の拡充に関する報告書(文化審議会著作権分科会)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/92074601_01.p
令和2年度 日本弁理士会著作権委員会委員
弁理士 上田 精一
※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。
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