日常生活の著作権

著作権侵害にならない「私的使用」の限界はどこか

弁理士の著作権情報室

著作権を持たない人が著作権者に無断で著作物を利用すると、著作権侵害になってしまいます。日常生活でみると、文章や動画、写真、絵画をコピーすることはよくあることですが、著作権法との関係で問題にはならないのでしょうか。

著作権侵害にならない「私的使用」の限界はどこか

私的な範囲でのコピー(私的複製)は問題ない


著作物を、個人的又は家庭内で使用するために、それを使用する者がコピー(複製)すること(いわゆる私的複製)は、著作権法で認められています。ここにいうコピーとは、書籍や雑誌などの紙媒体をコピー機で印刷することだけでなく、スキャナーでPDFに変換(電子化)することや写真撮影をすること、動画撮影をすることも含まれます。スクリーンショット(いわゆるスクショ)も複製に当たります。対象とする著作物により、コピーの方法が様々にあり得るということです。

無断コピーは著作権者の許諾が必要というのが著作権法上の原則ですが、こうした例外は、零細かつ狭い範囲での使用であれば、著作権者の不利益は大きくないということで認められたものです。一昔前に町で見かけたレコードやビデオのいわゆる店頭ダビングは、それが無償で用意された機器を用いるものであっても認められません。もっとも、コンビニエンスストアなどに置かれているコピー機を使った文書・図画のコピーは、当分の間、問題ないものとされています(このことは、昭和46年1月1日施行の現行法制定当時、著作権法の附則に規定されています。)。

また、単純なコピーのほか、私的使用のためであれば、著作物を翻訳、編曲、変形、翻案することも認められています。ここで、「翻案」というのは、「ほんあん」と読み、著作権法の世界ではよく出てくる言葉です。「表現上の本質的特徴を直接感得できる別の著作物を創作すること」と言われますが、馴染みのある言葉に置き換えれば「二次創作」と言えるでしょうか。

私的複製をしたものであっても「目的外使用」に注意


さて、このように、私的使用のためであれば、コピー以外にも様々なことを著作権者の許諾を得ずに行うことができますが、コピーしたものをSNSで配信したりブログに掲載したりすることは、著作権法上認められているのでしょうか。結論としては、SNSやブログなどのインターネットに投稿することは、こうした行為を許容する規定(著作権を制限する規定)がないため、たとえ私的な(プライベートな)目的であったとしても、著作権法に反することになります。具体的には、サーバーへのアップロード行為により「複製権」が問題になり、インターネットにおける配信を行いますと「公衆送信権」という別の権利が問題になります。いわゆる動画生配信のようなものでなくとも、公衆がアクセスをすることで写真や動画などの著作物が自動で配信されるようなものである場合、公衆送信権の一種である「送信可能化権」との関係で問題になります。そのうえ、事後にこうしたインターネットへの投稿をしてしまうと、当初は適法であった私的使用としてのコピーも、目的外使用として、あとから違法と評価されてしまう(複製権を侵害したものとみなされる)ことになりますので、スマートフォンなどでコピーが容易になった現代では、うっかりインターネット上に送信してしまわないよう、特に注意すべきといえます。

うっかり投稿の例としては、SNSアカウントのプロフィール画像に設定するということが挙げられます。イラストや写真は、思想や感情を創作的に表現したものであれば著作物として著作権が発生するところ、実際に、他人の著作物の創作性がある部分をインターネット上にアップロードした行為が、複製権及び公衆送信権の侵害であると判断された裁判例もあるので注意が必要です(東京地判令和3年11月12日令和3年(ワ)第1936号)。この事件で被告は、(1) 私的利用に当たること、(2) 悪質な利用方法ではなく例外的に公衆送信権の侵害には当たらないこと、(3) 権利濫用であることから、権利侵害が認められないなどと主張をして著作権侵害が成立しないと争いましたが、裁判所はこれらの主張を退け、著作権を侵害するものと結論づけました。

また、コピーしたものを不特定又は多数の人に譲渡したり貸与したりすることは、それが有償であるか無償であるかを問わず、著作権法上の「頒布」(「はんぷ」と読みます。)に該当し、同様に目的外使用ということになり、あとから違法と評価されてしまう(複製権を侵害したものとみなされる)ことになりますので、この点にも注意が必要です。

「私的な範囲」は意外と狭い


適法な私的複製であると認められるための条件である「私的な範囲」というのは、著作権法上、「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲」であるとされます。ここで、「個人的」というのは、著作物を使用する人がひとりで、という意味であり、また「家庭内」というのは同一家庭内、という意味と理解されています。前述のとおり、著作権者の不利益が大きくならない範囲と考える必要がありますので、例えば、別居する親戚に配ったり、近所やサークルで配ったりするためのコピーは、「個人的」にも「家庭内」にも属しないと考えられます。

法律上、これらのほかに、「その他これに順ずる限られた範囲」として、多少幅を持たせた表現となっていますが、この範囲に属する人同士に、強い個人的結合関係が必要であるとされ、実際は個別具体的な判断が必要になってきます。とはいえ、自宅でコピーしたものを会社で配って使用するような場合や、会社の同じ部署内の数名に配るためにコピーをするというような場合には、結合関係が否定されると考えられますので、著作権者の許諾を得るべきといえます。特に、中小企業や個人事業を営まれていると、家族経営であったり従業員同士の関係が密であったりすることも少なくなく、境界が曖昧になりがちなので注意が必要です。一方、仲の良い友人数人と共有する程度であるとか、個人的結合関係が強固なプライベートの集まりであれば、「個人的」でも「家庭内」でもないものの、「その他これに順ずる限られた範囲」に該当すると言える余地はあるのだと考えられます。

このほか、個人的な使用目的でするコピーに関しては、前述の書籍等を電子化する行為、いわゆる「自炊行為」が適法かどうかということが問題になります。自炊の方法には、裁断をして自らスキャンをする方法と代行業者などの他人にスキャンを依頼する方法が想定されますが、スキャン(電子化)を自分でする限りにおいては、私的複製と言えますので問題ありません。しかし、これを自炊代行業者に依頼をすると、著作物をコピーする者と使用をする者が一致しないことから著作権者の許諾が必要となるため、注意が必要です。「自炊行為」をする場合には、自分でスキャンして行うようにしましょう。なお、電子化したファイルをインターネットに投稿する行為は、前述のように著作権法に反する行為となりますので注意しましょう。

家庭内目的でも認められない場合もある


自分で鑑賞するために借りてきたCDを録音することやテレビ番組を自宅で録画することは、私的使用として認められます。

しかし、販売され、又は有料で配信されている音楽や映像が違法に配信されている場合に、それが違法配信されたものであると知りながらダウンロードすることは禁止されています。2021年1月1日から、違法配信された漫画や書籍、新聞、論文、ソフトウェアなどを、それが違法コンテンツであると知りながらダウンロードすることも禁止されています(詳しくはスクリーンショット(スクショ)って自由にしてよいの?参照)。

また、個人的に自宅で鑑賞する目的であっても、映画館で映画を撮影すること(動画のコピー)は認められていません。有料の映画館上映の場合はもちろん、無料の試写会であっても認められません。これは、著作権法とは別の法律である「映画の盗撮の防止に関する法律」によって規制されているので、注意が必要です。もっとも、全ての映画作品が対象というわけではなく、この規制は、日本国内で初めて有料で上映した日から8ヶ月を経過した映画については適用されません。

このほか、いわゆるコピープロテクション(技術的保護手段)が施された著作物について、コピープロテクションが施されていることを知りながらこれを回避してするコピーは、認められていません。


はじめは適法であったものが後から違法になる場合もある


このようにいわゆる「私的複製」は、法律上、「私的使用」という言葉そのものの意味合いよりも狭い範囲でしか適法なコピーは認められていません。また上記で一例を示したように、私的使用として認められる範囲でなされたコピーであっても、その後に私的使用の目的の範囲外でインターネットに投稿したり、不特定の人、又は特定多数の人に譲渡したり、貸与したり、あるいは提示したりすると、事後的に私的使用ではなくなってしまい、違法と評価されてしまうこともあるので、コピーした後の使用方法にも注意が必要です。


参考資料:文化庁「映画の盗撮の防止に関する法律について」
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/eiga_tosatsu.html

参考資料:JASRAC「私的録音・録画補償金制度」
https://www.jasrac.or.jp/info/private/index.html

令和5年度 日本弁理士会著作権委員会委員

弁理士 伊藤 大地

※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。

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