「踊ってみた」動画をSNSに投稿しても大丈夫??
はじめに
SNS上では曲にあわせて踊りを披露する、いわゆる「踊ってみた」動画が数多く投稿されています。ダンサーがアイドルの曲に合わせて踊ったり、子供たちがアニメの主題歌に合わせて踊っていたりとその内容は様々ですが、中には何百万回もの再生回数を獲得しているものもあるようです。みなさんの中にも「踊ってみた」動画を投稿してみたいと思っている方がいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで今回は、「踊ってみた」動画を投稿する際に注意すべき楽曲や音源、振り付けにまつわる権利を中心に考えてみたいと思います。
楽曲について
楽曲には、作詞家、作曲家それぞれに著作権が発生します。そして著作権者は、著作物を形のある物に再製する(コピーする)権利(複製権)や、放送、有線放送、インターネット等、公衆向けに 送信する権利(公衆送信権)を有しています。
「踊ってみた」動画にはダンスを踊るためのBGMとして楽曲が含まれていることが一般的ですが、楽曲を含む動画をSNSのサーバにアップロードする行為は、著作物をSNSのサーバに「複製」し、世界中のユーザが閲覧できるよう「公衆送信」する行為に該当しますので、原則として複製権や公衆送信権について事前に著作権者の利用許諾を得る必要があります。
では「踊ってみた」動画の投稿者は、作詞家や作曲家に直接連絡し、利用許諾を受けるための手続を行っているのでしょうか。ほとんどの方はそのようなことはされていないと思います。投稿者の立場からすれば、作詞家や作曲家の連絡先を調べ直接許諾を求めるのは非常に手間ですし、現実的とは言えません。また著作権者の立場からも、許諾を求める連絡にいちいち対応しなければならないとすると、煩雑過ぎます。
そこで、著作権者がJASRACやNexToneといった著作権管理団体に著作権の管理を委託し、管理を委託された団体が楽曲の利用について投稿者に許諾を与えるという仕組みが取られています。
では投稿者はこれらの著作権管理団体に直接連絡し、許諾を受けるための手続を行っているのでしょうか。これも必ずしもそうではないと思います。個別の事案ごとに利用許諾を受けたり与えたりといった手続が必要とすれば、投稿者にとっても著作権管理団体にとっても煩雑であるというのが理由の一つです。
例えばJASRACは、投稿者が個別にJASRACに利用許諾手続を行なわなくても管理楽曲を利用した動画をアップロードすることができるよう、一部の動画投稿サービスと包括的な利用許諾契約を締結しています。なお、対象となる動画投稿サービスは以下のウェブサイトで公表されています。
利用許諾契約を締結しているUGCサービスの一覧(最終更新:2024年8月28日) (jasrac.or.jp)
この中にはみなさんがよく利用されているであろうInstagram、TikTok、YouTube、ニコニコ動画などが含まれていますが、これらの動画投稿サイトにJASRACの管理楽曲を利用した動画を投稿する場合は個別に利用許諾を受けるための手続を行う必要はありません。
ちなみにJASRACやNexToneでは、自己が管理する楽曲を検索できるデータベースを提供していますので、楽曲を含む「踊ってみた」動画の投稿を検討されている場合、まずはこれらの検索サイトで、利用する楽曲が著作権管理団体に管理されているものかを確認してみてください。
音源について
「踊ってみた」動画でクリアすべき課題はこれだけではありません。それは、動画内でCDやダウンロードミュージック等、市販の音源を利用する場合です。この場合、作詞家や作曲家に発生する著作権とは別に、音源を録音したレコード会社や、歌手、演奏家といったアーティストに、いわゆる「原盤権」が発生します。「原盤権」は著作権法上明確に定義されているものではありませんが、一般的には「レコード製作者の権利」や「実演家権」を中心とする著作隣接権と理解されています。
自分で歌唱・演奏した音源を利用する場合、原盤権の問題は生じませんが、CDやダウンロードミュージックを利用した「踊ってみた」動画を許諾を受けずにSNSに投稿すると、原盤権者の送信可能化権を侵害することになってしまいますので注意が必要です。
「あれ、JASRACやNexToneの管理楽曲を、利用許諾契約が締結されている動画投稿サイトで利用すれば大丈夫なんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、そうではありません。JASRACやNexToneは、著作隣接権の管理は行っていませんので、市販の音源を利用して「踊ってみた」動画を投稿する場合、レコード製作者等の著作隣接権者の許諾を得る必要があります。
なお日本レコード協会のウェブサイトには、音源の利用に関する許諾窓口連絡先が案内されていますのでご参照ください。
一般社団法人 日本レコード協会 (riaj.or.jp)
振り付けについて
著作権法では、著作物の例として「舞踊」が挙げられており、振り付けにも著作権が発生する場合があります。過去の裁判例でも、振り付けに著作物性が認められたり認められなかったりと判断が分かれており、必ずしも明確な判断基準があるとはいえません。
自分で振り付けた踊りを動画で利用する場合は問題とはなりませんが、他人が振り付けた踊りを動画で利用する場合は、事前に許諾を得ておくことをお勧めします。
まとめ
「踊ってみた」動画をSNSに投稿する際に気を付けるべき点はこれだけではありませんが、今回は、楽曲、音源、振り付けを中心にお話ししました。せっかく苦労して作った「踊ってみた」動画が違法アップロードとして削除されてしまっては悲しすぎますよね。そのようなことにならないよう、今回の内容を参考に動画の投稿をお楽しみいただければと思います。
令和6年度 日本弁理士会著作権委員会委員
弁理士 瀬川 左英
※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。
※ 著作権に関するご相談はお近くの弁理士まで(相談費用は事前にご確認ください)。
また、日本弁理士会各地域会の無料相談窓口でも相談を受け付けます。以下のHPからお申込みください。
- 北海道会https://jpaa-hokkaido.jp/conferences/
- 東北会https://www.jpaa-tohoku.jp/consultation.html
- 北陸会https://www.jpaa-hokuriku.jp/consult/
- 関東会https://www.jpaa-kanto.jp/consultation/
- 東海会https://www.jpaa-tokai.jp/activities/consultation/index.html
- 関西会https://www.kjpaa.jp/beginner/consul
- 中国会https://www.jpaa-chugoku.jp/activity/
- 四国会https://jpaa-shikoku.jp/index.php/soudan
- 九州会https://www.jpaa-kyusyu.jp/sodankai/