Aさんの絵に似た自分が描いた絵をSNSに投稿した
はじめに
絵を描いたら、他の誰か(Aさん)の絵に似ていたということありえますよね。
この場合、この絵をSNSに投稿したらどうなるのでしょうか?
この絵は自分で考えて描いたのでしょうか。Aさんの絵を見て描いたのでしょうか。または、Aさんの絵を思い浮かべて描いたのでしょうか。自分で考えて描いた場合と、Aさんの絵を見て描いた場合と、Aさんの絵を思い浮かべて描いた場合に分けて説明していきたいと思います。
自分で考えて描いた場合
著作権法では、著作物とは『思想又は感情」を「創作的」に「表現」したものであつて、「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」をいう。』と定義しています。従って、自分で考えて描いたのなら、自分の思想又は感情を創作的に描いた(表現した)美術品であり、その絵はその絵を描いた人(自分)の著作物に該当します。これは、子供が描いた絵であっても同じです。そして、この絵を描いたときに、その人(自分)はこの絵の著作権者になります。この絵が、例えAさんなどの絵と似ていたとしてもです。結果、各々の著作権は共存することになります。
自分で考えて描いた場合、この人はこの絵の著作権者であり、この自分の絵をSNSに投稿しても、この絵に関してAさんの複製権や公衆送信(送信可能化を含む。)に係る著作権の侵害を問われることはありません。
複製権と公衆送信(送信可能化を含む。)については、この「弁理士の著作権情報室」の『Q:どんなことをしたら著作権(著作財産権)侵害になるの?』をご参照ください。
Aさんの絵を見て描いた場合
Aさんの絵を見て、それに似せて描いた場合は、どれだけ似ているかにもよりますが、似せて描いたこの行為は、参考にした絵の著作者の複製権の侵害に該当するおそれがあります。そして、この描いた絵をSNSに投稿、すなわちアップロードすると、参考にした絵の著作者の公衆送信権の侵害に該当するおそれがあります。
なお、絵の練習のために、自分の家などで、Aさんの絵を見て、これを手本にして描くことは、複製権をここまで及ぼすこともないということで設けられている複製権を制限する規定「私的使用のための複製」に該当し、複製権侵害とはなりません。但し、これをSNSに投稿しますと、結果私的使用のため複製でなかったということで、複製権侵害も問われることになります。
絵画の類似については、この「弁理士の著作権情報室」の『著作権法におけるイラストの類似』をご参照ください。
私的使用のための複製については、この「弁理士の著作権情報室」の『著作権侵害にならない「私的使用」の限界はどこか』をご参照ください。
Aさんの絵を思い浮かべて描いた場合
例えば、Aさんは本を擬人化して絵を描くということを特徴にしている場合、その「本を擬人化」というアイディアを思い浮かべ、そのアイディアだけを真似して絵を描いたのであれば、アイディア自体は著作権法で保護されるものではないので、その絵の関しては、この絵をSNSに投稿すなわちアップロードしても、Aさんの複製権及び公衆送信権の侵害にはなりません。
また、『絵画というものは、色々な構図を想定し、それを一定の画風に従って完成するという性格のもの。極論すると、構図(絵画・写真などで芸術表現の要素をいろいろに組み合わせて、作品の美的効果を出す手段〔広辞苑より〕)が思想・感情、筆致・色調が創作的表現』と考えられると言われています。(*1)
従って、例えば東郷青児風の画風(筆致・色調)で描いたとしても、構図が異なっていれば、思想又は感情が異なることになり、それは参考にした絵とは別個の著作物と考えられます。
従って、この場合も、この絵をSNSに投稿すなわちアップロードしても、参考にした絵の著作者の複製権及び公衆送信権の侵害にはならないと考えられます。
著作権の存続期間について
上述のように、誰か他の人の絵を見てそれに似せて描いた場合、それによく似ていれば、それのSNSへの投稿は、参考にした絵の著作者の複製権及び公衆送信権の侵害に該当するおそれがあります。
その場合、その他の人の絵の著作権の保護期間も確認するようにしましょう。著作権の保護期間は、原則著作者の死後70年です。例えば、東郷青児の代表作のひとつ「望郷」をまねて(構図・画風ともに)似た絵を描いてしまった場合、東郷青児氏は1979年に亡くなられていることから、この「望郷」の著作権は、2049年の大晦日の終了まで存続します。
従って、いくら上手に描けて他の人に見てもらいたくても、この絵をSNSに投稿するのは、著作権侵害にならないよう、2050年以降が良いと思います。
著作権の存続期間については、この「弁理士の著作権情報室」の『著作権はいつからいつまで続くの?』もご参照ください。
<参考文献>
*1:加戸守行著「著作権法逐条講義七訂新版」24頁
令和6年度 日本弁理士会著作権委員会委員
弁理士 上田 精一
※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。
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