教育・書籍の著作権

文章の内容に変わりがなければ他人の文章を無断で訂正して利用しても大丈夫?

弁理士の著作権情報室

自身が記載していない文章を、ホームページや紙媒体(雑誌等)に掲載する場合に、誤記を訂正する等、文章の意味内容に実質的な変更がない、形式的で些細な訂正を行いたくなる場合があると思います。この様な形式的で些細な訂正を、文章を記載した者に無断で行ってもよいのでしょうか?

文章の内容に変わりがなければ他人の文章を無断で訂正して利用しても大丈夫?

他人が記載した文章を無断で訂正することは原則だめ


小説、脚本、論文、随筆等の文章については、著作物性があれば言語の著作物として保護されます。文章の著作権を有する者に無断でホームページや紙媒体(雑誌等)への掲載を行うと著作権侵害となってしまいますので、掲載の許可を、著作権を有する者から得なければなりません。では、掲載の許可を得ていれば、無断で文章を訂正してもよいかというと、そうではありません。文章を記載した人は、著作者人格権を有します。著作者人格権の一つとして、同一性保持権という権利があります。同一性保持権とは、著作物の内容とタイトルを意に反して(意に沿わないのに)無断で改変されない権利です。文書を記載した人に無断で文章を訂正することは、同一性保持権の侵害となってしまいますので、原則許されません。
なお、著作者人格権について、詳しく知りたい場合には、「著作者人格権ってどんな権利?著作権とはどう違うの?」をご覧ください。

しかし、どの様な訂正も同一性保持権侵害となってしまい認められないわけではありません。「著作物の性質並びにその利用の目的及びその態様に照らして、やむを得ないと認められる改変」であれば認められます。では、誤記の訂正のような、文章の意味内容に実質的な変更がない形式的で些細な訂正は、「著作物の性質並びにその利用の目的及びその態様に照らして、やむを得ないと認められる改変」に当たり、認められるのでしょうか。

形式的で些細な訂正は認められるか


形式的で些細な訂正が同一性保持権侵害となるかどうか争われた判例として、「法政大学懸賞論文事件(平成2年(ネ)第4279号 東京高等裁判所)」があります。大学発行の雑誌に研究論文を掲載するにあたり、執筆者に無断でこの論文について行った削除・変更が同一性保持権侵害にあたるかどうかが争われました。
この判例では、
① 加算の誤りの訂正
② 明らかな誤植の訂正
については、同一性保持権侵害とはならないと判断されています。つまり、明らかな誤りを正しく訂正することは、認められています。
しかし、
③ 送り仮名の変更(「現われ」を「現れ」に変更等)
④ 読点の使い方の変更(「…、等」を「…等」に変更)
⑤ 中黒の読点への変更(「 」・「 」を「 」、「 」に変更)
⑥ 改行の省略
については、同一性保持権侵害となると判断されています。

上記③~⑥のような訂正は、文章の意味内容に実質的な変更がありませんが、改変を行わなければ、大学の教育目的の達成に支障が出るものとは解し難いとの理由から、「やむを得ないと認められる改変」として認められませんでした。

形式的で些細な訂正が同一性保持権侵害かどうか争われた他の判例として、「毎日がすぷらった事件(平成12年(ワ)第10231号 大阪地方裁判所)」もあります。この判例でも、平仮名表示を漢字表記に変更、アラビア数字を漢用数字に変更、疑問符又は感嘆符の追加、改行位置の変更といった文章の改変が認められませんでした。ある語を漢字で表記するか平仮名で表記するか、疑問符・感嘆符を用いるか、改行位置をどこにするかなどの表記方法の選択も、著作者の個性を表現する方法の一つであり、表現上効果を及ぼす場合があるからという理由です。

上述したように、文章の意味内容に実質的な変更がないような、形式的で些細な訂正であっても認められていない判例がありますので、明らかな誤りを除いては、文章の訂正を行うことに慎重になった方がよいでしょう。

同一性保持権侵害とならないように訂正を行う方法


上述したように、明らかな誤りの訂正でなければ、文章の訂正は同一性保持権侵害となるリスクがあります。同一性保持権は、著作者(文章を記載した者)から譲り受けたり、使用を許してもらうことが出来ない権利ですが、同一性保持権を行使しない取り決めを、文章を記載した人と結ぶことで、同一性保持権侵害となるリスクを回避できます。
詳しくは、「著作者人格権を行使しない取り決め」をご覧ください。

令和2年度 日本弁理士会著作権委員会委員

弁理士 竹口 美穂

※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。

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