その他の著作権

引用するときに翻訳したり要約しても著作権侵害になりませんか?

弁理士の著作権情報室

著作権法では、著作権侵害となる利用行為が定められており、例えば、複製はこの様な利用行為なので、著作物を複製すれば著作権侵害になります。もっとも、この様な利用行為をしても著作権侵害とならない例外的な場合についても、著作権法には定められています。「引用」もこの例外的な場合です。「引用」について、詳しくはこちらの記事を御覧ください。

こちらの記事では、「論文などを執筆する際に、書籍や雑誌などの他人が作成した著作物の一部を自己の著作物に取り込む場合があり、これを『引用』と言います。」と記載しています。所定の条件を満たす「引用」であれば、他人の著作物の一部を自己の著作物に取り込んで利用しても著作権侵害にはなりません。

引用する際に、他人が作成した著作物が外国語で記載されているときに、日本語に翻訳したい場合があると思います。また、他人が作成した著作物が長いときに、要約したい場合もあると思います。

翻訳して引用(以下「翻訳引用」と記載します)したり、要約をして引用(以下、「要約引用」と記載します)しても、著作権侵害にならないのでしょうか?

引用するときに翻訳したり要約しても著作権侵害になりませんか?

翻訳引用してもよいか


翻訳引用をして利用しても、著作権侵害にはなりません。その理由は、著作権法では、翻訳をして引用してもよいことが明確に定められています。

要約引用してもよいか


元の表現内容が分からないくらい、要約して全然違う表現になっている場合には、そもそも、要約引用をして利用しても、他者の著作物を利用していることにならないので、著作権侵害にはなりません。

もっとも、要約した表現に元の著作物の特徴が感じられる場合(著作物の表現上の本質的特徴を直接感得させる場合)には、要約引用をして利用したら、他者の著作物を利用していることになります。この様な要約は「翻案」となります。著作権法では、上述したように、翻訳引用してもよいことが明確に定められていますが、翻案して引用してもよいと定められていません。従って、要約引用をして著作権侵害と判断されるリスクがあります。

もっとも、裁判例では、要約引用について著作権侵害とはならないと判断されているものがあります。

「血液型と性格事件(平成7年(ワ)6920号)」では、「引用が原著作物をそのまま使用する場合に限定されると解すべき根拠はない」ことや、要約せず原文のまま引用するのでは他人の著作物の全部又は広範囲な部分の複製を認めることになり、その方が著作権者に与える不利益が大きくなる場合があること、一定の観点から要約したもので十分であり全文引用する必要がないこと、等の理由から、要約して引用することは著作権侵害にはならないと判断しています。

「本多勝一反論権事件(平成4(ネ)765号)」では、「引用」には、「全部引用」、「一部引用」、「要約」が含まれると判断しています。すなわち、「引用」には「要約」が含まれるため、著作権法で翻案して引用してもよいと定められていなくても、要約引用は著作権侵害とならないとされています。

同一性保持権の侵害になるか


著作者には、著作物の内容とタイトルを、意に反して(意に沿わないのに)無断で改変されない「同一性保持権」という権利があります。この「同一性保持権」は、著作権とは別の著作者人格権という権利の一種です。「著作者人格権」について、詳しくはこちらの記事を御覧ください。

要約引用の場合に、元の著作物に変更が加えられるため、この同一性保持権の侵害にはなるかどうかも、考える必要があります。この点についてですが、上記「血液型と性格事件(平成7年(ワ)6920号)」では、著作権法「第43条の適用により、他人の著作物を翻訳、編曲、変形、翻案して利用することが認められている場合は、他人の著作物を改変して利用することは当然の前提とされているのであるから、著作者人格権の観点でも違法性のないものであることが前提」と判断され、要約引用が所定の引用の条件を満たせば、「やむを得ないと認められる改変」であるとして、同一性保持権侵害にはならないと判断しています。なお、著作権法第43条は、現第47条の6に相当します。

まとめ


上述したように、翻訳引用については、著作権法では、翻訳をして引用してもよいことが明確に定められているため、所定の引用の条件を満たせば、著作権侵害になりません。一方、要約引用については、翻案して引用してもよいと定められていませんので、著作権侵害になるリスクがあります。裁判例で要約引用が認められているものがありますので、認められる可能性もありますが、著作権侵害を避けたい場合には、要約引用は行わない方がよいかもしれません。

令和6年度 日本弁理士会著作権委員会委員

弁理士 竹口 美穂

※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。

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