利用したい著作物があるのですが著作権者が不明。どうすればいい?
1.裁定制度とは?
・「権利者が誰だか分からない」
・「(権利者が誰か分かったとしても)権利者がどこにいるのか分からない」
・「権利者は亡くなりその相続人が誰でどこにいるのか分からない」
このような場合に、権利者の許諾を得る代わりに文化庁長官の裁定を受け、通常の使用料額に相当する補償金を供託することによって、適法に他人の著作物を利用することができます。
2.裁定制度を利用するための前提
この制度は、権利者が不明な場合に利用することができる制度ですので、権利者と連絡を取るための「相当の努力」を払っても権利者と連絡することができない場合であると認められる必要があります。
「相当の努力」を払っても権利者と連絡することができない場合とは、
(1)権利者と連絡を取るために必要な情報(著作権者等の氏名、名称、住所、居所等。以下「権利者情報」という。)を取得するための所定の措置をとり、
かつ、
(2)取得した権利者情報や保有していた全ての権利者情報に基づき、権利者と連絡するための措置をとったにもかかわらず、権利者と連絡することができなかった場合をいいます。
3.具体的にとるべき措置
(1)権利者情報の取得
次のアからウの全ての措置をとり、著作権者の情報収集をします。
ア 広く権利者情報を掲載していると認められるものとして、文化庁長官が定める刊行物その他の資料を閲覧すること。
具体的には、以下の(i)か(ⅲ)のうちいずれか適切な方法を選択します。
(i)著作物等の種類に応じて作成された名簿その他これに準ずるものの閲覧(例えば、文化人名録、文藝年鑑等で適切なものを少なくとも1冊以上図書館等で参照して、権利者情報を調査)
(ⅱ)広くウェブサイトの情報を検索する機能を有するウェブサイトでの検索(例えば、Yahoo!Japan、Googleなど少なくとも一種類以上のインターネット上の検索サービス等)
(ⅲ)過去になされた裁定に係る著作物等について、再度裁定を受けようとする場合は、文化庁のウェブサイトに掲載された過去に裁定を受けた著作物等のデータベースでの検索(「著作権者不明等の場合の裁定実績オンライン検索データベース」)
イ 著作権等管理事業者その他の広く権利者情報を保有していると認められる者として、文化庁長官が定める者に対し照会すること。
具体的には、裁定を受けようとする著作物が過去に裁定を受けたものでない場合は、以下の(ⅰ)及び(ⅱ)を照会する必要があります。裁定を受けようとする著作物等が過去に裁定を受けたものである場合は、(i)から(ⅲ)のうちいずれか適切なものを選択することが可能です。
(ⅰ)著作権等管理事業者等への照会(例えば、音楽の場合は一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC))
(ⅱ)同種著作物等について識見を有する者を主たる構成員とする法人等への照会(例えば、当該著作物等の分野にかかる著作者等が加盟する著作者団体)
(ⅲ)文化庁長官への照会(具体的には、裁定実績オンライン検索データベースの検索)
ウ 時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙への掲載その他これに準ずるものとして文化庁長官が定める方法により、公衆に対し広く権利者情報の提供を求めること。
具体的には、日刊新聞紙への掲載、または、公益社団法人著作権情報センター(CRIC)のウェブサイトに7日間以上の期間継続して掲載することです。
(2)権利者への連絡
上記の措置により取得した権利者情報や元々判明していた情報に基づいて、権利者に連絡する必要があります。住所が判明している場合は、訪問や書面を郵送等で送付する、電話、メールなどで連絡をします。連絡先以外に権利者に関係すると思われる情報が判明している場合は、関係する情報に基づいて連絡先を特定するための調査等を行う必要があります。
4.裁定制度の手続き
相当の努力をした場合であっても、権利者が見つからない場合は、裁定申請書および所定の添付書類を作成し、文化庁著作権課へ提出します。提出された申請書類等に基づいて文化庁長官が裁定の可否を判断し、結果が申請者にメールで通知されます。裁定の可否の決定を受けるまでの標準処理期間は、約2か月とされており、裁定がされた後、定められた補償金を供託所に供託することで著作物の利用が可能になります。裁定がされる前から著作物を利用したい場合は、文化庁長官が定める額の担保金を最寄りの供託所に供託するなど所定の手続きを行うことにより、裁定がされる前から利用が可能になります(申請中利用制度)。
裁定申請を希望する場合は、文化庁のホームページで「裁定の手引き」を参照した上で、申請前に文化庁担当者に相談するか、ご不明な点がございましたら弁理士にご相談ください。
参考:文化庁 著作権者不明等の場合の裁定制度
:オーファンワークス実証事業
令和5年度 日本弁理士会著作権委員会委員
弁理士 田中 かおり
※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。
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