著作権侵害があったときの初動対応とリスク
はじめに
クリエイターの皆さんがイラストや写真などの創作をした際、多くの人に見てもらおうとSNSに投稿することは少なくないと思います。本記事では、SNSを眺めていたら、自分の作品とそっくりな作品が見ず知らずのアカウントから投稿されていた…そんなとき、どのような対応をとることができるのか、また、その際の注意点を見ていきたいと思います。
侵害があったときに求めていけること
創作した作品が著作物である場合、それを創作した人はその作品に対する著作権を有します。著作権を有していますと、その著作物を利用するのであれば許諾を得るよう求めることができます。著作権は、その著作物の利用を独占できる権利だからです。当初無許諾で利用していたとしても、あとから契約を締結することもできますので、無断利用者に利用を継続してもらって構わないという場合、まず、その者と契約を結ぶよう求めていくという進め方があります。
もし利用をして欲しくないと考える場合、著作物の無断利用は、要件を満たせば著作権侵害ということになりますから、その第三者に対し、その侵害行為の中止を求めたり、その予防に必要な行為を求めたりすることができます。また、その侵害行為により損害が発生していれば、損害賠償を求めることもできます。
これらの請求は、裁判によって求めていくこともできますが、実際には裁判にまでならず、当事者間の話し合い・交渉でまとまるということも少なくありません。
侵害の判断
著作物を無断で利用しているように思えたときに、それが法的にも無断利用と言えるか、また、それが著作権侵害と言えるかについては、慎重な検討が求められます。
大雑把に言いますと、少なくとも①その作品が「著作物」と言えるか、②自らが著作権を有しているか、③他人の行為が著作物を「利用」するものか、④その利用が「無権原」であるか、⑤著作権が制限される場合でないか、といったことについて考える必要があります。
例えば、イラストについて考えてみますと、たとえ自らが作品だと考えるものであっても、単に筆で円を描いただけのようなものなど、それが法的な評価として「著作物」に該当しなければ著作権による保護は与えられません。写真は著作物である場合が多いと言われていますが、誰が撮ってもそうならざるを得ないようなものは創作性が認められず著作物ではないという判断もあり得ます。また、グラフ等の図表も、一概に著作物と言えるかは検討の余地があります。ですから、保護を求めるものがそもそも著作物なのかというのは、非常に重要な検討要素ということになります。
また、自らが著作権を有しているかというのも見落としがちな点です。クライアントワークの場合、著作権をクライアントに譲渡している場合がありますし、所属する会社における仕事として創作した作品である場合、そもそも自らが著作権を有しないという場合もあります。
保護を求める「それ」が著作物であって、自らが著作権を有していたとして、次に、その他人がやっていることが、著作権法に定められている「複製」とか「翻案」とか、あるいは「公衆送信」といった「利用」に該当する必要があります。SNSでの無断投稿を発見したのであれば「公衆送信」には該当しそうですが、自らの投稿をインラインリンクで投稿している場合など、一層の検討が必要な場合もあります。
法律上の利用があったと言えたとしても、これに加えて、その人が正当な法律上の原因を有していないか(無権原であるか)ということも要注意です。著作権というのは、他人が自己の著作物とそっくりな著作物を先に創作していたとしても、自ら独自に創作していれば各々が著作権を取得することができるという意味で相対的な権利です。このため、その他人が、その作品を既存の著作物に触れることなく独自に著作物を創作したとすると、その人も適法な著作権者であることになります。また、時系列を確認してみると、他人の創作の方が自らより先行していた、なんてこともないとは限りません。あるいは、別の正当な権利者からライセンスを受けていたということもないとは言い切れません。このため、一見すると無断利用に思えても、実は正当な権原を有して利用していたということもあり得ますので慎重な対応が望まれます。
さらに、その他人の利用が、著作権法にいう「引用」や「時事の報道」といった著作権が制限される場合に該当しないかも検討する必要があります。著作権が制限される場合というのは、著作権法に事細かに規定されていて、具体的に検討していく必要があります。弁理士の著作権情報室でも、例えば以下の記事で紹介していますのでご覧になってみてください。
・社内での著作物の取り扱い注意事項
https://www.innovations-i.com/copyright-info/?id=79
・~研究論文に記載されたデータの「引用」について~
https://www.innovations-i.com/copyright-info/?id=121
・美術の著作物と権利制限
https://www.innovations-i.com/copyright-info/?id=128
いきなりSNSで晒して良い?
このように、著作権侵害かどうかの判断は多くの要素を総合して検討する必要があり、一見すると侵害されたように思えても、実は権利侵害を構成しないということもしばしばあります。このため、自らの作品がSNSで勝手に投稿されている自体に遭遇した際に、つい頭に血がのぼって晒してしまうと、晒した側が誹謗中傷を行ったことになりかねませんし、当事者が(イラストレーター同士など)競争関係にある場合、結論として侵害の事実がなかったという場合に不正競争行為(虚偽の事実の流布)ともなりかねません。
競争関係にある他人が著作権を侵害したとSNS等で晒す行為は、その態様次第では名誉毀損等を理由として300万円以上の損害賠償請求を受けることもありますので、くれぐれも注意が必要です(東京地判令和5年10月13日令和2年(ワ)第25439号等参照)。
とかくSNSは炎上しやすい媒体ですが、権利侵害を問いかけてみたらブーメランのように返ってくることもあります。本当に権利侵害行為があるのであれば、晒すとこなく淡々と責任を追及していけば救済されるわけですから、晒すことのメリットというのはあまりない(むしろブーメランのリスクを考えるとデメリットの方が大きい)と言えるでしょう。
よって、著作権侵害をされたと感じたとしても、SNSで晒すというのは控えた方が良いと言えます。
匿名アカウントなら晒しても安全?
そうは言っても匿名アカウントであれば前記したリスクが減らせるのではないかと思われる方もいるかもしれません。しかし、仮に匿名アカウントであっても、そのアカウントによって権利侵害をされた側は、その権利侵害を根拠として、サービスプロバイダに発信者情報情報の開示請求をすることができますので、匿名ならバレないということはありません。「いずれバレる」と考えておくべきです。
むしろ、相手方が匿名アカウントで著作権侵害をしてきたとしても、プロバイダに対して情報開示請求を行い、手続きに則って救済を求めることができると理解し、冷静な対応が望ましいと言えます。
取引先に情報提供して良い?
同業者間ですと、取引先が共通することもあり得ますが、自らの作品が無断で利用されたとして著作権侵害があったということを、侵害を疑われている者(被疑侵害者)以外の人に伝えても良いのでしょうか。
当事者が(イラストレーター同士など)競争関係にある場合には、もし侵害の事実がなかった(虚偽であった)とすると不正競争行為(虚偽の事実の流布)に該当することは前述のとおりです。不正競争防止法には、「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」が不正競争行為であることを定める条文が規定されています。これに該当してしまうと、差止請求のみならず損害賠償請求を受けることもあります。侵害の事実が不確定な状態で取引先等に情報を開示し、後から侵害の事実がないことが明らかになると、当該情報開示が競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知ないしは流布に該当するとして、遡って不正競争行為だったということになるリスクもありますので、著作権を侵害されたと感じても、あくまでも当事者間でのやり取りにとどめ、取引先をはじめとする第三者に情報を開示することは控えるべきです。
まとめ
以上、著作権侵害があったと思われるときの初動対応とリスクについて概観しました。著作権侵害に対しては迅速・的確な対応が求められますが、その判断は容易ではありませんし、対応を誤ると自分に跳ね返ってくることもありますので、専門家に相談しながら適切に対応することを心がけると良いでしょう。
令和6年度 日本弁理士会著作権委員会委員
弁理士 伊藤 大地
※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。
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