ゲーム実況と著作権
ゲームとゲーム実況
インターネット上の配信プラットフォームにおいて、ゲーム機やPCのゲームをプレイする画面を配信しながら、配信者がコメントを加えていく「ゲーム実況」が広がっています。今回は、ゲーム実況と著作権について説明します。ゲーム機やPCのゲーム(ビデオゲーム)は動画的要素が必要ですが、著作権法では、一般に映画の著作物にあたります。したがって、ゲームのプレイ画面を権利者の許諾を得ずに配信プラットフォームにおいて配信することは公衆送信権侵害(著作権侵害)にあたりえます。そうすると、ゲーム実況には、権利者の許諾または権利制限規定の適用が必要ということになります。
「引用」の適用は難しい
もっとも、著作権法の定める引用にあたれば著作権者の許諾は不要ですが、引用にあたるかどうかは、伝統的には、①明瞭区別性(引用側と被引用側が明瞭に区別されていること)と②主従関係(引用側が主、被引用側が従の関係にあること)によって判断されてきました。ゲーム実況ではプレイ画面・ゲームのサウンドと実況者のコメントの区別は明確な場合が多いと思います。ここからは、5分ゲームをプレイして20分コメントするというようなことであれば主従関係も満たすことができる場合があると思われ、引用の権利制限が適用されうるかとも思われますが、実況という以上はそのようなことはあまりないため、結論としては、主従関係を満たすのは難しいと思われます。
ゲーム会社の「ガイドライン」
権利者であるゲーム会社(パブリッシャー)にとっては、ゲーム実況は、ゲームの魅力を視聴者に伝える効果があり、その配信からファンの交流や宣伝効果などの利益を受ける部分も大きいといえます。他方で、ゲームのストーリーや重要な映像(たとえばエンディングやラスボス等)を公開されてしまういわゆる「ネタバレ」の不利益もありうることから、促進する方向と規制する方向の両面で自身の保有するゲームの利用をコントロールしようとする傾向がみられます。
そのようななかでゲーム会社は、ゲーム実況を含む利用に関する「ガイドライン」を掲げるところが増えています。たとえば、任天堂は「ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」を公開しています。そこでは「個人であるお客様は、任天堂のゲーム著作物を利用した動画や静止画等を、営利を目的としない場合に限り、投稿することができます。
ただし、別途指定するシステムによるときは、投稿を収益化することができます」とした上で、原則として発売日以降のものについて利用が可能である旨や、「任天堂は、Nintendo Switchのキャプチャーボタン等の機能を利用する場合を除いて、お客様ご自身の創作性やコメントが含まれた動画や静止画が投稿されることを期待しております。お客様の創作性やコメントが含まれない投稿や任天堂のゲーム著作物のコピーに過ぎない投稿はご遠慮ください」のような利用の態様についての希望を述べています。
KADOKAWAも「KADOKAWA販売タイトルのゲーム実況ガイドライン」を公開し、「当社は、いわゆるゲーム実況、ゲーム紹介の動画など、お客様による創作、コメントを対象ゲームの映像に付加して作成した動画や静止画がインターネット上に投稿されることを望んでおります。」とした上で、「ネタバレを含む映像を投稿する場合は、他のお客様が楽しいゲーム体験を損なわないよう、ネタバレを含むことを明示するなど、配慮をお願いいたします。」としています。
ガイドラインによるのではなく、システムによるコントロールもなされています。PlayStaion5においては、ゲーム本体に配信のための機能があります。この機能においては、「ゲームソフトによってはコンテンツ側で配信できないシーンが設定されている場合があります。」とされていて、基本的には配信を促しつつ、「ネタバレ」を防ぐ等のコントロールが可能な仕組みとなっています。
配信者に刑事罰の事例も
報道によれば、2023年9月、仙台地裁において、アドベンチャーゲーム「STEINS;GATE比翼恋理のだーりん」のストーリーやエンディングがわかる、いわゆる「ネタバレ」の動画を権利者の許諾を得ずにYouTubeにおいて配信した者が、著作権法違反の罪に問われ、懲役2年、執行猶予5年、罰金100万円の有罪判決を受けたとされています。これは、「ゲーム実況」ではなくいわゆる「ファスト動画」と同様のもののようですが、ゲーム実況でも同様の問題は生じうるものと思われます。
我が国においては、著作権法の民事訴訟はあまり多くなく、このような事例について権利者側が刑事事件化を促すことにより権利の回復をはかる傾向があります。
個別のものについては判断が難しいものも
このように、「ゲーム実況」については、PS5の配信機能のようなものを除けば多くが権利者の許諾の範囲については各権利者の「ガイドライン」によって規律されています。個別の配信について許諾を受けるわけではないため、各配信が許諾の範囲内であるのかどうかについて、配信者側において判断するのは必ずしも簡単でない場合もありえますが、ゲーム会社もガイドラインにおいてはある程度緩やかに利用のバランスをとろうとしていると思われます。他方で、「ファスト動画」と同様のデッドコピーや明確な「ネタバレ」動画については刑事事件化によって救済を得ることもありうるといえます。
令和5年度 日本弁理士会著作権委員会委員
弁理士・弁護士 竹内 亮
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