第3回
最近の新入社員は社会の基本ができていない
パケットファブリック・ジャパン株式会社 奥野 政樹
「最近の若い奴らは社会の基本ができてないのが多いから、新入社員は一からよく教育しなければならない。」そういう声をよく聞くが、僕には今一つよくわからない。「社会の基本」とは一体何なのだろうか。僕ももう30年近く社会人をやっているが、あらためてそう問われると、答えに窮してしまう。敢えて言えば、「仕事を真面目にやる。」これかなと思う。それ以上でも、それ以下でもない。
あとの研修科目は、殆どが礼儀作法の話である。これは、本当に社会の基本なのだろうか。よく「仕事ができる人、社会的に高い地位にいる人は、まずこういう 基本的なことをおろそかにしない」と主張している人がいるが、こういう人は、明らかに現実を見ていないと思う。僕も詳細にデータをとったわけではないが、 仕事ができる人、社会的地位の高い人で、礼儀作法ができているとは思えない人は枚挙にいとまがない。特に時間管理などにおいては、いわゆる上に行く人に は、わざと時間に遅れることで自分の多忙ぶりと存在価値をアピールしているとしか思えない人も少なからずいる。
礼儀作法はできた方がよいし、まとめて学習するには、社会に出るという大きな環境変化は絶好の機会なのだろうから、新入社員研修の材料とすること自体を僕 も否定するものではないが、やはり、これらが「社会の基本」と言えるほど重大なものとはとても思えない。ここは相当程度はずしても、仕事には大した影響を 与えないというのが現実なのである。
なので、社員を育てていくにあたって礼儀作法についてあまりにこだわるのはよくないであろうし、「礼儀作法こそが世の中の基本である」などと教えれば、まったくもって説得力を欠き、社員の心が離れることは火を見るより明らかである。
子供は厳しく躾けないといけないということを言う人がよくいるが、僕はこの「躾ける」という言葉が大嫌いである。躾と言うのは、ペットや家畜を主人が扱い やすいように矯正することではないのか?本来の言葉の意味としてどうなのかはわからないが、少なくとも僕には、子供を躾けるというのは、親や世間が扱いや すいように子供を矯正するということを言っているように聞こえる。
幼いうちは、 子供は親なしには生きていくことができない。したがって、親というのは子供にとって自らの生殺与奪を握る神である。神たる親が、信賞必罰、つまりアメとム チをもってすれば、子供を躾けることは比較的簡単にできる。ご挨拶も大きな声でするようになるだろうし、毎日定時がくれば寝るようにもなるだろう。しかし これが度を越えてくると、親子の間に主従関係が生まれ、子供は親の動向と感情の変化だけに心を奪われて、それ以外のことに時間をかける心の余裕は失われて しまう。そうなると子供というのは、家ではいい子なのに外では問題行動の多い子になってしまったりもするのである。
子供が学ばなければいけない人生の基本、それは、人生は楽しいということである。親はまず子供に、それを徹底的に教えなければならない。礼儀作法は、その 後にくる問題である。一度人生が楽しいということを知ってしまった子供というのは、親がいくら礼儀作法を説いても、もうそれをそのままは受け止めない。常 に懐疑的な目で、現実との対比を行い、その礼儀が人生の喜びを維持していくうえで本当に必要なことなのかを判断してくる。違うなと思えば受け入れない。そ れでいいのである。
仕事でも同じことだ。社員にはまず、仕事は楽しいものである ということを教える必要がある。改めて考えてみると、「仕事が楽しい」これこそが社会の基本である。それさえわかってしまえば、後はその楽しみを維持する ために、自ずと正しい行動をとるようになるということだ。仕事が楽しい条件は、やりがいと、良い仲間がいることだ。したがって社会の基本研修とは、この2 つを社員に提供することに他ならないと僕は思う。
プロフィール
パケットファブリック・ジャパン株式会社
代表執行役CEO 奥野 政樹(おくのまさき)
<略歴>
1988年 早稲田大学法学部卒業
1988年 日本電信電話株式会社入社
1992年 会社派遣によりニューヨーク大学法科大学院へ留学
1994年 ニューヨーク州弁護士資格取得
帰国後、数多くの国際M&Aプロジェクトで交渉を担当
2003年 インターナップ・ジャパン株式会社へ出向
2006年 同社代表執行役CEOに就任
2024年3月29日 パケットファブリック・ジャパン株式会社に社名を変更、現在に至る。
Webサイト:パケットファブリック・ジャパン株式会社
- 第6回 まとめ
- 第5回 協調ではなく協働しろ
- 第4回 コミュニケーションに逃げるな
- 第3回 最近の新入社員は社会の基本ができていない
- 第2回 業務に主体的に取り組ませたい
- 第1回 はじめに