第4回
大学入試の舞台作り
イノベーションズアイ編集局 広報アドバイザー 長野 香
今年1月18日(土)・19日(日)に実施された令和7年度大学入学共通テスト(以下、大学共通テスト)の志願者は495,171人、北海道から沖縄までの全国651会場で行われた。
約50万人の若者が受験する大学共通テストでは、「今年の試験日は好天に恵まれ、受験生が続々と会場に入っていきます」などのニュースが風物詩的に流れ、大学入試シーズンの到来を告げる。
大学共通テストに限らず、20歳前後の若者の運命を左右すると言っても過言ではない日本の大学入試は、無事に実施されて当たり前、小さなミス一つ許されない。受験生の緊張もさることながら、試験を実施する側にとっても、1年で最も緊張する時期だ。出題ミス、採点ミス、合否判定ミス、試験時間の間違え(短過ぎたり、長過ぎたり)、解答用紙の配布・回収ミス等、入試過誤はキリがない。さらに替え玉受験や最新の高機能機器によるカンニングなども想定される。
このため、試験実施に当たっては詳細なマニュアルがあり、試験監督者は監督用のこれまた詳細なマニュアルに沿って忠実に試験を実施することが求められる。監督者が居眠りをしたり、内職をすることは当然御法度、服装や靴音などにも注意を払う。
なかでも、大学共通テストの「英語リスニング」は圧巻だ。
大学入試センターのホームページには、「英語リスニング」試験は第一日目の17:20〜18:20、試験時間は1時間だが、音声問題の回答時間は30分で、残る30分は、回答前に受験生が試験用ICプレーヤーの作動確認・音量調節を行うために必要な時間、とある。
同ホームページにはICプレーヤー操作ガイドも公開されており、受験生が初めて手にする機器の操作に戸惑わないような配慮もなされている。
リスニング試験の試験監督は、故障が確認されたICプレーヤーの対応やリスニングに支障をきたす騒音が発生しないよう、神経をとがらせて監督業務をこなす。
大学共通テストでの英語リスニング機器不備のニュースは毎年何件か流れるが、何十万人もの受験生が全国各地で一斉に使用する機器が、この程度の故障やトラブルのみということ自体、驚異的ではないだろうか。
また、言うまでもなく、入試シーズンは降雪の季節だ。
今年の大学共通テストの2日間、東京都心部は穏やかな天候に恵まれたが、ひとたび降雪となれば、大学は凍結防止剤散布や除雪作業に取り掛かる。大幅な交通遅延が確認されれば、試験開始時間を繰り下げることもあるため、担当者の緊張が高まる。
入試時の降雪は、マスコミ、特にテレビニュースにとって格好のネタでもある。大学広報には「降雪準備は?」「受験生の数は?」「降雪の場合、テレビ中継させていただけないでしょうか?」などの取材問い合わせが急増する。小雪が舞う早朝、事前連絡も無くテレビカメラが校門前で構えていたこともあった。取材で入試に支障が生じることはあってはならない。寒空の下、その場で取材調整を行い、キャスターの質問に答え、撮影に立ち会った。
東京都心に限っていえば、大学共通テストの2日間は、たとえ悪天候でも公共交通の大混乱はかなり減った印象がある。運輸関連産業に従事される方々は、大学関係者と同じように天気予報に細心の注意を払い、場合によっては夜を徹して準備されているのではないだろうか。
自宅から離れた大学で試験を受ける受験生が利用するホテルなどの宿泊施設は「受験生応援プラン」などと銘打ち、加湿空気清浄機の設置や試験会場へのアクセス確認等々、様々なサービスを展開している。
大学近辺のコンビニや飲食店も入試当日の受験者数やニーズの把握が欠かせない。
毎冬恒例の大学入試は、高性能な機器製造や運輸関連はじめ多岐にわたる産業・社会サービスに従事する人々の正確かつきめ細かな仕事ぶりの上で成り立っていると言えるかもしれない。
厳冬の入試シーズン、大舞台に挑む若者の健闘を祈るとともに、その舞台作りに励む多くの人々の労に思いをはせる。
プロフィール
イノベーションズアイ編集局
広報アドバイザー
長野 香
静岡県沼津市出身。1986年3月立教大学卒業。
立教大学文学部ドイツ文学科資料室、国際センター等を経て2007年6月から立教大学広報課勤務。2013年6月から立教大学広報課長兼立教学院広報室長、2018年6月から立教大学総長室次長を務め、2024年3月退職。
一般社団法人 私立大学連盟での活動のほか、国立・私立大学等で広報業務に関する講演や寄稿、広報業務アドバイス等多数。
2024年5月よりイノベーションズアイ編集局広報アドバイザー。
- 第4回 大学入試の舞台作り
- 第3回 ベルリンの壁
- 第2回 旅への願い
- 第1回 不祥事に想うこと