中小企業の「シン人材確保戦略」を考える

第69回

2025年春闘:中小企業の挑戦と変革の時

一般社団法人パーソナル雇用普及協会  萩原 京二

 

1. はじめに

2025年の春闘シーズンが到来し、日本の労使交渉は新たな局面を迎えています。連合が掲げる「5%以上」という高い賃上げ要求は、日本経済に大きな変革をもたらす可能性を秘めています。

この賃上げ要求の背景には、長引く物価高騰への対応や、人手不足の深刻化があります。また、政府の賃上げ促進政策も、この動きを後押ししています。特に注目すべきは、中小企業に対する「6%以上」という更に高い要求です。これは、大企業と中小企業の賃金格差是正を目指す動きの表れと言えるでしょう。

しかし、この高い要求は、特に中小企業にとって大きな挑戦となります。本コラムでは、2025年春闘の動向を概観しつつ、中小企業が直面する課題と、その対応策について考察していきます。


2. 大企業の動向

2025年の春闘において、大企業の賃上げ姿勢は際立っています。三井物産、三井住友銀行、大成建設などの大手企業が、初任給を30万円以上に引き上げる方針を打ち出しています。特にファーストリテイリングは33万円と、前年比3万円の大幅な増額を実現しました。

これらの動きの背景には、優秀な人材確保への熾烈な競争と、政府からの賃上げ要請があります。柳井正会長が「世界水準で働く意欲や能力のある人材の抜擢」を明言するように、単なる賃金上昇ではなく、人材戦略の一環として位置づけられています。

大企業の積極的な賃上げは、日本の労働市場に大きな波紋を投げかけており、中小企業にも同様の対応を迫る状況となっています。


3. 中小企業を取り巻く環境

中小企業は、2025年春闘において、かつてないほど厳しい経営環境に直面しています。人手不足の深刻化、物価高騰、大企業との賃金格差拡大が、経営を圧迫する大きな要因となっています。

最低賃金の引き上げ議論も、中小企業に大きな影響を与えています。政府が目指す1500円への引き上げは、高卒初任給を25-27万円、大卒初任給を30万円以上に押し上げる可能性があります。これは、多くの中小企業にとって、人件費の大幅な増加を意味します。

みずほリサーチ&テクノロジーズの予測によれば、中小企業の賃上げ率は3.9%にとどまると見られており、大企業との格差は依然として大きいままです。この状況は、中小企業の人材確保をさらに困難にする要因となっています。


4. 中小企業の課題

中小企業が直面する最大の課題は、限られた経営資源の中で人材を確保・維持することです。大企業との賃金格差は、優秀な人材の流出を加速させる大きなリスクとなっています。

価格転嫁の難しさも深刻な問題です。多くの中小企業は、仕入れコストや人件費の上昇を取引先に十分反映できておらず、収益を圧迫しています。さらに、生産性向上の必要性も喫緊の課題となっています。

人時生産性を現在の3,373円から4,800円に引き上げるには、単なる効率化を超えた抜本的な経営改革が求められます。従来の働き方を見直し、デジタル技術の活用やビジネスモデルの変革が不可欠となっています。

これらの課題を乗り越えるためには、従来の延長線上にない戦略的アプローチが必要不可欠なのです。


5. 中小企業の対応策

中小企業が生き残るためには、積極的かつ戦略的な対応が求められます。まず、政府の支援制度を徹底的に活用することが重要です。業務改善助成金や賃上げ促進税制などの制度を最大限に活用し、設備投資や生産性向上に取り組むべきです。

具体的な対応策として、以下の方法が考えられます:

・デジタル化による生産性向上

・業務プロセスの効率化

・非金銭的待遇の充実(柔軟な働き方、キャリア支援)

・価格交渉力の強化

・従業員のスキルアップ支援

特に重要なのは、単なるコスト削減ではなく、従業員の価値を高める投資です。社員教育や成長機会の提供は、長期的な人材確保戦略として有効です。


6. 今後の展望

2025年以降の中小企業の未来は、イノベーションと柔軟な経営戦略にかかっています。単に賃金を上げるだけでなく、従業員の成長と企業の持続可能性を同時に追求することが求められます。

大企業と中小企業が共存共栄できる新たなエコシステムの構築が不可欠です。そのためには、政府の支援策、金融機関の柔軟な融資、そして企業間のネットワーク強化が重要となるでしょう。

デジタル技術の活用、働き方改革、生産性向上– これらを総合的に推進することで、中小企業は新たな成長の可能性を切り開くことができます。


7. まとめ

2025年の春闘は、中小企業にとって単なる賃金交渉を超えた、構造的な変革の機会となります。賃金、生産性、人材戦略を一体的に見直し、持続可能な成長モデルを追求することが求められています。

社会全体で中小企業を支援し、その潜在力を引き出すことが、日本経済の未来を左右する鍵となるのです。


 

プロフィール

一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二

1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。


Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会

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